第4回 学生スタッフレポート

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ことばで自分が軸になってみる——タイ語の場合

福冨 渉 氏(タイ語翻訳・通訳者、タイ文学研究者)

5月18日の「総合2023」第4回講演は、福冨渉さんに講演していただきました!
福冨さんは、タイ語の翻訳と通訳、タイ文学研究をされており、タイ語・日本語間の翻訳の視点から「自分軸」とは何だろうかというお話しをしてくださいました。

講演は、翻訳とは何か、いい翻訳とは何なのかという問いかけから始まり、裏方と言われる翻訳者の存在が見えない、いわゆる「透明な翻訳」が可能なのかを考えていきました。そこで、翻訳というプロセスは、単にある言語を訳す作業なのではなく、原文が書かれた背景や翻訳先の社会の文脈を理解しながら、翻訳者なりの解釈で著者と読者を繋ぐことなのだと知りました。講演中、実際にタイ語の例文を挙げ、日本語に訳す過程を実践してくださったのですが、選ぶ単語や語尾が異なるだけで、全く違った印象になってしまうことがわかり、異なる文化を持った言語の言葉を繋ぐことは責任ある慎重な仕事なのだと感じました。

また、原文と翻訳先が置かれている背景だけでなく、翻訳者の人格も大きく影響してくるという話が印象的でした。例えば、女性が話す場面で、語尾を「〜だわ」、「〜なのよ」のように役割語を付けることがありますが、日常的にそのような話し方をする人は少ないのではないのか、一度立ち止まって考えるのだそうです。翻訳をする過程で、日常に潜む思い込みに気づいたり、自分の経験や受けてきた教育の影響を自覚するとおっしゃっていて、私も今後、大学の語学の授業で意識してみたいと思いました。言葉だけでなく、その国の文化・政治・歴史や、さらに自分のことまでも深く学ぶことができそうです。

講演後半では、福冨さんがタイ語翻訳をするようになったきっかけなど、これまでの人生を振り返っていただきながら、「自分軸」について考える時間になりました。小学生の頃の体験についてお話しされたときに、当時は日常の1シーンだった出来事も大人になって振り返ってみると今にとても影響している、と福冨さんはおっしゃっていました。それを聞いて、子どもの頃の体験や当時感じたことが、自分という人間の構成に深く関わっていて、過去を振り返ることが、自分にとっての自分軸とは何なのかを考えるきっかけになるのだと思いました。

さらに、福冨さんがタイの方々との交流から影響を受けたことの中に、彼らの自尊心の高さがあるという話もしてくださいました。彼らには絶対的な自分があって、他の人も同じようにその人であるということを認めているからこそ、困っている人を見かけても敢えて先に動くことはしないそうです。その代わりに、助けを求められれば親身に協力するのだそうです。相手の考えていることを先回りして助けようとする日本の優しさとは別の、強い優しさがありました。自分の軸というものは毎日変わっていくものだけど、自分は絶対的に自分であることを受け入れるという考え方は新鮮で、迷ったときの背中を押してくれそうな、価値観でした。

福冨さんにとって自分軸を考えることは、自分が受け取ってきたものを他の人へ受け渡していくプロセスで、何者でもなかった自分が何かの軸となっていくことだそうです。福冨さんがタイという国や言語を通して触れてきたものを、今度はご自身が中心軸となって、他の人へ伝えていく、その一つを今回の講演で私たちは受け取りました。次は私たちがさらに興味を広げていく番です。
情報科学科3年 ビスケット

コメントシートより

  • 私は12年間同じ学校に通っていたため、自分の環境の外の変化を最近多く感じています。自分では、わかっているつもりでも、わかっていないと言うことを大前提に、自身の興味関心の深掘りをしていく必要があると強く実感しました。
  • 福冨氏の「自分の世界は狭く、新しい世界はもう一度自分を見直すチャンス」とおっしゃったことから今大学生になったばかりで学校という小さな枠組みの中でしか生きたことがないが日々の出会いは大切なんだと気付かされた。
  • 人生はインプットとアウトプットの繰り返しなのかもしれないと思いました。人から影響を受けて、また自分も誰かに影響を与えてその繰り返しなんだと思います。そんな中で自分の軸を形成していくのだと思いました。
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