津田梅子先生の掲げた「全人教育」の理念は
脈々と継承され、「ウェルネス館」へとつながっていく。

  1. HOME
  2. 津田塾のまなび
  3. 津田梅子先生の掲げた「全人教育」の理念は脈々と継承され、「ウェルネス館」へとつながっていく。

井上則子 INOUE Noriko

2026年3月、小平キャンパスの一角にウェルネス・センター事務室、医務室、カウンセラーが対応する相談室などの機能が集約され、新たな心身のサポート拠点としての活用が期待されるウェルネス館がオープンしました。
ウェルネス・センター長を務める学芸学部国際関係学科の井上則子教授に、同施設や津田塾大学におけるウェルネスサポートのお話を伺いました。

「ここに行けばいつでも守ってもらえる」という場所に

新設されたウェルネス館ですが、これはどのような施設ですか?

新しく完成したウェルネス館は、人と人、人と自然をやさしくつなぎ、キャンパスに新たな安心と温もりをもたらす場所であり、木の温もりを大切にした施設です。本学のウェルネス・センターには50年以上の歴史がありますが、これまでの活動や健康余暇科学の授業が評価され、大学が「ウェルネス」の大切さを理解しているからこそ、独立した建物に機能を集約することができたと思っています。

ただ学生の皆さんには、それほど大きなトピックとしてではなくて、「へー、そんなのができたんだ」ぐらいの感覚でいいかなと思っています。というのも、この施設は是が非でもいろんな人に使ってもらいたいという性格の施設ではないからです。それよりも学生や教職員の誰かが、困った時、悩んだ時、苦しい時、うれしい時、いつどんな時でも、何かあれば立ち寄れる。そのような場であるべきだと考えているからです。大々的に存在をアピールする施設ではないけれども、いざという時に「ここに行けばいつでも守ってもらえる」という受け皿、寄り添ってもらえる温かな場所が学内にある。そのことが極めて大事で、それがこのウェルネス館の意義であると感じています。

ウェルネス・センターにはどのような歴史があるのですか?

ウェルネス・センターの前身である「保健センター」ができたのは1971年で、1934年に津田英学塾を卒業された村井孝子先生が初代のセンター長を務められ、本学の健康・ウェルネス教育を推進されました。当時、大学に設置されているこうした施設は「保健管理センター」などと称することが多かったのですが、本学では学生の心身を「管理」するのではなく、一人ひとりのライフスタイルに目を向け、学生や教職員が主体的によりよく生きていけるようにサポートしていくことを重視している、それが名称にも現れていたのだと思います。

その流れから、一般的な「健康」の概念を超えてサポートしていくことをより明確にしようと、1996年に「ウェルネス・センター」と改称し、今年(2026年)で30周年を迎えました。このように津田塾大学では、以前から学生や教職員が自分らしく健やかでいられるような環境整備に力を入れてきました。

津田梅子先生の掲げた理念に通じる「ウェルネス」の思想

津田塾大学で「ウェルネス」を大事にした教育を長く続けてきているのはなぜなのでしょうか。

 津田塾大学が「ウェルネス」を重視する理由は、創立者・津田梅子先生が掲げた「全人教育」の理念に深く根ざしています。津田先生は 「英語を専門に研究して、英語の専門家になろうと骨折るにつけても、完き婦人となるに必要な他の事柄を忽せ(ゆるがせ)にしてはなりません。完き婦人即ちall-round womenとなるよう心掛けねばなりません。」という言葉を残しています。

本学で学ぶ学生にとっては、大学時代に培った質の高い専門性に加え、オールラウンドな人間力を備えることが、変化の激しい社会で新たな可能性を切り拓く力になります。専門性を十分に発揮するためには、豊かな人間性と心身の健康という土台が不可欠なのです。そのため、本学では、学生一人ひとりが自分らしく主体的によりよく生きていくための「ウェルネス」を、語学教育や専門教育と同等に大切なものと位置づけています。 

病気や怪我がないことをイメージする一般的な「健康」と「ウェルネス」の概念はどう違うのでしょうか?

 「ウェルネス」とは、単に病気ではない状態を目指すものではありません。この言葉が提唱されはじめたのは1960年代のアメリカで、人間の生き方の質(Quality of Life)に関わるものだとされています。「健康」は一定の状態を示していますが、「ウェルネス」は主体的によりよく生きるという現在進行形のプロセスを意味しています。また「ウェルネス」の概念は身体的、精神的、情緒的、社会的、知的、職業的という6つの要素から成り立っています。
参考(https://www.wellnessalliance.org/resources-and-tools/six-dimensions-of-wellness)
たとえば「食べる」という行為一つをとっても、おいしいものを食べて気持ちを切り替える(精神的)、家族と一緒に食べると安堵する(社会的)、栄養の知識で病気を予防する(知的)など、複数の要素が関わり合って「ウェルネス」を成立させていくことがわかります。心と身体を切り離さず、これら6つの要素をバランスよく育むことで、全人的な成長を目指すのが「ウェルネス」の考え方であり、それは津田塾大学が目指す「全人教育」の理念にも深く通じています。

プロセスを大切にすることこそが津田塾の学び

先生が学生に「ウェルネス」を教えるうえで大切にされているのはどのようなことですか?

学生にまず「あなたはありのままでいいんだよ」というメッセージを届けたいと思っています。

第一志望ではないけれど入学したという人もいるかもしれませんが、それでも、最終的には自分で選択して津田塾大学に入学してきたわけです。そうであれば、津田塾大学で学ぶという現実を受け入れて、理想を現実に寄せてくることが大切です。だからこそ「ここにいていいんだ」「ここなら大丈夫なんだ」と思ってもらえる体制を私たちは整え、そう思えるようになるためのプロセスを通じて「ウェルネス」を育み、一人ひとりがよりよく主体的に生きていけるようにサポートすることを大切にしています。

「ウェルネス」は主体的に学び、よりよく生きるプロセスをサポートする考え方なのですね。

理想と現実を近づけていくという話をしましたが、はっきりとした理想、正確にいうと理想の自分などは、実際には誰にもわかりません。目の前のやるべきことに丁寧に集中して取り組んでいくことで、周りから評価され、「ありのままでいいんだ」という自分を肯定する 気持ちや「ここにいてもいいんだ」という自分の居場所が徐々に生まれていきます。そうした中で理想の自分が浮かび上がってくることもあれば、それがなかなか見えてこないこともあるでしょう。大学ではそうした「正解がない問い」に対して、自分なりに深く向き 合っていく「プロセス」こそが非常に大切であり、それこそが大学で得られる学びでもあります。

この大学での出会いがあなたにとっての「必然」に変わります

最後に、これから津田塾大学を目指す高校生や、進路に悩む高校生へメッセージをお願いします。

本学の学生は非常に真面目で、教員もそれに輪をかけて真面目です。この真面目さこそが、社会で活躍する確かな力につながっています。もしかしたら10代、20歳前後だと、真剣で誠実に頑張ることがちょっと恥ずかしいという感覚をもつ方もいるかもしれませんが、津田塾大学は照れずに真面目に頑張れる大学です。

大学に入学したばかりの頃は、新しい環境や周りとの比較で不安を感じることもあるでしょう。しかし、与えられた場、自ら選んだ学びの場で、目の前のやるべきことに丁寧に集中して取り組んでみてください。そうすることで必ず成果が生まれ、自分の居場所や自分らしさが見つかるはずです。もし立ち止まってしまうことがあれば、その時は私たちが労を惜しまず心身両面からサポートします。津田塾大学に入ることはもしかしたら「偶然」かもしれませんが、ここでの出会いが、あなたにとって「必然」だったと思えるような、豊かな4年間を過ごせるよう全力で応援します。


Copyright©2019 Tsuda University.
All rights reserved.