「社会実践の諸相」の中で、印象に残っているゲストスピーカーはどなたですか?
学生たちからの反響が大きかった方のひとりが分身ロボット「OriHime」の開発者である吉藤健太朗さんです。「OriHime」とは、身体の不自由などの理由から行きたいところに行けない人の分身として社会参加を担うロボットで、人と人のコミュニケーションを手助けします。ここでは目新しい技術は利用されていないにも関わらず、新しい価値を提供しているのが画期的です。「距離や障がいを乗り越え、人と人をつなぐために技術を使う」というぶれないミッションがあってこその成果でしょうか。技術はあくまで手段であり、課題の設定が重要だったのです。そこを出発点に、どんな解決の方法があるのかを探っていく。吉藤さんの姿勢は、まさに総合政策学部がテーマとする課題解決のプロセスそのものです。そこに学生たちは強く共感したようでした。
ほかでは、牧師でありホームレス支援に尽力する奥田知志さんをお招きしたときのこと。「困窮する原因はさまざまではありますが、立ち直るきっかけに共通するのは、社会とのつながりの中に組み込まれること」と奥田さん。私自身も困窮者支援に携わっていますが、奥田さんの表現を借りるなら、セーフティネットは太い糸が1本あるだけでは成り立たない、無数の糸を細かく張り巡らせることが大切です。事故や病気などでたくさんの糸が断ち切れてしまっても、まだ誰かとつながっていられるわけですから。このつながりを作ることは、行政やホームレス支援者だけの役割ではありません。社会からこぼれ落ちそうな人が立ち直れるかどうかは、手をさしのべてくれる人の数や私たち一人ひとりの態度次第。「落ちたときの水の温度」にかかってきます。それが温かであれば、人は立ち直れるはずです。奥田さん実践から生まれた言葉は、学生たちの心にもしっかり響いたのではないかと思います。