第22回 学生スタッフレポート

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カテゴライズされる社会は生きづらいのか?「自分らしさ」の見つけ方とは?

木本 奏太 氏(YouTuber/映像クリエイター)

こんにちは!「総合2022」第22回、12月8日(木)の講演は、YouTuber・映像クリエイターの木本奏太さんにお越しいただきました。木本さんは、トランスジェンダー、かつコーダ(耳が不自由な親から生まれた、耳が聞こえる子ども)で、性別適合手術を経て男性になった方です。現在は、YouTubeチャンネル「かなたいむ。」にて、LGBTQや耳が聞こえないご両親との生活などを発信されています。


木本さんがトランスジェンダーであることに関連して、性のあり方やLGBTQの概要を改めて教えてくださるところから講演が始まりました。まず、性のあり方は身体的性別・性自認・性的指向(誰に対して恋愛感情を持つか、持たないかなど)・性表現(服装など)の4つの要素で成り立ちます。その中でも性自認・性的指向に関するカテゴリーはLGBTQ以外にもあり、特に恋愛感情・性的欲求について細かく分類されていました。この性のカテゴリーが紹介されたとき、色々な恋愛傾向がそのように分類できると知って驚きました。同時に漠然と持っている自分の指向にも、もしかしたら名前があるのかもしれないと考えました。また、木本さんはコミュニケーションにおいて、「彼氏はいるの?」というように異性愛前提で話を進めたり、質問をしたりしないように言葉の選び方・話し方に気をつけること、社会情勢や自分自身のバイアスを知っておくことが大事と受講生に呼びかけられていました。


次に、自分がダブルマイノリティであると気づいてからの葛藤についてお話ししてくださいました。幼いころスカートを履くことに違和感を抱いたり、木本さんのご両親と他の人の親との違いに気づいたりしたことをきっかけに、自分は多くの人とは違うのではないかと感じたという木本さん。成長していくにつれ、人と違うことは良くないことだと思ってしまい、本当の自分を隠して生きていこうとした時期があったそうです。それまでの木本さんは生活の中で生きづらさを感じていたけれど、言語化ができず周りにも相談ができなかったといいます。
転機は大学生のころでした。周りの人に恵まれたおかげで、人と違うことは自分らしさでもありアイデンティティでもあることに木本さんは気づくことができました。それがきっかけで、自分らしく生きていくために、性別適合手術を受ける決意をしたそうです。


こうした経験をふまえて、木本さんは受講生へ2つのアドバイスを送ってくださいました。1つ目は、自分のしんどさから社会を見ることです。しんどいと思ったとき、自分のせいにしてしまいがちですが、もしかしたら自分だけが悪いわけではないかもしれません。その例として、木本さんはカミングアウトを挙げていました。人に言い出せないことは自分が弱いから、打ち明けたことで生じた環境の変化に耐えられないのは自分が弱いからと、原因を自分に向けてしまうケースがあるといいます。木本さんは「全て自分が悪いわけではない。カミングアウトしにくい周りの環境が原因ということもある。」と力強く語ってくださいました。またカミングアウトをするか否かは自分の自由で、たとえ言わなかったとしても自分にうそをついているわけではないと、当事者に寄り添った言葉もありました。様々な原因から、誰しも生きづらさを感じることがあると思います。私は、しんどいと思ったら自分なりに理屈をつけて、気持ちの整理をすることが多いです。つまり、自分のせいにしがちでした。しかし木本さんのアドバイスのおかげで、しんどいのは自分のせいじゃないこともあるという考え方を手に入れることができ、気が楽になりました。
2つ目は、社会の現状を見て自分の生きづらさの本質は何かを考えることです。冒頭で書いた通り、木本さんはトランスジェンダーであり、コーダでもある方です。まずトランスジェンダーとして社会の現状を見ると、日本では同性婚が認められていないこと、戸籍上の性別を変えられる条件に不妊かつ未婚が含まれてしまうことといった、LGBTQの方々が人権侵害と声をあげている問題、LGBTQに対するヘイトスピーチなどがあります。一方、コーダとして社会の現状を見ると、耳の不自由な方々の現状があまり伝わっていないこと、話題になったドラマ『silent』(2022年10月期にフジテレビ系列で放送)のように耳が不自由な方々について知る機会があっても、コンテンツとして消費され、問題解決につながっていないことがあります。このようなことがわかり、自分の生きづらさの本質はこうあるべきという規範による抑圧からくるものだったと、木本さんは気づくことができたそうです。そのため、生きづらさの原因を突き詰めると自分のせいではないかもしれないと、木本さんは受講生に寄り添ったコメントをしてくださいました。


最後に、自分のアイデンティティを言語化できるようになった今の心境を話してくださいました。かつて、自分が悩んでいることは自分しか抱えていない悩みだと思っていた木本さん。今は、自分以外にも同じようなことで悩んでいる人がいるんじゃないかと周りにも視点を向けられるようになったそうです。こういった変化を経て、「『生きていれば幸せになれる』と耳にすることがあるけれど、『生きていれば見方が変わる瞬間がある』と捉えた方がしっくりくる。だから、自分のぶれない軸も大切にしてほしいけれど、自分はこうなんだと頑なになる必要はない。」と木本さんがおっしゃっていたことが印象的でした。今しんどい人に「生きていたら幸せになれる」と声をかけたとしても、救いにはならないと思います。しかし、「生きていれば見方が変わる」と聞いたとき、過去に私自身が辛いと思っていたことから脱却できた経験をその言葉に重ねることができました。


木本さんは、「総合2022」のテーマ「枠」についても、「カテゴライズ」という視点からお話ししてくださいました。カテゴライズは、LGBTQの方々のように人権があるはずなのに人権が守られていない人がいる現状を改善していくために、必要なことと述べられていました。同時に木本さんは、このようにカテゴライズすることが必要な場合はあるけれど、カテゴライズすることで誰かを排除してはいけないと警鐘を鳴らしました。分類することで誰かを排除しないことは、社会問題について考える時だけではなく、自分について考えるときにも有効だと私は考えました。最後に「枠」に囚われないことというのは、やみくもに何かと切り離すことやルールを守らないことではなくて、「枠」そのものや自分を「枠」に分類することが必要なくなるということではないかという考えが紹介されて講演が締め括られました。


今回は、自分の中の「枠」と社会の「枠」の関わりを考えさせられる講演でした。この講演を通して、多様な視点があると知ること、そういった視点に立って考えること、自分の中の偏見に気づくことを学べたと思います。



国際関係学科4年 あじさい

コメントシートより

  • 木本さんは講演の中で、「あなたは悪くない」というフレーズを繰り返し使用していた。このことから、マイノリティと分類されてしまう社会で少数派であると自覚し他人から少数派としての対応を受けてきた木本さんだからこそ言える言葉であると感じた。決めつけられる、前提があることが常である現代で、性別だけではない自分のアイデンティティやバックグラウンドが否定されたり、違うと思わせないようなインクルーシブな社会の創造が今後の世代に求められることの一つであると考える。
  • 困り事がコンテンツとして消費され、改善につながっていないというお話が印象的でした。耳の聞こえない方がいることはよく知られていても日常的に手話を見ることはほとんどなく、電車の放送など耳から得なければいけない情報はたくさんあると感じます。メディアやインターネットの普及で障害がある方の困っていることを知る糸口は増えているが、それを聞いて今の社会がどのように変わったら解決するのかというところまで考えなければいけないのだと思いました。
  • LGBTQなどの影響で社会の認識が変わりつつある現代で、「自分らしさ」というものを持つことは大事であるが、その自分らしさは一つだけではなくていいということを改めて感じることができました。自分のコンプレックスなどをオープンにできないことが自分に嘘をついているということにはならないという言葉を聞いて、自分の中にある考えや思いを大事にしたいと思えました。
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