情報技術で描くのは、
誰もが楽しめる新しい「かるた」のかたち。

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丸山 礼華 MARUYAMA Ayaka

大学院 理学研究科

津田塾大学の情報科学科在学中は、「ヒューマンコンピュータインタラクション」の分野に興味をもち、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を用いた百人一首かるたのアプリを開発。大学院理学研究科に進学してからは、競技かるたの情報科学的支援をテーマとした研究開発に取り組んでいます。このテーマをより多面的に探求しようと、独立行政法人情報処理推進機構の2023年度「未踏IT人材発掘・育成事業」に応募し採択。そんな丸山さんに、津田塾の情報科学科で学ぶ意義や現在の研究にかける思いを語っていただきました。

理系でも、女性のロールモデルが多くいる環境に惹かれた

津田塾大学を志望した理由をお聞かせください。
津田塾を知ったきっかけは、高校の先生からの勧めです。「卒業後に社会で活躍している女性が大勢いる」と聞いて興味をもちました。女性のロールモデルが多くいる環境は、理系に進もうと決めていた私にとって、とても魅力的でした。少人数教育が特色だと知り、「ここでならきめ細やかに指導してもらえそう」と思ったことも決め手のひとつです。津田塾の中でも学部・学科選びには迷ったものの、最終的に情報科学科を選んだのは、技術の進歩が著しい分野であるところに惹かれたからでした。
入学して感じたことを教えてください。
「情報科学」という分野の中には多くの専門領域があり、まずその裾野の広さに驚かされました。もともと「プログラミングを学ぶのかな」という漠然としたイメージしかありませんでしたが、画像や音声の編集、機械学習などさまざまな領域が含まれていることにワクワクしたのを覚えています。

先生方が学生をていねいに見て、一人ひとりに合ったアドバイスをくださるのも印象的でした。授業中だけでなく、廊下ですれ違ったら声をかけてくださるので、気軽に質問しやすく、安心感がありました。学生同士の距離も近く、授業はいつもアットホームな雰囲気でした。これらは少人数ならではのよさだと思います。

日常のわずかな「もやもや」を、情報科学の目で眺めてみる

学部生の頃に印象に残っている学びについて教えてください。
「インタラクティブシステム」の授業が印象に残っています。例えば、キッチンにあるコンロのツマミやボタンの位置と、それらを操作したときに火がつく場所との対応づけは、注意深くデザインしないと直感的にわかりにくくなりがちです。 機能が同じでもデザインひとつで使いやすさが変わる。それを日常生活のひとコマから導き出すのがこの授業のポイントです。設計が人の行動に与える影響を考察し、さらに「設計を変えることで人の行動がどの程度、どのように変わるのか」を数値化して分析しました。日頃から当たり前のように目にするデザインが、どのような理論のもとに作られているのか。日常の中でうっかり操作を間違えたり、使いづらくてわずかなストレスを感じたりするような設計には、どのような原因が潜んでいるのか。これらをデータから紐解くことが面白くて「この分野をもっと極めたい」と思うようになりました。




いつでも、どこでも、誰でも楽しめるかるたを作りたい

 3年次には、かるたをテーマにしたAR(拡張現実)のアプリを制作したと伺いました。この取り組みの概要について教えてください。
「3年プロジェクト」という授業で制作したアプリです。先生からアドバイスをいただきながらコンセプトを練っていきました。私がかるたをテーマに選んだのは、高校生の頃にかるた部に所属していて親しみがあったからです。競技かるたで用いられる百人一首を例に取ると、始めるためには札が手元になければなりませんし、ある程度広いスペースも必要です。いつでもどこでもかるたを楽しめる方法はないか。そんな発想から生まれたのが、ARを使ったスマートフォンのアプリです。アプリを立ち上げると、画面上には、スマートフォンのカメラがとらえた実際の光景とバーチャルなカードが組み合わさって表示されます。リアルの空間をユーザーが手で払うことで、スマートフォンの画面上に置かれたカードを取ることができる仕組みです。アプリの制作自体が初めてだったこともあり、試行錯誤の連続でしたが、地道に作り上げていきました。
 
 「3年プロジェクト」を通じて、どのような成果が得られましたか。
 アプリを完成させたことがまずひとつの大きな成果でした。アプリを使ったクラスメートたちからも「面白いね」と反応は上々。コンセプト作りから実際のアプリの開発までやり遂げ、自信につながりました。このアプリを、ソフトウェアの開発コンテスト「ヒーローズ・リーグ」に出展したこともひとつの転機になります。新たな視点からフィードバックをもらえたり、他の参加者の作品から刺激を受けたり。自分と同じように情報科学に関心がある方々とのつながりができたことは大きな収穫でした。




外部からの支援を追い風に、研究がさらに加速する

学部を卒業後は大学院に進まれました。
はい。学部の1、2年次に学んだ知識がようやく3年プロジェクトでひとつの形になったことが嬉しくて、「ここでやめずにもっと情報科学を使ったものづくりを追求したい」と思ったのです。大学院では、習熟度に関わらず誰もが楽しめる対人ゲームの研究に取り組んでいます。かねてから「スキルの異なるプレイヤー同士がどうすれば対等に楽しめるのか」も私の大きな関心事でした。初心者でも健闘できる方法を探り当てたい一方で、露骨なハンディキャップを付すと競技そのものの面白みが半減してしまいます。互いにハンディキャップの設定を意識することなく、対戦に熱中できる場を、情報科学の知識を活かして作り出せないか。その糸口として、VR(仮想現実)を用いたアプローチを試みているところです。
 2023年度からは、外部機関の研究助成事業にも採択されました。
 はい。ありがたいことに、独立行政法人情報処理推進機構の2023年度「未踏IT人材発掘・育成事業」に採択いただきました。これは指導教員の栗原一貴教授に「意欲のある学生にぜひ挑戦してほしい」と勧められ、競技かるたシステムの開発をテーマとして応募したものです。採択されたことによって経済的な援助や専門的な助言を得られるようになり、いっそう開発を進めやすくなりました。一方で、外部から研究資金をもらいながら開発するからには、きちんと成果を出していかなければなりません。自ら責任をもってプロジェクトを推進することは大変ですが、主体的に開発に打ち込む充実感でいっぱいです。海外の学術論文を読むことも多く、学部生の頃に学んだ情報技術の知識や語学力が活かされています。
 


 

津田塾は、「作ってみたい」にチャンスとスキルを与えてくれる場所

今後の展望について教えてください。
 まずはVRの競技かるたを完成させること。これが第一の目標です。完成したVRアプリが実際に多くの方に受け入れられ、スキルに関わらずかるたを楽しむ人が増えれば嬉しいですね。さらにこの研究から得た知見を活かして、社会のさまざまな場面で生じる能力の差を埋めるシステムを生み出していきたい。それによって誰もが豊かに暮らせる社会づくりに貢献できればと思います。
津田塾で、情報科学を学ぶ意義とはなんでしょう。
 知識が身につくだけでなく「面白い」と思える学びに溢れていることです。「作ってみたい」という熱意があればきっと自らの手で作れるようになりますし、情報科学の学びは他の分野にも活かされます。私自身、津田塾でのカリキュラムのおかげでどんどん興味が引き出されました。身の回りのさまざまなものに使われているのも情報科学の大きな魅力。情報科学は本来、悩みを技術で解決するための学問ですから。まだこの学問になじみがない方は、身近な悩みに目を向けてみてください。解決の糸口として、情報科学が大きなヒントになるかもしれません。そこから情報科学の面白さに触れるチャンスを掴んでもらえたら幸いです。
※学年は取材当時のものです。
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