社会課題に向き合う共通言語を身につけ、さまざまな人々と手を取り合いながら活躍を

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森川 美絵 MORIKAWA Mie

高齢者介護の領域を中心に、福祉社会学、社会政策学を専門に研究。2017年、総合政策学部総合政策学科教授に就任。2019年、「ダイバーシティセンター・フォー・インクルーシブリーダーシップ長」に就任。

津田塾大学は、『「変革を担う女性」の持続的育成を目指した「インクルーシブ・リーダーシップ研究」拠点の形成』を掲げ、文部科学省 平成30年度 私立大学研究ブランディング事業に採択されました。新たな拠点「ダイバーシティセンター・フォー・インクルーシブリーダーシップ」(DCfIL)でセンター長を務める森川美絵教授(総合政策学部総合政策学科)に、多様な人々が活躍できる社会の実現に向けた取り組みについて、話を聞きました。

社会的なテーマを「データ」で深掘りする

私は、福祉社会学を専門分野に、社会政策などを研究しています。福祉社会学は、単に恵まれない人を対象とするものではありません。ウェルビーイング(Well-being:よりよい状態)が社会の中で実現されているのか、実現されていないのか。また、そうである場合、どのような人たちが享受できていているのか、もしくは享受できていないのか。仮説を立てたうえで、社会学の手法で理論的に考えながら、実際にその通りになっているのかどうか、データでも検証します。

私の研究では、実際に地域に出向き、直接現地の人に話を聞きながら状況を整理していくこともあります。福祉というと幅広いですが、私は高齢者に対する支援や介護を研究の中心としてきました。ほかにも、生活に困窮する方を保護・支援する機関や団体を対象に、実態調査をしてきました。このように、さまざまな困難を抱えた人たちや、そうした人たちを支える組織と関わりながら、現状を把握したり、また、そもそもどうやったら現状を把握できるのかの方法論を検討したりしています。そのうえで、より望ましい社会のために、どのような選択肢があり得るのかを考えています。
 

近年、「課題先進国」とも称される日本の高齢化、介護など、私たちに身近なテーマを研究する森川先生。2年前、津田塾大学の教授に着任したきっかけや、津田塾のイメージは当初どのようなものだったのでしょうか。

“自ら切り拓いていく” 津田塾大学

津田塾大学からは「社会に出る女性を応援したい」というパッションを感じました。私の出身大学は共学でしたが、女性として、女性がいきいきとさまざまな想いを実現していくためのお役に立てればと。とくに、数ある女子大学の中でも、多くの“女性初”やリーダー、パイオニアを輩出してきた津田塾には「自ら切り拓いていく」ような、たくましいイメージがありましたね。

一般的に、活躍する女性というと、いわゆる「スーパーウーマン」「キャリアウーマン」みたいな人たちが表立ったロールモデルになりがちかもしれません。残念ながら、女性が生きていくうえでの困難や障害はまだまだ少なくありません。でも、もしかしたら、私たちが「もっと多様な価値観があっていいんだよ」と後押しをして支えれば、女性一人ひとりが自分の価値観と、そして、自分とは異なる価値観と向き合いながら勇気をもって自分らしい生き方を探り、多様な活躍の道を切り拓いていくことができるのではないか、そのお手伝いができるのではないかと思ったんです。

着任後も、津田塾のイメージは変わりませんでした。学生は非常に真面目だし、物事に対して真剣に取り組む姿がとても印象的。自分のことだけではなく、社会に対する意識が人一倍強い学生たちが大勢います。例えば、自分の経験や問題も個人的なこととして終わらせるのではなく、社会の問題や課題と照らし合わせながら考えてみる。個人的なことは、実は社会的なことと深く繋がっているんだという視点で、しっかり問題意識をもてる学生が多い環境だからこそ、より深い学びや気づきが得られ、多様な価値観を共有しながら高め合えるのではないかと思います。
津田塾大学は学内の学びだけではなく、全国のさまざまな地域と包括連携協定を結び、連携を深めていますね。具体的には、どのような取り組みをしているのでしょうか。

地域との連携から広がる“生きた学び”

実際に、問題意識をもつ学生たちは、さまざまな地域の人たちとつながり、手を取り合いながら地域の課題解決に向けた取り組みをしています。例えば、岩手県住田町とは2018年2月に包括的な連携に関する協定を結び、自治体の全面的な協力を得ながら現地での聞き取りや地元の人たちとの協働プロジェクトを進めています。こうした地域連携活動は、女子大学生ならではの視点で地方創生を考え、地域社会の課題解決に向き合える点でも意義があることだと感じました。都心部に比べ、地方では意思決定の場において、男性優位の傾向が強い面もまだあるようです。女性の声が排除されることなく、当たり前に地域づくりに活かされるためにはどうしたらよいのかと、問題意識をもつ学生もいます。

学生は地域に出向いて関係者からお話を聞き、最終的には町に対して提言までします。地域で見聞きしたものを一旦もち帰り、全国のデータと比較し、同じような課題について他の地域ではどのような取り組みをしているのか調べ……。真剣に悩み、考えながら、大学生の目線で現状を捉え提案をする、その姿こそが津田らしいなと思います。教員も驚くほどの熱量で、フィールドワークや現地での報告会に臨みます。発言する論拠としてのデータ収集もぬかりない。現地に何がお返しできるのかを常に話し合っている姿を見ていると、日頃の授業で学んでいるデータサイエンスと社会科学の知識がしっかり彼女たちの素地になっているのだと気づかされますね。
2019年2月には住田町で報告会を開催
地方の抱える課題の現状分析や今後の取り組みについて、学生が提言


創立以来、自立して社会に貢献できる女性リーダーを多数輩出してきた津田塾大学。文部科学省「私立大学研究ブランディング事業」において、『「変革を担う女性」の持続的育成を目指した「インクルーシブ・リーダーシップ研究」拠点の形成』が採択されました。一般的には「包摂的な」という意味で、近年オリンピック・パラリンピックや教育の場面でも聞く機会が増えた「インクルーシブ」という言葉。「インクルーシブ・リーダーシップ」とはどのようなもので、今後どのような場面で求められるのでしょうか。

多様性を包み込むような「リーダーシップ」のあり方とは

社会的な課題とその解決を考えるうえで、排除や、その対になる包摂という概念は重要です。特定の人が排除されない、多様な人々を包摂する社会を構想するとなると、リーダーシップのあり方も「包摂的」つまりインクルーシブなものになるのではないでしょうか。昨年度、文部科学省の「私立大学研究ブランディング事業」に選定されたことをうけ、本学として「インクルーシブ・リーダーシップ研究」に取り組んでいますが、私たちはインクルーシブ・リーダーシップを以下のように定義しています。インクルーシブ・リーダーシップとは、「すべての人々を包摂できるように発揮されるリーダーシップ」と、「これまで社会環境によって制約を受けてきた女性や障害者・高齢者が獲得しうるリーダーシップ」のことであると。

また、2019年3月に「ダイバーシティセンター・フォー・インクルーシブリーダーシップ」(DCfIL)が誕生しましたが、ここは、インクルーシブ・リーダーシップを備えた人材の育成に寄与する今までの津田塾の研究やこれからの取り組みをまとめて社会に発信、推進する拠点です。私は全体のまとめ役として、センター長に就任しました。なぜ大学がそのような拠点をつくったのかは、「Tsuda Vision 2030」とも関係します。創立以来、変革を担う女性を育成し、支えたいという想いを脈々と受け継いできた津田塾大学。その姿を世界に発信するうえでも、欠かせない拠点になると思っています。

ただ、「インクルーシブ・リーダーシップ」について学術的に確固たる定義があるわけではありません。その多様な内実やあり方を、私たちが研究していく中で柔軟に探っていければと思います。今まで排除されてきた人たちやいわゆる「マイノリティ」と言われる人たち自身が、当たり前に力を発揮していくために実現可能なモデルを考えていきたい。そのためにも、まずは女性がリーダーシップを発揮していくことについて、多様な視点で考えていきたいですね。2019年9月28日には、本学千駄ヶ谷キャンパスにて関連したシンポジウム「変革を担う女性であること」も開催されます。

「人生100年時代」と言われる昨今、一概に「女性活躍」と言っても、さまざまな生き方が描けると思います。「ダイバーシティ」という言葉がありますが、単に多様な人々が「一緒にいるだけ」にとどまることなく、共に交流し、影響を与え合い、活躍していくことで物事が進んでいく。困難や障害があっても屈することなく、しなやかに生き抜き、社会に貢献できるような人材の育成、それに資する研究の推進に力を注ぎたいと思っています。
それぞれのリーダーシップを発揮しながら、複雑な社会課題に向き合うために、今後どのような学びが求められるのでしょうか。

課題に向き合うための「共通言語」を身につけて

自身が求心力となり、さまざまな人々を巻き込んでいくような「インクルーシブ・リーダーシップ」を発揮していくためにも、やはり語学やデータ、社会科学といった「共通言語」は欠かせないでしょう。いまは数字やデータに苦手意識をもつ人もいるかもしれませんが、今後の社会を生き抜くための素養と覚悟して、臆することなく向き合ってほしいですね。また、多様な価値観を認め合いながら物事に触れ、根拠をもって提案することに少しでも関心がある方には、ぜひ津田塾大学にきてほしいなと思います。私も、そんな想いをもつみなさんと一緒に学びを深めていきたいです。
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