課題解決とは「答えのない問い」である

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萱野 稔人 KAYANO Toshihito

1994年早稲田大学卒業後に渡仏、2003年パリ第10大学で哲学博士号を取得。07年津田塾大学准教授、13年から教授。17年同大総合政策学部学部長に就任。著書に『国家とはなにか』『権力の読みかた—状況と理論』『暴力はいけないことだと誰もがいうけれど』など。

「課題先進国」といわれる日本で、少子高齢化をはじめとした現代社会のさまざまな問題に取り組むために、リーダーシップをもつ女性を育成する総合政策学科。同学科が育む「課題解決能力」への思いを萱野稔人教授に聞きました。

なぜ津田塾で「課題解決」なのか

課題解決能力がある女性こそが、いま必要だ。総合政策学部の根幹には、そんなアイデアがあります。そして、この考えに至った背景には、現代社会、とりわけ日本社会の変化があるのです。

20世紀の経済成長を前提とした社会が終わり、いまや世界は少子高齢化の時代に入りました。人口が減っていくという状況は、19世紀に生まれた近代国家という枠組みが体験したことがないものです。当然、これまでとは違った「課題」が生まれることになります。現代社会が直面しているのは、そんな新しい問題の数々なのです。

特に日本は先進国の中でも少子高齢化のスピードが速く、課題先進国といわれることがあります。例えば、少子高齢化や、財源不足、そして経済規模の縮小……。世界がいま直面している課題を、日本はいち早く体験しているのです。そんな新しい課題に取り組み、解決できるような人材、つまり課題解決能力がある人材を育成する必要が我々にはあります。

もちろん、課題解決能力を身につけなければいけない状況は、男性でも女性でも同じです。ただ、子育てと仕事の両立、高齢者のケアといった「新しい課題」を今まで担ってきたのは、女性だという側面もあります。この課題を社会として考えるうえで、これまで女性が担ってきた経験の蓄積が必要になる場面が、どんどん増えていくはずです。

「解決」に必要な3つの力を養うカリキュラム

ただ、課題解決能力といっても、その身につけなければならない力はさまざまです。まず他者とのやりとりの中で解決策を見つけなくてはいけませんから、コミュニケーション能力がなければならないでしょう。

また、新しい解決策を見つけるということは、新しい社会のルールや仕組みを作るということです。そのためには、グローバル化する世界の相関関係を把握し、交渉や提案を行う必要があります。となると、コミュニケーションには外国語も不可欠です。総合政策学科では津田塾大学がもつ英語教育の蓄積を実践的な内容に発展させ、スキルとしての英語力に重点をおいています。

さらに、社会の課題を認識するためには、政治、経済、法といった社会の仕組みを理解しなければなりません。社会の物事を決定する政治はどう動いているのか? 経済的な問題をいかに解決すべきか? 社会の根本的なルールはいかに定められているのか? これらの問いは社会科学が担ってきたものですが、過度に専門化した「研究のための研究」ではなく、課題解決に役立つような社会の認識をつくる必要があります。

そして、いまはどんな企業、政府、地方自治体でも、データに基づいて思考する必要があります。したがって、データを用いる力が不可欠になるでしょう。分析結果を読み込んで活用し、データに基づいて社会の課題を発見する。そのためには、データを「使う」力を身につけていくべきです。

ICTの発達によって、一昔前と比べ物にならないくらいデータがとれるようになり、さらにそれを活用するテクノロジーも発達しました。莫大なデータが社会にあふれているなかで、それをどうやって課題解決に活用できるか。データを扱うための基礎を、若いときから養わなければいけないのです。

総合政策学部では、以上のように、スキルとしてのコミュニケーション力、複雑化する社会を把握する力、そして未来に対応するためのデータ分析力を養えるカリキュラムを構築しています。 
総合政策学部カリキュラム

課題解決のために「意識」を育てる

課題解決のためには、座学だけではなく、問題に主体的に取り組む姿勢が何よりも大事になります。自分が当事者だという認識、そして自覚をもたないとそもそも課題を解決しようとは思わないはずです。

例えば、今後高齢者が増えれば、税を負担する人口の割合は減るため、国家の財政が厳しくなります。そうなると、国にも余裕がなくなります。実社会で、人々が家庭、企業、公共的なところなど、どこにいようが、自分たちに当事者的意識がないとなかなか課題解決は進まなくなっていくのです。

総合政策学科では当事者意識を養うために、実践の場にいる方々を大学に招いて授業を行ってもらったり、学生自身がその現場に行って課題の現場を間近にみる、自分も参加してみる、そういった授業形態をできるだけ取り入れています。現場にいる人たちと密に連携しながら、課題解決の具体的な局面を学生に学んでもらいたいと思っています。
 

真の「解決」のために

社会が抱える課題は、マジョリティの問題かと思えば、個人が抱えるものだったりと、さまざまに絡み合っています。それらを解決することは、社会の何らかの新しい枠組みを粘り強く考えていくことに他なりません。

もはや課題解決は、公共だけが担うものではありません。今は公共、企業、地域、家庭、どの分野でも課題解決の能力は求められています。それらすべてが協働しなければ、真の解決には至らないのです。フィールドを問わずに求められる課題解決能力を、それぞれの現場で生かせるようになってほしいと思います。

そもそも、課題解決は答えのない問いのようなものです。考えてわからなければ、誰かに聞けば答えがわかるというものでもないですから。
[ 文:矢代真也(編集者/ライター)]
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