第19回 学生スタッフレポート

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いま、ここに生まれるワンダー ヒマラヤ、自然、枠のない世界にふれて

戸髙 雅史 氏(登山家・野外学校FOS及びうめキャンプ村そらのほとり代表)

「総合2022」第19回、11月17日(木)の講演は、登山家の戸髙雅史さんにお越しいただきました。戸髙さんは登山家で、エベレストに次いで高い山K2に無酸素で登頂するなど、世界で単独や無酸素で高所登山をされてきました。今回の総合では、山に登る中で感じ考えた、自然のなかで自己の枠が外れるという体験、単独登山を通して感じた「ひとり」でいるということについてお話ししてくださいました。

戸髙さんが初めてヒマラヤに登ったのは23歳のときで、一度は他の道を歩もうとしたものの、命が存在し得ない宇宙のような世界に惹かれており、このままでは後悔するとの思いから登山家の道を歩むことにしたそうです。9ヶ月間トレーニングとアルバイトをし、3ヶ月間かけて8000メートル級の山に行き、登るという生活を16年続けた戸髙さんは、10年目ごろから山を身近に感じられるようになったそうです。

山の変化を感じ、行ったことのない山でも故郷のように感じられるようになるまでの10年には、自分の枠が外れるという体験がありました。それは、戸髙さんがデナリという山にひとりで挑んだ時のことです。北米大陸最高峰の山にひとりで登るという危険には怖さがあり、引き返す口実を探しながら登っていた戸髙さんでしたが、吹雪の中を歩き続けていた4日目には怖さがなくなったそうです。戸髙さんはこの体験について、意識の中に枠が作られており山の中にいながら山の中にいることができていなかったが、自身の限界を越えたことでその枠が吹き飛び、枠を外して生きることに気づいたと言います。

また、ブロード・ピークという山に登っている時に、食料を落としてしまったことも大きな体験になっているようでした。食料を失ったことで、次の一瞬を目指して今を生きるしかなくなり、意識の中で考えていた過去や未来が消えて枠が外れ、「ただ今登るだけ」という一瞬一瞬を生きる時間となったそうです。

そうした体験の中で戸髙さんは、突き詰めると人はひとりなのではないかと考えるようになったそうです。しかし、「ひとり」を極めようと単独で登ったK2では少し先に誰かがいて会話をしているような感覚があったことから、戸髙さんは「ひとり」というのは自分の一瞬を賭して世界と繋がる感覚であり、自分が自分の感覚で立てると安心するのだと考えるようになったと言います。また、孤立してひとり居ることで自分の感覚に立つことができるが、生きるべきは自分ひとりがいる孤立の世界ではなく、全ての命が繋がっている麓なのだと感じたそうです。

この講演を通して私は、学校生活やSNSで常に社会や他者との繋がりがありひとりで居ることが難しいようにも感じる一方で、物理的にひとりで居ても世界と繋がっているという感覚がなく孤独に苛まれるのは、自分の感覚に立てていないためなのだと気づきました。また、社会は枠だらけで生きづらいと感じていましたが、社会に枠があるから生きづらいのではなく、枠に縛られて自分の感覚を見失っているために生きづらいのだと気づきました。

そして、未来を見通して行動することが是とされる空気の中で将来のことばかりを考えて不安になり、目の前の課題をおざなりにこなしている毎日を続けるのではなく、一度立ち止まって、今生きている自分を感じ自分の感覚に立てるようにしたいと思いました。
自然の中にいれば必ずしも枠が外れるわけではないものの、自然と向き合う中では、特にひとりでそうしているときには、社会の枠から距離を置き自分の感覚に立つことができるのではないかと思います。今すぐに戸髙さんのような高所登山に挑むことは難しいですが、私は海の近くに住んでいるので海を眺めて、海の音を聞いて、海の中に入って、目の前の瞬間を積み重ねることを試みようと思います。みなさんも、日常の中で自分自身の今を見つめられる場所や時間をつくり、一歩一歩、今を積み重ねて生きることを意識してみてください。
国際関係学科3年 どんぐり

コメントシートより

  • 今までの講演は自分に作用する「誰か」が登場しましたが、今回の講演は「ひとり」を肯定していて驚きました。枠の定義の多様性に気付かされました。
  • 自分で立っているという感覚が大切。どれだけ仲間がいて物理的に孤独ではなくても自分で立てていないと恐怖が襲ってくる。
  • ひとりで山登りをすると、「優しいいつもの世界」から遠くに来てしまったような感じがするという言葉にとても納得しました。それでもひとり孤立というのを経験できるからこそ、自分の感覚に立つことができ、世界とのつながりを再確認できた。というのがすごく印象深く感じました。
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