外れた補助輪と知らない世界、すべて任せて応援した5年間
在学生親子対談

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梅田 真由 MAYU Umeda × 母・睦子さん MUTSUKO Umeda 

学芸学部英文学科 4年

※2019年4月より、英文学科から英語英文学科に名称変更
梅田真由さんは、津田塾大学学芸学部英文学科の4年生です(2019年3月現在)。英語を実践のなかで学んで身につけるために、大学を休学。ワーキングホリデーを利用して、1年間オーストラリアで生活していました。そんなチャレンジを、お母様の睦子さんはどんな思いで見守っていたのでしょう。そして、真由さんは海外生活から、どんなことを学び取ったのか。真由さんとお母様の睦子さん、お二人からお話を伺いました。

「やりたい」が続くために

真由さん: 小学6年生の時に、母の勧めで体験学習に参加した事がきっかけで、英語を習いはじめました。新しい言語を学ぶ事自体への純粋な喜びや、身につけた言語をとおして異なる文化に触れる事が楽しくて、気がついたらずっと続けていました。
睦子さん: 習い事は全て、本人が興味を持って「やりたい」と言った時に始めさせていましたが、どんな習い事も、途中でやめるとは言わない子でしたね。
真由さん: 心の中で思ったことはありましたけどね(笑)。小さい頃、「自分で始めると言ったんだから途中でやめないよね?」という無言のプレッシャーを母から感じていたような気がします。でも、おかげで継続することの大切さを学べた事に感謝しています。やりたいと言ったことは、なんでもやらせてくれて。あ、でも小学校3年生までは自転車で遊びに行かせてくれなかったよね。
 
睦子さん: 当時は道路の歩道が狭くて、車にぶつかったらと考えると、本当に心配だったのよ。3歳から補助輪をとって、乗り始めたのは早かったんですけどね。  
新しい事を始める子どもと、その様子を見守る親。世間によくある親子の風景。ふとしたきっかけで始めた習い事の一つでしかなかった英語は、その後の継続の中で、真由さんにとって、ただ楽しいだけではない、大切なものへと変化していきました。
真由さん: 英語を使って仕事がしたいと考えるようになったのは、中学生の頃からです。日本だけにとどまらず、広い世界で活躍したいとぼんやり思いながら、キャビンアテンダントに憧れていました。将来なりたい職業を意識した事で、私にとって英語は楽しいだけでなく、身につける必要があるものに変わりました。
高校卒業後の進路を考える時期に、津田塾大学を知り、充実した英語教育や、少人数の学習環境に魅力を感じました。津田塾でなら、大勢の中の一人としてではなく、私自身として積極的に学ぶ機会を確実に得られるのではないかと思い、受験を決意しました。

 

すべてを任せて応援しよう

キャビンアテンダントになって世界を渡り歩きたい。憧れを実現するための学びを求め、津田塾大学に入学した真由さん。しかし、入学後の日々は、楽しいことばかりではなかったそうです。
真由さん: 1・2年生の頃は授業や課題の量も多く、週5日、朝から晩まで学校で勉強していました。授業やセミナーでは、少人数だからこそ、一人一人が、自分の意見をしっかり述べる事を求められる機会が多く、慣れるまでは、どうしていいのか戸惑うこともありました。ものすごく優秀な学生が何人もいて、全く太刀打ちできなかったり、自分にはない才能を持っている人がいるんだなと比べて落ち込んだり。大学での日々に圧倒されていましたね。
また、当時、イタリアンの飲食店で始めたアルバイトでも、お客さまがオーダーで使う言葉が分からなかったり、学生以外の人とのコミュニケーションにおける自分の世間知らず具合に落ち込む事もしばしばで、このまま社会に出て大丈夫かな、と、危機感を覚えました。
元々、在学中の海外留学を考えていた真由さんでしたが、アルバイトで感じた危機感から、実践的な英語を学ぶためには「留学」でいいのだろうか?という思いが芽生えました。
真由さん: 留学の場合、学ぶ言語が変わっても、普段関わる相手が学生という立場の人たちなので、自分が人間として成長できる幅はあまり変わらないのではないかと思いました。また、大学での学びをとおして、学問的な英語力に関しては、ある程度下地ができてきた実感があったのですが、実践的な英語力に関しては足りていないと感じていました。
ワーキングホリデーなら、海外で働きながら生きた英語を学べるので、その時自分に足りないと感じていたすべてを鍛えられそうだと思いました。1年生の終わり頃、やはり交換留学ではなく、1年間休学してワーキングホリデーに行こうと決心し、準備に取り掛かりました。
その際、自立のためにも、両親からお金を一銭も貰わずに行く、というのを一つのミッションにしていました。アルバイト代を貯金して、渡航費、保険代、初期の生活費など、必要になるであろう費用は自分で用意しようと。
でも、2年生の時は授業が大変で。アルバイトを掛け持ちして、休日や授業が早く終わる日に働けるだけ働き、課題は通学の電車でやったりとか、よくできていたなと我ながら感心する生活をしていましたね(笑)。コツコツと貯金し続け、1年間で60万円くらいの資金を貯めました。 

 
着々と出発準備を整えた真由さん、「何を言われても行ってやろう」と思いながら、初めて自身の考えを両親に伝えたそうです。留学とは違い、一社会人として海外で生活することになるワーキングホリデー。親御さんの立場から、不安はなかったのでしょうか。 
睦子さん: 最初はもちろん心配しましたが、本人が決めたことなら、それもありなのかなと思いました。スケジュールもすべて自分で立てている様子だったので、私たちは一切タッチせずに、見守っていようと。

真由さん: 私自身、反対されることも覚悟していたのですが、拍子抜けするほどあっさりOKしてもらえました(笑)。それに、お餞別まで渡してくれて。ワーキングホリデーという選択肢を否定せずにいてくれたことに、すごく感謝しています。留学に行くのはいいけれどもワーホリは……と、ご両親に反対されていた友人もいたので。大学という守られた環境で多くの時間を過ごすわけではないので、どうしても危険が伴うイメージもあるみたいですね。

睦子さん: でも、やっぱり、学んだことを実践に移すということは大事だと思うので。座学だけでなく自分の肌身で経験したことが、一番実になると思うんですよね。その場が大学であろうとなかろうと。一年間休学してこのタイミングで行きたいというのも本人の考えだったので、すべて任せて応援しようというスタンスでしたね。

 

駆け抜ける姿を遠くから見守る

休学の手続きを終え、真由さんはオーストラリアへと旅立ちます。事前に決めていたのは、出発の便と最初に滞在する宿だけ。その後の行き先や働き先は、どのように手配したのでしょうか? 
真由さん: 最初は現地の飲食店で働きながら、エージェントを使って仕事を探しました。幸いにも、グレートバリアリーフに浮かぶ離島にある、とても素敵なリゾートホテルにお声がけいただくことができました。できれば、接客・サービス等の、ホスピタリティを学べる仕事につきたいと思っていたので、希望が叶ってとても嬉しかったです。
仕事探しの過程で、津田塾で受けた英語教育は、現地でも十分通用するものだと思いました。海外で生活する際、会話ももちろん重要ですが、仕事を探すためには、公的な書類をきちんと読み書きできなければいけません。津田塾の授業では、英語でエッセイを書くライティングの課題があって、オフィシャルな場で使うべき表現などについて、みっちりしごかれていたのですが、やっておいてよかったと思いましたね。現地に行って困らずに済みました。

睦子さん: 大変だったと思います。知らないところにパッと飛び込んで、仕事から探すというのはいろんな苦労があるだろうなと。心配が募ると、夜眠れなくて、ずっと考えてしまったりもしたんですけど。

真由さん: 初めて聞いた…。そんな事とは知らず楽しんでました(笑)。

睦子さん: 自分の中で、勝手に湧いてきてしまうものなので、それを本人に言っても仕方ないと思ってね。
睦子さんの勧めで始め、自分の力で育ててきた英語の力は、真由さんの挑戦だらけの日々を、足元から支える確かな土台へと成長していました。補助輪を外しても乗れるようになった自転車のように、自らの心身の一部となっていく言葉の輪郭を確かめながら、真由さんは、現地での生活を、力強く駆け抜けました。
真由さん: さまざまな国から来た人たちに囲まれた生活は、非常に刺激的でもありました。例えば、仕事を探していた時に、私の応募書類を見たイラン人の友人に「経歴を多少誇張してでも、もっと自分をアピールすればいいのに」と言われ、驚きました。彼女としては、多少自分を大きく見せるのは当然のパフォーマンスだと思っていたようですね。それでも私は、誇張した部分を後から突かれたら嫌だなぁと、正直な書類を作っていましたが「自分と彼女はこんなにも違うんだな」と、文化の違いを感じたという点では良い経験でした。「これはこうあるべき」という自分のなかに植え付けられていた固定観念が崩されていくことは、心地よくもありました。
離島のリゾートホテルに住み込みで働くようになってからは、実践的な英語やホスピタリティについて、貪欲に学ぶことができました。おかげで、どれだけ英語を実践の場で使ったかという点では、誰にも負けないぞという自信がつきました。使った英語の量や、会話のバリエーションに関しては圧倒的に豊富な経験ができたと思います。
また、自分が働いて稼いだお金で生活しなければならない状況は初めてだったので、食費を節約したり、職場で晩御飯やまかないをもらって帰ったりしながら、金銭感覚というところでも、以前よりシビアに考えるようになりました。
帰りたくなかったですね。(笑)あと数年いてもいいんじゃないかというぐらい、充実した生活ができました。

 


切り拓かれた道、そしてエール

1年間のワーキングホリデーを終え、真由さんは日本に帰国しました。真由さんと睦子さんは、それぞれ、旅の前後で、どんな変化があったと感じているのでしょうか?
真由さん: 大学が、以前よりも小さく見えましたね。馴染みの校舎に帰ってくることができたという安心感もあったのですが、海外で経験したいろいろな出来事が、自分の心が許容できる事の範囲を押し広げてくれたのかもしれません。優秀な同級生に対して感じていたコンプレックスも、いつの間にか無くなっていました。本当にさまざまな人たちに出会ったので、人と自分の間にある少しの違いで動じたり、圧倒されたりすることがなくなりました。「違って当たり前」、「自分は自分」と思えるようになったんです。
また、批判的な視点が身についたと思います。講義を聞く際、習ったことを素直に受け入れるだけでなく、疑問も抱くようになりました。たくさんの人と出会う中で触れた多様な考え方や行動が、具体的な姿として自分の中に残っているからこそ、講義の内容について「本当にそうなのかな?」と思うことが増えたのだと思います。授業へのフィードバックシートに質問を書くことが増えると、先生方から次の授業で、疑問に対して丁寧にお答えいただける機会も増え、学びが深まるようになりました。

睦子さん: 帰ってきた娘が、出発前とすごく変わったとは思っていないのですが、外国で他者と共同生活するなかで身につけたんだろうな、というそぶりを日々の生活の中でふと感じましたね。買い物や洗濯物を、それまでだったら当たり前に家族一緒にしていたのを、自分のことは自分でやるようになっていたりとか。

真由さん: 以前はお菓子が食べたい時はお母さんにまとめ買いしてもらっていたけれど、今はポテトチップスが食べたいなと思ったら、帰り道に自分で買って食べちゃったりとかね(笑)。
梅田さんは4月に就職し、海運関係の仕事に就きます。進路を選んだ理由の一つは、やはりグローバルに活躍できるという点にありました。
真由さん: 卒業後は、海運業界に進みます。魅力を感じたのは、まずはビジネスの舞台がグローバルであるということ。あとは、自分が社会の役に立っていると実感できそうだと思えたこともあります。日本は島国で、物資の99.8%は船で運ばれてくるそうなんです。海運がなければ日本の経済は成り立たない。ただ働いてお金を稼ぐんじゃなくて、他人や世の中の役に立つことを意識できるのは素敵だなと思いました。
もちろん、仕事でも海外に行けたらいいなと思っています。配属によりますし、自分ですべて決定はできないですが、海外駐在などのチャンスがあれば、積極的につかんでいきたいですね。
この先の人生、必ずしも常に仕事だけに集中できるわけではないと思います。女性は、ライフイベントがキャリアに与える影響が、男性と比べて大きい部分もあると思います。でも、だからといって仕事を諦めるのではなくて、仕事も家庭も両立できる女性になりたいですね。津田塾にも、学内の保育所にお子さんを預けながらお仕事をなさっている女性の先生方がいらっしゃいます。そういうロールモデルを見ることができたのはすごくありがたかったです。女性だから・男性だからという考え方をせずに、一人の職業人として、仕事を全うできるように努力したいですね。

睦子さん: 貴重な経験をした大学生活だったと思っています。大学に入って刺激を受けて、更に外に出て知らない世界に出会って。自分で道を切り拓いていったのも、頼もしかったです。ただ、社会に出たら、これまで以上に思い通りにいかないことって増えると思います。そこでどうこらえるか、対処するかみたいなところをこれからも学んでいってほしいです。海外でいろんな人に出会ったと思うけれど、就職したら就職したで、またいろんな人がいて、いろんな文化があると思うので。大学やワーキングホリデーでの経験を活かして、うまく乗りこなしていってくれれば、と思います。
最後に、大学生活の振り返りと今後の抱負を伺いました。
真由さん: 私にとっては、津田塾は、入学前にイメージしていた通りの大学でした。遊んでいるように見えても、皆やることはちゃんとやる真面目さがある。友達と話していても、ちょっとした会話がいつのまにか議論に発展していたたり、意見交換が活発です。思っていることはあまり遠慮せず、お互いに伝え合う。大学生活を楽しみつつも、チャレンジしてみたいことがある人にとっては、がんばれる環境が整っていると思います。私の場合はやりたいことが英語でしたが、それ以外の内容でも変わりません。意欲のある人を歓迎してくれる大学だと思います。
社会人になるにあたっては、不安がないわけではありません。でも、私は多分、新しい環境に飛び込んでいくのが好きなんです。今の時点では期待と不安が半々くらいですが、就職した先の新しい世界でも、楽しみながら、新しいことに挑戦していけたらと思っています。 
[ 聞き手:太田あや(ライター)・文:ナカタナツミ(ライター)・写真:赤松洋太(カメラマン) ] 
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