梅五輪プロジェクトをとおして身につけた人を動かす力

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増野 晶子 MASUNO Shoko

総合政策学部総合政策学科4年 2021年3月卒業

2017年に新設された総合政策学部総合政策学科第一期生の卒業生代表に選出され、卒業式で謝辞を述べた増野晶子さん。
授業以外の活動にも精力的に取り組んできました。さまざまな体験から得た津田塾ならではの学びについて、大学での4年間を振り返っていただきました。

東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場に世界で一番近いキャンパスから

高校生の頃、通っていた塾の先生に「学生一人ひとりにとても手厚く、面倒見のよい大学だから」「増野さんに絶対合うはずだから」と勧められて津田塾を志望しました。当時から毎日のように国際問題について学び、その解決策についてさまざまなプレゼンテーションを行う機会がありましたが、そのどれもが理論を追い求めるだけにとどまっており、具体的なアクションを起こせないことにもどかしさを感じていました。大学では、見つけた課題に対して、解決策を考え、提案し、実際に解決するための実践的な学びを得たいと思い、総合政策学科を選びました。

新たな学部の第一期生として何か大きなチャレンジをしたいという思いは入学当初から抱いていました。総合政策学部の学生が4年間学ぶ千駄ヶ谷キャンパスは、東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場である国立競技場から世界で一番近いキャンパスでもあります。私たちが大学4年生を迎える年に大会が開催されるというまたとないチャンスを生かしてアクションを起こそうと、入学して1週間後に「梅五輪プロジェクト」を立ち上げたのです。何もないゼロからのスタートで、プロジェクトの方針やコンセプトを定め、連携先や協力機関を探すところから手探りの状態だったため、実際に始動するまでには多くのの苦労がありました。しかし、学生同士でアイデアを出し合いながら検討を進めていくなかで津田塾生が地元の方々と協力してできることが少しずつ見えてきたのです。

津田塾大学 梅五輪プロジェクトとは

2020年に開催予定だったオリンピック・パラリンピックの会場である国立競技場から、徒歩約5分の距離に位置する津田塾大学千駄ヶ谷キャンパス。その立地とチャンスを活かし、学生ならではの視点、そして津田塾大学の強みである英語とデータ分析力を駆使して実践的社会問題解決力を養い、日本文化を世界へ発信し、誰一人取り残すことのないインクルージョン社会の創生を目指すプロジェクトです。

【津田塾大学 梅五輪プロジェクト】コンセプト
  1. 津田塾生ならではの視点で、地方や地域の活性化を目指す。
  2. 訪日外国人の皆さんに日本文化の楽しみ方を発信する。
  3. 英語とデータ分析力を生かして実践的社会問題解決力を養う。
  4. 2020年以降も持続できるコンテンツや社会の仕組みを実装する。
  5. 国や文化、障がいを超えた共生社会を創生する。


津田塾生としてオリンピック・パラリンピックに向けてできることを考える

「梅五輪プロジェクト」で具体的にどんな活動を行ったのか教えてください。
まずは行動することが大事だと思い、駅や商店街、文化施設など地元の主要施設を訪れ、「オリパラに向けて不安に思っていること」をヒアリングしました。すると、海外からのお客様への対応や英語での案内に対する不安、施設のバリアフリーの問題など、津田塾生としてお手伝いができそうなことが見えてきたのです。そこで、それらのニーズを整理しプロジェクトの立ち上げメンバー同士で議論を重ね、プロジェクト内に多くのワーキンググループを作り、同時進行で多数の活動を進めていくという選択をしました。

梅五輪プロジェクトのワーキンググループ

①千駄ヶ谷商店街との連携/②国立能楽堂との連携/③将棋会館との連携/④和装文化発信/⑤食文化/⑥訪日外国人観光客向けマナーパンフレット/⑦鯖江市の職人技を使ったお土産開発/⑧飯田市/⑨伊藤園との連携/⑩日本経済新聞社、太田記念美術館との連携による浮世絵の発信/⑪日本IBMとの連携/⑫小大連携安心安全マップ、バリアフリー/⑬情報発信編集/⑭英語翻訳編集
プロジェクトでの私の大きな役割は、メンバーをまとめることやプロジェクトの監修をしてくださっている曽根原先生とメンバーとのパイプ役を務めることでした。また、梅五輪の連携先を増やすべく、さまざまな場所に足を運んで交渉すること、シンポジウムに参加してプロジェクトが目指すことやその実績を発信して連携先を集めるための活動なども行ってきました。始めたばかりの頃は、不安も多く「とにかくチャレンジしてみよう」という思いでしたが、その活動は日本経済新聞の全国版と電子版に合わせて8回も掲載され、日本経済新聞社主催のイベント「池上彰と考える2020年の東京」に登壇するという貴重な経験もさせていただきました。さまざまな機会や形で情報発信をしてくなかで、地域の方々や企業など、活動を支援してくれる方も次第に増えていきました。



地域の課題に寄り添い、一つひとつ解決していく

新型コロナウイルス等の影響でオリンピック・パラリンピックの開催延期が決定しました。プロジェクトの代表としてどのように受け止め、これからの活動の舵を切り替えてこられたのでしょうか。
開催延期が決まった時にはやはりショックでした。しかし、私たちにとってオリンピック・パラリンピックはあくまでプロジェクトの通過点。活動の根底にあったのは「地域の困りごとに対して学生ができることで貢献したい」「課題解決力を実践的に養いたい」という思いです。新型コロナウイルスの影響で、地域の抱える困りごとが変化したのであれば、私たちの活動も地域に寄り添って変えていくべきだと考えました。そこから新たに生まれ、形にできた活動の一つが小学生向けのデジタル教材「バーチャル浮世絵展」の企画開発です。

私たちは、プロジェクトを進めるにあたり、千駄ヶ谷の将棋会館や国立能楽堂、渋谷区の太田記念美術館などと連携を深めてきましたが、新型コロナウイルスの影響でこうした文化施設でも客足が減ってしまうという問題が発生していました。また、大勢の人が集まることが難しい状況で、小学生が文化に触れる機会などが減っているということがわかりました。そこで、これらの課題解決のために、太田記念美術館提供の高画質の浮世絵の作品データを仮想空間上に作ったバーチャル千駄ヶ谷キャンパスに展示し、子どもたちが浮世絵について学べるようなツールを考え、実際の授業でも使えるような教材に仕上げました。
渋谷区内の公立小学校に通う小学生は全員にタブレットが貸与されています。そこから仮想のキャンパスにアクセスし、アバターを操作することで浮世絵を鑑賞し、自分たちが今住んでいる渋谷という地域が江戸時代にはどのような場所だったのかなどを学ぶことができるのです。この教材を使って、実際に千駄谷小学校の6年生の「総合的学習」の時間で授業を実施しました。授業のカリキュラムとの連動・調整もあり、半年を要したプロジェクトでしたが、美術館の現場の方々や小学校の先生方、教育委員会や保護者の方々の協力などを得て、授業を実現できたことは、大きなやりがいと自信につながりました。また、このプロジェクトを一緒に行ってきた後輩から「地域の課題解決を考え、実際に利用してもらえるようなものを作ることができ、大学生活が充実した」という声が上がったこともうれしかったです。



人や組織を動かす難しさと面白さ

活動をとおして学んだこと、成長できたことについて教えてください。
プロジェクトを遂行していくなかで得た一番大きな収穫は、組織や人を動かす難しさと楽しさを学べたことです。170名ほどのメンバー一人ひとりと向き合い、対話してそれぞれの個性を知ること。得意分野で活躍してもらうためにどうしたらよいか、また、組織が同じ方向に向かってよい結果を生み出せるようにリードしてくことを常に考えていたように思います。高校までは、リーダー的なポジションについたこともなく「もっとこうなったらいいのに」というアイデアを出すところまでで終わっていました。しかし、津田塾に入ってからは、アイデアは自分と周りの力でどんどん形にし、実際に誰かの役に立つように課題を解決し、実践できるということを体感できました。志の高い仲間がいて、道を示してくれたり方法を教えてくれたりする先生がとても近い距離にいる——。このことは、津田塾で学ぶ最大の魅力かもしれません。

先日、卒業式を迎え、とても光栄なことに学部の代表として謝辞を述べる機会をいただきました。この貴重な機会に、学部初の卒業生として総合政策学部の精神である「挑戦すること」の大切さや「挑戦できる環境」への感謝の気持ちなどたくさんの想いを込め、当日は、一緒に活動してきた仲間たち一人ひとりとのエピソードを振り返りながら読み上げました。また、新学部でゼロから活動を始めたことで、学部としてのカルチャーを築けたという自負もあるので、それを後輩たちにも引継いでもらい、津田塾らしさの一つとして残していけたらという思いで謝辞を述べました。

卒業後は富士通株式会社への就職が決まっています。津田塾では、現場の声を聞いて地域の小さな問題を一つひとつ解決していくことの大切さを学んだため、その経験を仕事にも活かしたいと思っています。将来的には自分が携わる仕事を通して、小さな子どもから高齢者まで、誰もが快適に、そして幸せに暮らせる街づくりに携わりたいと考えています。情報技術は日々進歩し、大学を卒業しても学ぶことの多い日々になりそうですが、津田塾のビジョンにも掲げられている「変革を担う女性」として、社会の課題を解決できるような人をめざします。

津田塾大学総合政策学部を目指す高校生のみなさんへ

津田塾には「何かアクションを起こしたい」と思ったときに、それを実現・実行できる環境が整っています。具体的にどのようなことをすればよいのか、何をすれば成功に近づけるのか、そのヒントをくれたり道を示してくれたりする先生方が大勢います。さらに、「一緒にやろう」と力をかしてくれる志の高い友人にも必ず出会えます。大学自体が地域の方々に愛され、信頼されているからこそ、地域の企業や学校と一緒にできることも多くあります。自分たちのアイデアが、実際に地域で使ってもらえるものになり、役に立つということをいろいろな活動をとおして実感することができたのも、津田塾だからこその学びだったと感じています。4年間、仲間とともにこのキャンパスでさまざまな体験をすることは、何一つ絶対に無駄にならないと自信をもって言うことができます。ぜひ、多くの期待を抱いて大学生活を楽しんでください。

※学年は取材当時のものです。
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