物語の感動を、旋律に乗せて。
作曲につながる津田塾での学び。

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梶浦 由記 Kajiura Yuki

学芸学部英文学科* 1989年卒業

*2019年度より英文学科は英語英文学科に改称しました。

在学中は、英米文学を中心に学ぶとともに、バンド活動やアルバイトに勤しむ。新卒で入社した大手通信会社に3年間勤めた後、バンド活動へ軸足を移し、See-Sawのメンバーとしてメジャーデビュー。その後、映画「東京兄妹」やゲーム「ダブルキャスト」のサウンドトラックの作曲を手がける。2000年代に入り、See-Sawのシングル楽曲「あんなに一緒だったのに」が、テレビアニメ「機動戦士ガンダムSEED」のエンディングテーマに採用されて大ヒットを記録。アニメ「魔法少女まどか☆マギカ」や「鬼滅の刃」、NHK連続テレビ小説「花子とアン」など、数々の話題作の劇伴音楽を担う。大学時代に出会った教員たちの姿勢を目にし「仕事は愛」だと気づいたという梶浦さん。津田塾大学での学びが、現在の作詞・作曲にどう活きているのかを伺いました。

好きなことだけに集中できる勉強は
心の底から楽しい。

はじめに、津田塾大学を志望した理由をお聞かせください。
英語に力を入れている津田塾大学でなら、卒業後の進路を見据えて、有意義な学生生活を送れるだろうと思ったからです。自宅から近く、通いやすいことも魅力でした。受験でキャンパスを訪れた際には、玉川上水沿いの自然豊かな周辺環境や美しい校舎にも目を奪われたものです。まるで森の中に入っていくような引力があり、4年間、愛することができる場所だと感じました。高校まではそれほど勉強が好きではありませんでしたが、本と英語には親しんできました。ここで大好きな読書と語学に明け暮れたい。そんな思いで入学を決めました。
実際に入学して感じたことをお聞かせください。
廊下で英詩を朗読するような女学生に出会えるのではないか。入学前に抱いていたそんな期待は、早々に崩れ去りました(笑)。一方で、予想と違わず勉強量は非常に多かった。授業についていくために予習に時間をかけていたことをよく覚えています。帰宅すると、辞書を片手にアメリカ文学を2、3時間読みふけることが毎日のルーティーンでした。幼少期から読書が大好きだったので、次の授業を予想しながら読み進めるのは単純に楽しかった。小説についてディスカッションするセミナーは、きっと今もそうでしょうけれどすべてが英語です。言いたいことをうまく言えず、なんとか別の英語表現で伝えようと頭を絞るのも、もどかしいけれど楽しかったですね。義務感で詰め込むのではなく、自分の好きなことに向き合える勉強は楽しいものとわかりました。


情熱的な先生たちを目にして
私もあんな大人になりたいと思った。

印象に残っている授業について教えてください。
小説に登場するある女性の人物像について、セミナーでディスカッションした授業です。同じ作中の人物なのにみんなで解釈が大きく異なり、教授から今度は女性の肖像画を描いてくるよう宿題を出され驚きました。言葉だけで思い描いていたイメージを絵にするつもりで物語と向き合うと「あれっ?この女性は美人だとは思っていたけど口元は卑しい感じかも……」などと新たな発見がありました。こんな物語の読み解き方もあるのだなあととても興味深かったのを覚えています。多角的に物語を読み取ろうとする試みは現在の仕事にも活きています。サウンドトラックを制作する際、さまざまな角度から原作に触れると、見方が変わって曲の説得力も高まりますから。主観的になりがちな作曲時、視点を変えることで冷静になり客観視できる利点もありますね。
教員たちとの関わりの中で、どのような気づきがありましたか?
どの先生も、研究対象である文学作品を心から愛している。そこに何よりも感銘を受けました。いかにその描写が素晴らしいかについて、目をキラキラさせながら語られるのです。例えば、作中の女性のセリフを引用して「あなたたちも、こういう英語を話す女性になりなさい」と、その艶やかさについて熱弁を振るったり。これほどに情熱的な大人がたくさんいることを先生たちの存在を通して知り、私も好きなことに情熱を注ぐ大人になりたいと思いました。本当に素敵な先生方ばかりで、将来のロールモデルが身近にいる環境でした。


物語の魅力に浸り、感想文を書くように作曲する。
それが私のスタイルです。

音楽でキャリアを築くまでの経緯を教えてください。
大学時代は寝る間を惜しんでバンド活動にも励んでいましたが、卒業して就職したのは福利厚生の充実した大手通信企業です。仕事の合間を縫って続けていた音楽はあくまで趣味のつもりでした。ですが入社3年目にはその域を超え単純に時間が足りなくなってしまいます。19歳の頃に音楽好きだった父が他界していたこともキャリアチェンジの後押しになりました。父を亡くしたことから、安定した生活を送るためには大企業に籍を置こう!と思ってはいたのですが、同時に「人はいつ死ぬかわからない。いつ死んでも後悔しないように生きたい」という思いも募っていたんです。悩んだ末に本格的な音楽活動へと舵を切りました。数年はヒットに恵まれない中、少しずつ作詞・作曲の仕事を続け、See-Saw名義で手がけた楽曲が「機動戦士ガンダムSEED」のエンディングテーマとなり大ヒットしたのを契機に、作曲家として世間に認知されるようになりました。
物語のサウンドトラックをつくるプロセスとはどういうものでしょうか。
作中のシーンを想像して、まるで感想文を書くように曲を書いています。物語の魅力に全身で浸かって、自分の心の震えを音楽にぶつけるような感覚です。実のところサウンドトラックの制作を引き受けた当初は、戸惑うことばかりでした。娯楽といえばもっぱら読書で、映画もドラマもアニメもほとんど見ずに育った私が、果たしてこの仕事を全うできるのだろうか、と。しかし、思い返してみれば子どもの頃から小説に勝手にテーマソングをつけたり、好きな曲に映像を想像したりして遊んでいましたし、大好きな物語世界と関わるのにこれ以上楽しい仕事はないとすぐに気がつきました。物語から得たインスピレーションを音楽にして、みなさんに聴いてもらえるのですから最高です。最も感動したシーンの純度を高めるような音楽で、オーディエンスのみなさんにもワクワクしてほしい。魅力的なシーンが、もっと魅力的になるように。そんな思いで作曲に全力を注いでいます。

英詩を学んだことが、
言語の持ち味を踏まえた作詞・作曲に活きている。

ほかにも作曲にあたって、津田塾での学びが活かされる部分はありますか。
時々、英語歌詞の曲を書くこともあるのですが、授業の中でたくさんの英詩に触れ、韻の踏み方をはじめとした表現技法を学んだことが、大きな助けになっています。当時「この比喩表現や、この文字列のリズムが好きだな」と感じた感覚が、今も自分の中の英詞の理想形になっているのです。言葉のリズムを意識すると、言葉の発音の高低はもうそこにメロディーを内包していますから、それだけで自然に歌が生まれて来たりもしますね。
今後どのように活動していきたいですか。
物語にのせる音楽を作り続けたいです。色も、匂いも、心も、季節も、自由に生み出せる架空の世界に「音楽を付けていいですよ」と指名していただける。これほど幸福なことはありません。物語から得られるインスピレーションを形にする喜びが、私の原動力です。同時に、ジャンルを問わず幅広い作品に携わりたい。自分のほうから作風や活躍の場などを限定したくはありません。そもそもサウンドトラックの仕事だって、自分から手を伸ばした仕事ではなく、人とのつながりを通じて運良く巡り会ったものです。それが私の現在を作っています。関心のなかった分野にも向き合って、笑ったり泣いたり喧嘩したりしながら作曲を続けていけたら幸せです。

学ぶことは楽しい。
津田塾での経験はそこに集約されます。

改めて、津田塾での学生生活はどのようなものでしたか?
一生懸命に打ち込む習慣がついたこと。これに尽きます。何かに集中して取り組む習慣は、訓練なしには身につきません。その訓練を津田塾でさせてもらえたのは幸運でした。何かを習得するのには相当な時間がかかることも身にしみてわかりました。自分の「好き」に没頭し、遊ぶように夢中で学んだ贅沢な時間が、私にとっての津田塾です。このときほど勉強したことはそれまではありませんでしたし、津田塾の学生さんは皆そうじゃないかと思います。「学ぶこと」に対する覚悟と興味、そして基本的に学ぶことは楽しい、ということを教えて貰いました。
最後に、津田塾を目指す高校生にメッセージをお願いします。
進路を決めるために「早く自分の『好き』を見つけなければ」と思っている方がいたら、焦る必要はないとお伝えしたいです。俗に言う「本当の好き」は多分ちょっとした興味から始めたことが、いつの間にかこんなに長く続いてしまった、どれほど困難な状況でも続けずにはいられなかった、そんな後からわかる気持ちじゃないかと思うんです。2、3日で簡単に見つかるはずがありませんし、60歳くらいになってようやく気づくものかもしれません。逆説的ですが「一生見つからなくても大丈夫」と、楽に構えているほうが、多くのチャンスに巡り会えそうな気もします。肩の力を抜き、フットワーク良く、心が動かされるものに飛び込んでみてください。

津田塾大学は、私が学生だった80年代当時からずっと時代に合わせて柔軟に進化し続けています。あの当時にいち早くパソコンを扱う授業を取り入れるなど、目の付けどころが面白かったなと今になって感じます。現在はジェンダーに関連する講義が充実しているそうですね。女性の生き方に敏感なこの大学なら卒業後もしなやかに生き抜いていくための力を、きっと授けてくれるはずです。

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