渋谷区の事業にデータ分析で貢献。
実践で活きた総合政策学部の学び。

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森田 佳乃子 MORITA Kanoko
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中䑓 有紀  NAKADAI Yuki
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稲毛 光莉子 INAGE Hikariko

総合政策学部総合政策学科

総合政策学科では、学科での学びを活かした学外活動も盛んに行われており、課題解決の実践の場として産官学連携にも積極的に取り組んでいます。
今回は、渋谷区・KDDI株式会社・津田塾大学の産官学連携にて研究分析を行った「高齢者デジタルデバイド解消事業」に携わった総合政策学科4年の稲毛光莉子さん(写真左)、中䑓有紀さん(写真中央)、森田佳乃子さん(写真右)にお話を伺いました。
千駄ヶ谷キャンパスのある渋谷区が、高齢者のデジタルデバイド(=ITリテラシーの高い人と低い人の間に生じる情報格差)の解消を目的に行った実証事業は、区内の高齢者に2年間スマートフォンを無償で提供するというもの。
渋谷区とS-SAP協定(※)を締結している津田塾大学はこの事業に協力し、総合政策学部の伊藤由希子教授のセミナーに所属する3人がデータ分析の一部を担当しました。学部の学びは、学外での「実践」の場で、どのように活かされたのでしょうか。
(※)S-SAP(シブヤ・ソーシャル・アクション・パートナー)協定
渋谷区内に拠点を置く企業や大学などと渋谷区が協働し、地域の社会的課題を解決していく公民連携制度

文系/理系の枠を超えた、
データ・サイエンスの魅力のとりこに。

Q はじめに、津田塾の総合政策学部を志望した理由をお聞かせください。
森田:高校生のときにフィリピンで食糧支援のボランティアを経験したことが、志望に大きく影響しています。活動自体は意義のあるものでしたが、貧困問題について、具体的な解決のアイデアが思い浮かばず、もどかしさも感じました。ですので、データ・サイエンスを使って課題解決力を高めるとうたっていた津田塾の総合政策学部は、自分の進学先としてぴったりだと思いました。
中䑓:私は、幅広い分野を網羅している総合政策学部のカリキュラムに惹かれました。文系・理系の枠に縛られることなく、自分の関心に沿って学べそうだな、と。数学に苦手意識はありましたが、データ・サイエンスについて一から教えてくれるところも魅力的でした。
稲毛:高校生の頃は英語が得意で、担任の先生から「英語をもっと勉強したいなら」と津田塾を薦められました。総合政策学部を選んだのは、文系科目だけでなく、データ・サイエンスも腰を据えて学びたかったからです。そこは中䑓さんに近いと思います。
Q 実際に入学して、いかがでした?
稲毛:大学で初めて接した統計の世界は、とても興味深いものでした。実際に「手」を動かすことが求められ、プログラミングを行ってデータを解析します。さらに、そこから導き出された結果を自分なりに読み解かなければなりません。結果が仮説とは異なっていたら、検証を繰り返します。そのプロセスも歯ごたえがありました。
中䑓:私も物事をデータという切り口から考える面白さを知りました。「梅五輪プロジェクト」という学生団体で、東京2020オリンピック・パラリンピック開催期間中に国立競技場周辺における人々の移動の流れを測定した経験も印象に残っています。解析ソフトを使うことで、人の動きが可視化されるのが新鮮でした。
森田:総合政策学部では、統計を含むデータ・サイエンスは必修なので手が抜けません。でも、先生の指導はきめ細やかで、分からないことを先輩に相談できるメンター制度もあるので、それほどつまずくことなく、学びを進めることができました。

大事なのは、「現場」を見て、
自分の頭で考えること。

Q 皆さんが渋谷区の「高齢者デジタルデバイド解消事業」に参加することになった経緯を教えてください。
中䑓:私たちが関わるようになったのは、3年次の4月頃からです。事業自体はその約2年前から始まっていて、セミナーの伊藤先生が定期的に渋谷区とのミーティングに参加し、学術的な立場から助言していたため、私たちも協力することになりました。
森田:最初に取り組んだのは、参加者アンケートの質問項目の検討です。それまで5、6回行っていたアンケートの最終回を実施するにあたり、質問項目を精査しました。例えば、「LINEが使えますか」という質問は、「LINEの電話を受け取れますか/かけられますか」とより具体的にしたほうがいいのでは、といったような。「QRコードは読み取れるか」という質問の追加も、渋谷区に提案しました。 
稲毛:LINEのようなアプリは機能が豊富です。「使える」と言っても、友達追加や通話はできるのか、などさまざまなレベルがあります。もっと質問を細分化しないと、実態を捉えられないと思いました。
森田:その後、分析のために提供されたのは、スマートフォンを貸与された約1500人分のデータです。年齢や性別、家族構成などの属性をはじめ、2年間の利用アプリのデータや位置情報データのほか、今お話ししたアンケートの回答が含まれていました。
Q 分析は、どのように進んだのでしょう?
森田:二つのテーマについて分析しました。一つ目は、スマートフォンを使えるようになる要因の分析です。「順序ロジスティック回帰分析」という手法を用いましたが、実は授業で習ったものではありません。統計の授業を担当されている鈴木貴久先生に進め方を相談したところ、定着度ごとに結果を導くにはこの手法が適しているとアドバイスを受けたのです。
稲毛:どの手法を使えば、目的を達成できそうか、しっかりリサーチして自分たちなりに考えることが重要でした。
森田:分析して分かったのは、グループ活動に参加したり、家族や友人・知人と親しく交流したりしている人ほど、定着度が高いということ。ご本人の積極性と比例していました。逆に言えば、定着度が低い方の傾向もつかめたことになります。情報格差をなくすためには、そういう方へのアプローチ方法も検討しなければなりません。このような見解を交えて、渋谷区に報告しました。
中䑓:分析に入る前、千駄ヶ谷キャンパスの近くに位置する「スマホサロン」を訪れて、高齢者の方がどんなことに困っているのか直接ヒアリングできたことも、ポイントだったような気がします。
森田:確かにそうですね。貸与されているスマートフォンが想像以上にハイスペックで、ホームボタンが分からず苦労されている方もいらっしゃいました。
中䑓:データに触れるだけでは見えないものがある。それを肌で感じました。実際に「現場」を見ると、仮説を立てやすくなります。分析精度の向上に役立ちました。
Q もう一つの分析はいかがでしたか?
中䑓:スマートフォンの定着度と外出頻度・距離の関連性を分析しました。もともとこの事業は、高齢者のQOL(=生活の質)の向上に役立てることが目的に含まれています。「スマートフォンが使えるようになれば、どのように生活が変わるだろうか」という観点から、QOLの向上につながる指標として、外出に焦点を当てました。
稲毛:この分析のポイントは、GIS(地理空間情報)を活用したところです。個人情報が特定されないよう、その人の行動履歴をメッシュデータ(=地図を方眼状に区切ったもの)に置き換え、分析を進めました。
森田:データ数は膨大でした。データセンターでは端末あたりの位置情報を5~10分おきに取得しています。一人ひとりの行動履歴をメッシュデータに落とし込み、それを定着レベル別に分けて……という気の遠くなる作業。
中䑓:でも、根気強く頑張ったかいはありましたよね。スマートフォンを活用している人ほど、外出頻度は高く、外出距離は長くなるという分析結果になりました。外出は健康増進に寄与し、ひいてはQOLの向上にもつながるといえます。

地道な作業を根気強く。
みんなで協力したからやり遂げられた。

Q 今回の取り組みで得られたことはなんでしょう?
中䑓:授業で統計を学んでも、実際に行われた政策のビッグデータを扱い、政策の効果検証を行う機会はなかなかありませんから、とても良い経験になりました。次の政策につながる重要な分析を通して、大学の地元・渋谷区に貢献できたこともうれしく思います。
森田:渋谷区とのつながりは私も実感しています。1年次、学外学修で渋谷区の区議会議員の下でインターンシップに参加した際、この事業について議員から直接話を聞いていました。かねてから、緊急時の防災情報をいかに速やかに高齢者にリアルタイムで届けるかという課題があったのです。高齢者支援に対する議員の思いに触れていたので、今回の分析に向けて、モチベーションを高く維持できました。
稲毛:この事業自体とても先進的なものだったので、関心を持って取り組むことができましたよね。ほかの自治体でも、スマートフォンを無償貸与する事例はあります。ただ、2年間にわたり1500人超に貸与提供され、講習会などのフォロー体制も整えられた例はほかにありません。
中䑓:行政の渋谷区、大学・研究機関の津田塾のほか、企業のKDDIが組んだ産官学連携の事業だからこそ、普段学生が触れる機会のない貴重なデータを扱うことができたのだと思います。快くデータを提供してくださった渋谷区とKDDIには大変感謝しています。
森田:世界的にも類を見ない大規模な事業のデータを分析できることにはワクワクしましたよね。ただ、元のデータをそのまま分析に使えるというわけではありません。それを分析目的に合わせて加工するのは思いのほか大変でした。最終的には目と手で確かめる部分もかなりあって。
稲毛:三人とも、授業や課外活動など、さまざまなタスクを抱えている中で、効率的にこなすタイムマネジメントの力も磨かれたと思います。私は本当に二人に助けられました。

津田塾は、万全のサポートで
やりたいことを後押ししてくれる。

Q 2024年2月の「計算社会科学会大会」で、分析結果を発表されたそうですね。
中䑓:はい。学部生には、学会発表の機会はなかなかないので、貴重な経験でした。
森田:発表後の質疑応答では、たくさんの鋭いご指摘をいただき、自分たちの力不足を痛感しました。
稲毛:外出時の距離の割り出しなどについて、精度不足だったかもしれないという気付きがありましたね。
中䑓:10分という限られた時間で的確に伝えることの難しさも感じました。
稲毛:分析の内容とプレゼンテーションの質、その両面で、次に活かせる学びがたくさんあったのは間違いありません。
Q 最後に、津田塾で学ぶことの良さについて、あらためて感じたことを教えてください。
中䑓:学んだことを「実践」できる機会が整っているところです。一緒に取り組んでくれるアクティブな仲間もたくさんいます。学びが加速する感覚を味わえました。
稲毛:少人数で先生との距離が近いので、気軽に質問できることのありがたさを実感しました。安心してチャレンジできるのが津田塾のいいところです。
森田:サポート体制が万全なことです。津田塾では、学ぶ意欲のある人には最適の環境が用意されています。やりたいことが明確になっていない場合でも、「とにかくなにかやってみたい」という気持ちさえあれば大丈夫。しっかり導いてくれるからです。津田塾には本当に感謝しています。
渋谷区高齢者デジタルデバイド解消事業の概要についてはこちらをご覧ください。
※学年は取材当時のものです。
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