「知識」と「体験」の掛け算で。
国際協力への道を拓いた津田塾での4年間。

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花田 優子 HANADA Yuko

学芸学部国際関係学科 2018年卒業

津田塾の国際機構論セミナーで、国際連合(以下国連)の抱える課題について学んだほか、ベトナムでのボランティア活動やイギリスへの交換留学、南アフリカをはじめとする国内外でのインターンシップに挑戦。卒業後は、修士号取得のためイギリスのBradford大学へ。国際NGOでのインターンシップ、リサーチアシスタントなどを経て、2020年10月から在マラウイ日本大使館での専門調査員を務める。

在学中は、国際協力という一貫した軸をもち、多彩なフィールドに飛び込んだ花田さん。そんな大学時代の経験が、マラウイでの専門調査員としての活動にどう活きているのかを伺いました。

授業を通して、国連を多角的に理解できた。

はじめに、津田塾大学を志望した理由を教えてください。
小学生の頃に、ガーナにおける児童労働やロシアのストリートチルドレンを映像で目にしました。そこには日本にいると想像もつかないほど深刻な貧困問題がある事実に衝撃を受けたのです。「この状況を何としてでも変えなくては」という使命感が芽ばえたのをきっかけとして、世界の格差問題や国際機関に興味を抱きます。国連について学びたい。そう考えていたときに、国際関係学科の国際機構論のセミナーを知り、強く惹かれました。語学教育に強い津田塾では、国際分野を学ぶために必要な英語や第二外国語をしっかりと身につけられることも理由のひとつです。
大学で国際機関について学び始めて、どのような気付きがありましたか?
高校の頃までは、国連に対して「国際平和を目指すすばらしい機関」という漠然とした印象しかありませんでした。ところが「国際機構論」の授業をきっかけにさまざまな課題を知ることになります。国連は各国からの拠出金によって成り立っている機関です。拠出額の大きな先進国の政治的発言力が強くなり、途上国の意見が汲まれないまま物事が決定されるようなことが多々あると学びます。そんな実情を知るにつれ、国連に対して抱いていたイメージは断片的なものだったと気づかされました。一方、こうした課題を知ったことで、表層的な事実を疑い、多角的に国連を見つめられるようにもなりました。
UNICEFのsociety(日本で言うサークルのようなもの)の仲間たちと。
留学を通じて、どんな変化がありましたか?
授業では、平和構築や宗教、ジェンダーなどを切り口に国際政治に関するテーマについて他の留学生と議論を交わしました。語学力以上に大切だと感じたのは、自分の意見をしっかりと伝えることです。受け身では相手にされません。私は当初、先生の問いかけに対して、答えがわかっていても自信がなく、発言を躊躇することがありました。黙っている私をよそに、ほかの学生は思うがままに発言するのを目にして、悔しく、もどかしい思いをしたことも。これまで以上に、積極的になろうと決意したものです。

思えば、津田塾のセミナーの先生も、日頃から「恥をかかないことを恥とせよ」とおっしゃっていました。発言しなければ、間違えたり意見を否定されたりする心配はありませんが、成長の幅も狭まります。「正解すること」よりも大切なのは、「自分で考え、発言すること」。イギリスの地でも改めてそう痛感しました。「いい意味で空気を読まずに行動を起こそう」とマインドが変化したのもこうした経験があってこそです。

自らアクションを起こし、現場感覚をつかんだ。

留学後、南アフリカでのインターンシップにも参加されたそうですね。
はい。アフリカ地域には、小学生の頃にガーナの映像を見たときから関心があり、ネルソン・マンデラさんがアパルトヘイト廃止に向け、人生をかけて奮闘した南アフリカには、必ず一度訪れたいと思っていました。留学中にジンバブウェやトーゴの友人ができたことも、アフリカ大陸にますます興味を惹かれた理由のひとつです。

私が参加したのは、世界各地で教育や保健、環境保護などに関するボランティアを派遣する「Project Abroad」を通じたインターンシップでした。活動拠点は、ケープタウンから少し離れたVrygroundという地域にあるNGO。現地に行ってまず驚いたのは、格差が一目瞭然なことです。開発が進んだケープタウンでは高層ビルが乱立している一方、車で数分走っただけで、トイレのドアさえない掘っ立て小屋のような家が並ぶスラム街が現れます。「ひとつの国の中でも貧富の差がこんなにはっきりしているのか」と衝撃を受けました。
活動先であったNGOがある地域。
相次ぐ銃やギャングによる被害を防ぐため、NGOには有刺鉄線が張られていた。
インターンシップではどんな活動をしましたか?
雇用に結びつけるための職業訓練を行うプログラムに携わりました。ここでは「できることを自ら見つけて動く」が活動の基本スタンスです。出勤初日にガイダンスを受けると、翌日からは「必要なことは何でもやって」と言われます。「勉強したい」だけでは済まされません。現地の人びとをサポートする立場として当事者意識をもつことがいかに大切かを痛感しました。手始めに資料を眺めていると、現地の人びとの就職希望先に関する情報が不足していることに気づきます。そこで現地の若者たちにインタビューを行うと、医療分野を志す学生が多いことがわかってきます。活動していたNGOには元ナースのスタッフがいたため、その方に掛け合って「医療分野におけるキャリア」をテーマにプレゼンテーションをお願いしました 。同じコミュニティ出身の人による経験談は、住民の人たちにとっては大きなモチベーションに繋がります。ニーズをていねいに聞き取ることで、部外者の私でも適切な支援に繋げられる。手探りではありましたが、部外者だからこそできることを探す、という現場感覚をつかめたのはこのときです。


対話を通じて、マラウイのニーズに寄り添う。

卒業後は大学院で紛争解決・平和構築を学び、在マラウイ日本大使館で専門調査員を務めていらっしゃいます。現在のお仕事についてお聞かせください。
マラウイは、途上国の中でもひときわ発展が遅れている、「後発開発途上国」のひとつです。人口の8割が農民で貧困層が多く、支援が必要な分野は、教育や保健、栄養、環境、インフラ、エネルギーと多岐にわたります。私の業務は、主にリサーチと事業管理に分けられます。リサーチ業務では、現地の新聞やテレビでマラウイの経済状況や他国や国際機関のドナーの支援動向を追い、月報にまとめます。また、日本政府による無償資金協力事業を円滑に行うために、マラウイの財務省とやりとりすることも。現地での各省庁との調整には時間がかかるため、忍耐力が求められます。「多文化理解のチャンスにしよう」。そう考えて、前向きに取り組むように心がけています。日本政府からの資金が問題なく使われているかをモニタリングすることも業務のひとつで、日本政府が拠出する国際機関への補正予算事業の実施・運営管理などにも携わっています。
マラウイへのJICA海外協力隊派遣50周年を記念するレセプションで、大統領府関係者に説明している様子
現在のお仕事に、学生時代の学びはどのように生きていますか?
現地の人々の立場で考え、求められていることにきちんと応える。南アフリカで身につけたこの姿勢が、専門調査員の仕事にも役立っています。どの事業にも言えることですが、例えば、マラウイで実施されている事業のうちの1つであるNGO連携無償資金協力事業は、マラウイの現地コミュニティのニーズを第一に考えて実施しなければなりません。NGOのひとりよがりな事業にならないよう、現地が抱える課題や現状を踏まえながら事業形成を行う。そんなときに、南アフリカで悩みながらも現地のニーズを探った経験が活きているように感じます。

もうひとつ、役に立っているのは、言語学習の習慣です。津田塾では英語のほかに、フランス語とスペイン語を学びました。これらはすべて国連の公用語であり、多くの国で話されています。相手と同じ言語を話せることは、打ち解ける足がかりになるものです。マラウイでも、現地語であるチェワ語を一言二言話せるだけで、相手の表情ががらっと変わり、ぐっと距離を縮められます。「言葉」は国際協力の仕事における最重要ツールです。津田塾で、言語を学ぶ習慣をつけられたことに感謝しています。




「自分をもつ」ことが、国際社会を生き抜く鍵に。

国際社会で仕事をするうえで、必要なことはなんでしょう?
自分の意見と軸をもつことです。イギリス留学でこのことを実感しました。英語力に自信がなくても、知識や考えをきちんともっていれば相手は耳を傾けてくれるものです。そのために必要なのは、社会で起きているさまざまな事象に対して常にアンテナを張り、見て見ぬ振りをせずに向き合うこと。小さな違和感を見逃さずに「なぜこの問題が起きるのだろう」「背景には何があるんだろう」と多角的に考えること。自分の意見はこうして形作られていくものです。それを積み重ねると、自然に軸も生まれてきます。
最後に、津田塾を目指す高校生にメッセージをお願いします。
もし、女子大であることに躊躇する方がいたら、それは杞憂です。私も高校までは共学でしたので、実のところ入学前には不安がありました。ところが津田塾では「女子大」を意識することがほとんどなかったばかりか、男性がいないが故に性差を感じない環境が支えとなり、「女性であること」を意識することなく関心のある分野に没頭できました。

社会課題に対して敏感な学生が多いのも、津田塾の特徴のひとつです。友人たちは、創立者の津田梅子のように、社会変革の担い手として強く生きようとする姿勢をもっています。ここには「津田スピリット」が息づいているんですよね。津田塾を目指す皆さんにとっても、学友たちとの出会いはかけがえのない財産になるはずです。津田塾での4年間を通じて、周囲からよい刺激を受け、自分らしい道を切り拓いていってください。

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