英米文学と真摯に向き合い、挑戦し続けた津田塾での日々

  1. HOME
  2. 津田塾のまなび
  3. 英米文学と真摯に向き合い、挑戦し続けた津田塾での日々

座間 結莉 ZAMA Yuri

学芸学部英語英文学科4年 2020年3月卒業

英語英文学科の2019年度卒業生代表に選出された座間結莉さん。英米文学の道を志したのは、小学生のときに翻訳されたイギリス文学の本を読んだことがきっかけでした。次第に「作品を原文で読み、舞台となった国の文化や時代背景も詳しく知りたい」という思いが芽生え、少人数でじっくりと英語や英語圏の文学を学べる津田塾大学英語英文学科に入学。学生生活では課題やセミナーでの研究活動に多くの時間を費やし、英語力を着実に鍛えることができた、と話します。新社会人として新たな扉を開こうとしている座間さんに、津田塾での4年間を振り返っていただきました。

入学早々に打ち砕かれた英語への自信

ここで4年間、英語や英米文学の学びに向き合いたい。そんな期待に胸を膨らませて津田塾大学の門をくぐりました。 

高校の先生から、少人数の授業で丁寧な指導が受けられるだけでなく、留学や就職活動のサポートも充実していると薦められたことから、津田塾を志望するようになりました。カリキュラムを見て、1・2年次の必修科目の多さに驚きましたが、4技能をまんべんなく学べることで英語力向上に繋がると思い、この環境で勉強に集中したいと思うようになりました。

念願が叶い、津田塾に進学することができましたが、学びの「質」と「量」が高校までとはまるで違うことに驚きました。毎日どの授業でもたくさんの課題があり、やり終えるだけで精一杯。ただ英文を読むだけではなく、自分なりに納得のいく答えを出そうと思うと、時間はいくらあっても足りません。大学受験では長時間英語を勉強していたので、文法や長文読解、速読など得意だったのですが、その自信は見事に打ち砕かれてしまいました。当時は、次々と出される課題に追いついていけない自分の能力にただただショックを受けました。
グローバルな社会問題や専門分野につながるテーマと関連付けながら、「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能をバランスよく学んでいく津田塾の英語教育。1・2年次では濃密な授業と多くの課題によって、基礎力を徹底的に鍛えます。座間さんは往復3時間の通学時間を活用して予習・復習を行っていたそうですが、求められることの多い課題に、英語に対する自信も次第に薄れていってしまったと話します。 
特に苦労したのが、1・2年次の『Literary Reading』という科目です。授業をはじめ課題の問題文から解答まで全て英語。その上、英語学習者向けのテキストではなく小説の原文を扱っていたため、理解しながら読み進めるのに多くの時間を要しました。授業中は積極的に質問して不明点をなくし、授業後は図書館に直行して課題や予習に取りかかりました。 

頭をフル回転させて授業と課題に取り組み続けなければならなかったため、正直、「もう英語の勉強は頑張らなくてもいいかな」と思った瞬間は何度もありました。2年次までは実力がついているのかもわからず、目標を見失っていたように思います。 
でも、3年次になって受けたTOEICでスコアが一気に伸びたんです。これまでしっかり課題に取り組んでいた努力が点数として表れ英語力の向上を実感し、とても嬉しく感じたのを覚えています。さらに、3年次のセミナーで好きな英米文学に集中するための環境ができたことでモチベーションもアップ。作品を原文で読み進めると、辞書がなくても内容がわかるのはもちろん、文学ならではの表現や比喩、作家がどのような意図で書いているのかまで理解でき、改めて自分の成長を感じました。「やっぱり私は英語が好きなんだ」−そう思えたことで、さらに英米文学の世界にのめり込んでいきました。

夢中になって取り組んだ移民文学研究

1・2年次は英語力を伸ばすだけではなく、興味や知識の幅を広げる期間でもありました。 
『イギリス文学史』という授業では、聖書から20世紀に書かれた作品まで、幅広く扱います。自分が好きな時代の作品だけではなく、普段なら読まないような書物や詩などにも触れ、先生の丁寧な解説によって理解を深められました。 

また、アメリカ文化について学ぶ科目では、人種差別や移民問題などを掘り下げていきました。現在のアメリカが直面しているこれらの問題は、実は何世紀も前からずっと続いているもの。もともと興味がある分野ではなかったのですが、授業をきっかけに歴史的かつ現代的なテーマであることに面白さを感じ、さらに詳しく学びたいと思うように。そして4年次のセミナーで、移民作家による文学作品「移民文学」をテーマに研究を進めることにしました。  
移民の1世と2世は、親子でありながらもそれぞれが生まれ育った環境や文化が大きく異なり、各々がもつアイデンティティにも差があります。たとえば、2世は移民でありながら移民を受け入れる側でもあり、微妙な立場の違いから生じる差別もあるのです。そのような状況の中で彼らの生き方や考え方がどのように変化していくのか。その要素が、文学作品の中で登場人物の台詞や日常風景をとおしてどのように描かれているのか。アジア系アメリカ人作家の作品を読み、作家本人の体験やアメリカの社会背景もふまえて考察しました。

セミナー以外の授業では、与えられた課題をこなしていくことが求められますが、研究活動は取り組み方が全く異なります。自分でテーマを設定し必要な文献を探すことが重要であるため、学問に対する能動的な姿勢が育まれました。

また、移民文学研究は歴史が浅く、先行研究が多くありません。どのような書物を参考にすればいいか迷っていると、セミナーの先生が少ない論文や関連図書の中から適したものを探して、資料として提供してくださることもありました。さまざまな場面で研究の手助けをしていただき、とても感謝しています。 


「大切なのは語学力だけじゃない」。そう気づいたボランティアでの経験

4年間集中して学びと向き合ってきた座間さんは、課外活動にも力を入れて取り組んでいました。部活動では弓道部に所属。学外の幅広い年代の方と交流しながら、精力的に活動に励みました。部内では合宿係を担当しており、「計画的に物事を進めていく」という自分の長所にも気づくことができたと言います。 

また、1年次の夏には英語を使ったボランティアにも参加したそうですが、そこではどのような経験を得たのでしょうか。 
入学してすぐの頃は、海外経験のあるクラスメイトと自分を比較して力不足や劣等感を感じていたんです。特に英語でのコミュニケーションに自信がなく、どうにか勉強するきっかけをつくりたいと考えていました。ちょうどその時、海外から旅行に来た大学生に観光地を案内するボランティアがあると知り、参加を決意しました。

ボランティア当日、私はドイツ人学生と一緒に浅草を散策することに。英語が母語ではない人とコミュニケーションをとれるのだろうか、そもそもドイツってどんな国なのだろう……とさまざまな不安がわいたのを覚えています。そして心配していたとおり、相手が発する言葉の聞き取りに苦労したり、観光地の紹介をすることはできてもとっさの質問に答えられなかったりと、自分の未熟さに落ち込みました。しかし、最後のお別れの際に「一緒に回れて楽しかった、また東京に来たときには結莉に会いたい」という言葉をもらい、自分の頑張りが相手にも伝わったのだと心から嬉しくなりました。

ドイツ人学生とコミュニケーションを図ることができたのは、津田塾での授業のおかげです。「Speaking」の授業では毎回他愛ない日常会話から始まり、英語に対する「構え」を取り払います。先生や友人と会話を重ねる中で、たとえ拙い表現やミスをしてしまったとしても、何とかして相手に伝えようという姿勢が大切なのだと学びました。それがボランティアの場でも自然と活かされたのだと感じます。

ボランティアを通じて語学面の課題を認識したと同時に、相手の国や文化への理解がまだまだ足りないことも実感。英語圏の国だけではなく、視野を広げてほかの世界にも興味をもとうと思い始めました。 
勉学に励む傍ら、部活動にも打ち込む日々。
ボランティア参加時、交流したドイツ人学生と一緒に。

一語一語と丁寧に向き合う翻訳の道へ

学科の学びから学外ボランティアまで、英語漬けの学生生活を過ごした座間さん。就職活動をはじめた当初から「英語を活かして社会に貢献したい」という強い思いがあったといいます。最終的には翻訳の道を選びましたが、そのきっかけは何だったのでしょうか。 
2年次に「Intensive Reading」という科目を履修しました。これがすごく大変な授業なんです。毎週指定されたページのテキストを丁寧に辞書で調べて訳していくのですが、時間がかかるし、精神的にも追い込まれます。ただ、言葉にこだわりをもって訳すことや、作者が何を表現したいのかを考えながら辞書をめくり言葉を探し出す作業を、とても楽しんでいる自分がいました。ついには「これを仕事にしたい!」と思うようになり、翻訳職を志すに至ったのです。 

そして希望が叶い、今年の春から翻訳の仕事に携わることになりました。実際の業務では、文学作品ではなく企業のビジネスに関わる翻訳を行います。専門用語の意味や使い方など、これからも膨大な知識を吸収していかなければなりません。ただ、津田塾で過ごした4年間のおかげで「学ぶこと」が全く苦ではなくなったため、今からとても楽しみにしています。主体的に取り組む姿勢と、授業で培った一つひとつの言葉を丁寧に訳す力を存分に活かしながら、仕事に全力を注いでいきます。

英語英文学科の卒業生代表として、伝えたかったメッセージ

志望どおりの職業に就くことが決まり、卒業を控えるのみとなった4年次の冬。座間さんのもとに思わぬ知らせが届きます。それは、英語英文学科の卒業生代表に選ばれたという内容でした。学科の学生による投票で決まったそうですが、「予想外すぎた」と座間さんは笑います。同学科の卒業生代表は、卒業式当日に英語でスピーチを行う習わしになっています。  
スピーチサークルやTESS(津田塾大学英語会)に所属している人もいるので、卒業生代表はそういう学生がやるものだと思い込んでいました。今振り返っても、「どうして私が?」という思いです。選ばれた直後は友人に弱音を吐いていたのですが、「絶対できるよ」と背中を押してもらい、家族からは「光栄なことなんだから頑張りなさい」と言われ、徐々に自覚が生まれていきました。 
その後すぐにスピーチの原稿づくりに取りかかりました。英語英文学科のDow先生にご指導をお願いしたところ快く引き受けてくださり、私が伝えたいことを尊重しつつ、よりふさわしい表現や言い回しをアドバイスしていただきました。本番直前には発音練習まで行っていただき、本当にお世話になりました。

スピーチをとおして伝えたかったのは、4年間で出会った先生や友人への感謝の気持ちです。一人ひとりの学生と丁寧に向き合ってくださった先生方。課題に苦戦しながら、一緒になって考えてくれた友人たち。津田塾で関わったたくさんの人のおかげで学生生活を全うすることができた私の思いを、どうにか届けようと原稿を書き上げました。
ここで、スピーチの一節を紹介します。座間さんは、自分たちを育み、そしてこれからも心の支えとなるであろう津田塾の精神に触れ、こう述べました。

We all have Umeko Tsuda’s spirit of being all round women in common. Don’t be afraid of changing yourself and carving out a new future. The spirit and memories of Tsuda will always encourage us. 

万全の準備をして卒業式に臨もうとしていた矢先、新型コロナウイルスの影響によって式は中止に。座間さんはじめ各学科卒業生代表のスピーチは、ライブ配信という形で全ての卒業生、保護者、教職員に届けられました。 
動画が配信された後、一緒に授業を受けていた同級生から連絡がきたんです。「とても共感する部分が多いスピーチだった。私たちの代表として伝えてくれてありがとう」ととても嬉しいメッセージをもらい、やってよかったなと思いました。Dow先生からは、「ちゃんと気持ちを込めて話せていましたね。私にも伝わったし、学科のみんなにも伝わったと思いますよ」と言葉をかけていただきました。最初は大役が務まるかどうか不安でしたが、4年間を振り返り自分の思いを言葉にする貴重な経験ができ、今では誇りに感じています。

スピーチで伝えきれなかったこともたくさんあります。英語をとおして世界の問題に目を向けられたこと、英米文学を読み解くためのさまざまな視点を得られたこと、自分の意見をしっかり主張できるようになったこと……。津田塾で得たものは、全て私の大切な財産になりました。社会に出てからも、ここで過ごした4年間を胸に歩んでいきたいと考えています。

津田塾は、学びにも課外活動にも本気で取り組むことができる場所です。特に、英語に関しては優れた教育プログラムが用意されているため、私のように英語や英米文学の世界に浸りたい人にはとてもよい環境だと思います。幅広い選択肢の中から興味をひかれる分野が必ず見つかるはずなので、強い意志をもって学びに向き合ってほしいです。 


 
※学年は取材当時のものです。
Copyright©2019 Tsuda University.
All rights reserved.