第16回 学生スタッフレポート

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世界の片隅の声なき声~今、何ができるか?~

森下 雄一郎 氏(活動家)

こんにちは!「総合2022」第16回、10月20日(木)の講演は森下雄一郎さんにお越しいただきました。森下さんは元プロバスケットボール選手で、現在は活動家として世界中を旅しながら各国の片隅に暮らす人々の声なき声を聴き歩き、その声に寄り添う活動に取り組んでいます。これまでにアフリカ大陸24カ国170地域をはじめ、ロシア、ウクライナ、ミャンマーでの戦地における人道支援に取り組んできました。森下さんの現地での体験をもとにした講演は、国際的な人道支援のあり方や平和のために自分に何ができるのかを考えるきっかけになったのではないでしょうか。

森下さんは、プロバスケットボール選手としてアメリカで暮らす中で得た経験に、現在の活動の原点があると話して下さいました。アメリカでのホームステイ先として森下さんを受け入れた監督は、第二次世界大戦で親族を亡くしており、アメリカと日本は仲良くする必要があるという思いがあって森下さんを受け入れたそうです。その監督と、さらに後に生活をともにした友人も、森下さんに「バスケットボール選手を引退した後は世界の平和に貢献しなさい」と話されたそうです。また、森下さんは彼らに広島や長崎のことも尋ねられました。当時の森下さんは上手く答えられず、この経験がきっかけで引退後は広島に移住し、当時の広島を知る方々にお話を聞くようになりました。そして広島での活動を通して、森下さんは平和を願う彼らの声を世界に届けたいと考えるようになりました。

その後、森下さんは広島の人々の声を伝えるためにアフリカへ行きました。声を届ける活動をする中で、たくさんの現地の人々の声を聞くようになり、森下さんはそういった声に寄り添う活動がしたいと考えるようになりました。この経験が、困窮している人々に寄り添い、必要な物を届けたいという現在の思いに繋がっています。このことは、現地の人々の声、つまり他者の声を聞く中で森下さんの活動の道筋が見えてきたということであり、他者によって自分のことに気付き、自己理解を深めることに繋がっていると感じました。

森下さんは現地での活動をビデオに残しており、講演は、様々な地域で撮影されたビデオを見ながら森下さんが状況を補足する形で進められました。どの地域の映像でも現地の人々と森下さんが笑顔で映る様子が印象的でした。ある地域では「窓がある家で余生を過ごしたい」と語る98歳の方の声に耳を傾け、森下さんは必要な材料集めから家の建設まで現地の方とともに行いました。森下さんは村では現地の方とともに生活することを大切にしており、支援する時だけ出向いて休む時はホテルに泊まるのではなく、食事から睡眠まで彼らとともにすることで生まれる信頼関係を大切にしていると話して下さいました。

ロシアがウクライナに侵攻した際、森下さんはロシアとウクライナに支援に向かいました。当時、森下さんはロシアに支援に行くことで批判を浴びましたが、ウクライナの東側の避難民がいるロシアへの支援も必要であると考えて行動を起こしました。さらに他の理由として、ある地域が困窮していると報道された時、そこに注目が集まり、他の地域に支援が回らないことがあるというお話を挙げられました。森下さんは公平な視点を持つことの大切さを重要視しており、ロシアの国際法違反を認めた上で、一般市民はどう考えているのか、双方の声を聞くためにロシア、そしてウクライナへ行きました。どちらが良いか悪いかを判断するよりも、目の前で困っている人を助けたいという思いが伝わってきました。

講演を通して森下さんのパワフルさに驚かされました。森下さんは、首都はまやかしが多く、その国のどこが困窮しているのかといった国の全貌は、首都から離れた村に行くことで明らかにできると考えています。ではそういった村の存在はどのようにして知ることができるのでしょうか。森下さんはまず首都に向かい、そこで道行く人から情報を集めるそうです。困窮している地域を探すだけでなく、現地の言葉と少しの英語が話せそうな人もそこで探し、村で通訳をしてもらえる人も現地で見つけるそうです。何か行動を起こす時、あれこれ言い訳をしてしまって行動に移せないこともあると思います。そんな時、森下さんの現地で情報や人材を探し出すパワフルな姿勢は、私たちにとって良い刺激になったのではないでしょうか。

質疑応答の時間では、森下さんは国際的な人道支援のあり方についても答えて下さいました。一時的な支援と継続的な支援についてのお話で、継続的な支援は確かに理想ですが、理想を追い求めるあまり、何もできなかったり、上手くいかなかったりする場面をよく見るそうです。国際的な人道支援において、森下さんは0か100かといったことはしたくないと考えています。NGOの中には、現地の人々が今日食べる食糧を必要としていても、それは継続的な支援にならないからと断る団体もあるとのことで、それに対して森下さんは疑問を持っています。継続的な支援にならなくても、現地の人々が望んでいることに全力で応えたいという、森下さんの根底にある思いが感じられました。

また、私たちにできることは何かという質問にも答えて下さいました。森下さんが現地に向かう際、友人である歌手のAIさんが森下さんに寄付を託し、帰国後には「私ができないことをしてくれてありがとう」と連絡してくださることを話して下さいました。森下さんの活動内容だけを聞くと、自分にはできないと無力感を感じてしまう人もいるかもしれませんが、森下さんは自分のようになって欲しいとは考えていません。支援といっても様々な形があり、現地に赴いて直接支援することだけが全てではないのだと感じました。私は、森下さんのような活動をされている方に感謝することや、大学で国際関係について学ぶことも、大きく捉えると支援の一つなのではないかと思います。

森下さんの講演を通して感じられたのは、現地の人に寄り添い、彼らの声を聞いて応えることの大切さと、直接現地に行くことができなくても私たちにできることはたくさんあるということです。自分は無力であると感じる必要はありません。今回の講演を通して小さなことでも自分にできることを探すきっかけになると嬉しいです。
国際関係学科2年 シンシン

コメントシートより

  • ゼロ100で考えたくないという言葉がとても刺さった。何もしていない人に限って「それは一時的」というのは、とても良くある話で耳が痛かった。持続可能な取り組みができないことが悪ではなく、本当に彼らが望んでいることをたとえ一時的だと言われたとしてもやってみるということはもしかするととても良い方向にいくかもしれないと感じた。自分も口だけの人にはなりたくないと思った。
  • 講演では支援が届かないアフリカの奥地の村や、ロシアの国境付近で被害を被っている人々など違う土地で違うバックグラウンドを持つ人たちに対しても、一貫して「困っている人を助ける」「人の声を叶える」という信念が平和に一歩繋がると感じた。映像の中で森下さんは常に笑顔でいるという点に気がついた。どれだけ危険で慣れない土地でも笑顔で人と接している姿に、「人の夢を叶える」という目標に対し笑顔が架け橋になっているような印象を受けた。
  • 森下さんの講演を聞いて、自分は何をすれば世界に貢献することが出来るのかを常に考え、例えその出来ることが自分にとって小さなことに感じても、現地の人々にとってはとても嬉しいことであるということを頭におく必要がある。何をするかでなく、何かをしたという事実がとても大事であると学んだ。私も森下さんのように世界のために行動できる人間になりたいと思った。
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