第16回 学生スタッフレポート

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生きることに意味がある- 時代の子としての私から考える

奥田 知志 氏(認定NPO法人抱樸 理事長)

「総合2023」第16回講演、10月19日は奥田知志さんにお越しいただきました。奥田さんは、生産性の高さが求められ、誰もが生きる意味を探さざるを得ない社会の中では「生きていることに意味がある」と存在そのものに価値を見出すことの重要性についてお話ししてくださいました。

まずはじめに奥田さんは、ホームレスの問題について説明してくださいました。ホームレスと言うと、経済的困窮により家がない状態がイメージされますが、奥田さんはホームレスは経済的困窮だけに限定されたものではなく社会的孤立であり、家やお金の問題を超えて人の問題であると言います。35年ほど前から現在に至るまでホームレスが若者に襲撃される事件が度々起こりますが、こうした事件の加害者と被害者にはホームと呼べる人との関係がなくなっているという共通点があるそうです。

また、経済的格差はもはや命の格差となっている現状についてもお話ししてくださいました。2022年に東京都心を台風が直撃した際、ある区の避難所は外国人や旅行者を受け入れた一方で、ホームレスの人々は避難所から大雨暴風の吹き荒れる中に追い返されたそうです。さらに、奥田さんがホームレスの支援施設を作ろうとした際には「生産性の低い施設を配置するよりも生産性の高い施設を考えてもらいたい」と住民反対運動が起きたそうです。お金が儲かるかどうかを基準とした生産性の高さが求められる社会の中で、とあるホームレスの方は毎日寝る前に「もうこのまま二度と目が覚めないように」と毎日祈るほど追い詰められているそうです。

しかし、追い詰められているのはホームレスの人々に限った話なのでしょうか。奥田さんは、周囲の評価を気にし、承認欲求は強いが自己評価は低い若者はこの世の中全体に溢れていると言います。ホームと呼べるような人との関係性がなくホームレスを襲撃する若者や、2016年に起こった相模原市の事件で、社会のためにと19人もの障害者を殺害した植松さんもそのうちの一人です。奥田さんは事件後に植松さんと面会した際の以下のやりとりを紹介してくださいました。

   「移動と排泄と食事ができない人は国家の手で殺すべき、迷惑をかけている存在だ」(植松さん)
   ——役に立たない人間は死ねということか(奥田さん)
   「その通りです」(植松さん)
   ——君は役に立つ人間だったのか(奥田さん)
   「僕はあまり役に立ちませんでした」(植松さん)

そして奥田さんは、「役にたつ/立たない」「生きる意味がある/ない」という線は彼が引いたものではなくこの社会にすでに引かれていて、彼は分断線の上の「役に立たない・生きる意味がない」側にいたのではないか、だからこそ障害者を殺すことで社会の役に立ち、自分は生きる意味のある人間だと証明したかったのではないかとお話しされていました。

「役に立たないから障害者を殺した」という結果だけ見ると、理解できないと感じるかもしれません。しかし彼を動かしたのは、生産性の高さを重視し、命の格差が歴然とあるこの社会の価値観です。おかしな彼一人の事件として片付けるのではなく、自分が生きる社会にこのような価値観があるということ、それはどこから来たのか、どうしてこんなにも蔓延っているのかを考えていかなければいけないと思いました。19人もの人を殺害した植松さんは死刑囚になりました。行為の結果を見れば当然のことなのでしょう。しかし、植松さんが社会の価値観の中で追い詰められ、自身の生きる意味を求めていたのだとすれば、凶悪犯罪者だから死刑になって当然だ、そんなことをしたあなたに生きる意味はない、と言い切ることはできないと感じます。死刑判決を出した社会は、植松さんが障害者に対して生きる意味はないと言ったように、植松さんに生きる意味はないと言ってしまってはいないでしょうか。

さらに、講演の中で印象に残っている言葉があります。それは、「絆の中には傷が含まれている」ということです。人と人とが一緒にいれば傷つくこともあり、大変なこともありますが、大変なことは必ずしも不幸なことなのではなく、人は、人の存在そのものに価値を見出すことができると奥田さんは言います。この話を聞き私は、傷つきが伴っても壊れない関係性を作りたいと思いました。そういう関係性に満ちた社会であれば、今生きているから生きていこうと誰もが思えるのではないでしょうか。

この社会に歴然とした命の格差があり、人が人にあなたに生きる意味はないと突きつけるような価値観があるという、見えているはずで見たくなかったことをひしひしと感じさせられる講演でした。自分がいる社会がどんな構造で誰を周縁化しているか、地続きの世界で誰かを切り離してしまっていないかを顧みつつ、自分がこの世界でどこに立っているかを考えて日々生きていこうと思いました。

国際関係学科4年 どんぐり

コメントシートより

  • 生きる意味を探すのではなく、生きていること自体に意味があるということを認識することが大事だと考えた。
  • 「大変」だなと思うことがあっても、大変だけど楽しいとかやりがいがあると思うことができて、それは「不幸」ではない。
  • 今回の講義を聞いて他者の存在の必要性について考えさせられた。他者との出会いを通して生きる意味を知っていく、という考え方に共感できた。
  • もっと人に頼って良いんだなと感じた。今まで、人に迷惑をかけてはいけない、とか失敗したのは自分のせいだという自己責任論で生きてきたため、他者に相談することに抵抗があった。しかし、授業の中で他者とのつながりが生きていくうえで大切で、SOSを発信することの重要性に気づかされた。自分のことを心配してくれる友人や家族を大切にし、私もまた友人や家族のことを大切にできる人間になりたいと思った。
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