第6回 学生スタッフレポート

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弱さの生かし方

澤田 智洋 氏(世界ゆるスポーツ協会代表理事 / コピーライター)

こんにちは!6月2日(木)「総合2022」第6回は、「世界ゆるスポーツ協会」代表理事で、コピーライターの澤田智洋さんに講演していただきました。澤田さんは、誰もが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ協会」を設立された方です。今回はオンラインで収録した講演をお届けしました。

講演冒頭で、澤田さんが手がけるマイノリティデザインの概要と、それを仕事とするようになった背景についてお話ししてくださいました。マイノリティデザインは「今ある基準に合わせるのではなく、ひとりを起点に新しい基準を作る」ことをコンセプトに手がけるプロジェクトです。その一環で、澤田さんは多くのプロジェクトを手がけていらっしゃいます。

元々コピーライターとして仕事をされていた澤田さん。しかし、お金がある会社から依頼されたCMや広告制作をする仕事をしているうち、コピーライターの仕事は「強いものをより強くする仕事」だと感じ、それに対して違和感を覚え始めたといいます。その矢先に新たな気づきをもたらしてくれたのは、全盲の息子さんの存在でした。障がい児の子育てについて知りたいと思った澤田さんは、当事者の方々に話を聴きたいと思ってアクションを起こします。そのアクションを通して得たのは、弱さは克服するものではなく、むしろ活かせるものではないかという発見でした。そうであるならば、「マイノリティは世界を前進させるキープレイヤー」であり「すべての弱さは社会の伸びしろ」だと考えた澤田さんは、マイノリティデザインのプロジェクトへ動き始めたそうです。マイノリティデザインのマイノリティの定義は「社会とのミスマッチが生じている全ての人」ということで、全ての人がそれぞれに適した環境にいてほしいという願いを込めているそうです。

澤田さんはまず、義足女性のファッションショーでマイノリティデザインの仕事を始められました。次に取り組まれたのは、視覚障がい者のためのマイノリティデザインです。視覚に障害を抱える人は、この時代においても勘と勇気で信号を渡っているという事実があります。その環境を変えるために、澤田さんはNIN_NINと呼ばれるロボットを企画されました。NIN_NINは足の不自由な方が遠隔から操作していて、視覚障がい者の方に指示をしたり、会話をしたりすることができます。同時に、足の不自由な方はNIN_NINのカメラを通してお出かけをしている気分を味わうことができます。つまり、足の不自由な方は目の不自由な方に目を、反対に目の不自由な方は足の不自由な方に足を貸すことができるのです。これが、NIN_NINがボディシェアリングロボットと呼ばれる理由です。NIN_NINが生まれたきっかけは障がいを抱える人ですが、観光で見知らぬ街を歩く時など障がいのあるなしにかかわらず多くの方に使われています。

さらに澤田さんは、ご自身の弱みと向き合ったおかげで生まれた、マイノリティデザインを紹介してくださいました。それは「ゆるスポーツ」です。ゆるスポーツは、澤田さんご自身の短所である運動音痴を「スポーツマイノリティ」と言い換えてみたことがきっかけとなって生まれました。

100以上ある競技の中から、講演では2つの競技を紹介してくださいました。1つ目はベビーバスケです。バスケットボールを赤ちゃんに見立てており、通常のバスケのように速いスピードでパス回しをするとボールから赤ちゃんの泣き声が鳴り、ファウルとなってしまいます。そのため勝利のコツの1つは、ゆっくりパス回しをすることとなります。これは運動が得意でない人たちが自分の前に向かって来るボールのスピードが速くて怖いと口を揃えて言ったことにご自身も共感し、考案したスポーツだそうです。2つ目は500歩サッカーです。1試合で使える歩数が500歩と決まっており、万歩計のようなゲージを腰に身につけてプレーします。動くと歩数が減りますが、休憩をとると4秒毎に1歩ずつ再び増やすことができます。これは心疾患のあるご友人が激しい運動ができなくて体育の授業に参加できなかったけれど、ゆるスポーツを見ていたらサッカーをしてみたいと思ったという話を聴いて生まれたスポーツだそうです。これまで私は、できないことという「枠」は可能性を摘み取るしがらみでしかないと思っていました。しかし、視点を変えて自分ができないことや短所という「枠」の中身を見てみると、自分自身と向き合ったり、他人に寄り添ったりできる可能性を秘めていると感じました。また、ゆるスポーツの話を聴いていて、できないことがあるならそれを無理に変えずに、寄り添うことで新たな世界が見えることがわかり、自分の弱さとの新たな向き合い方を手に入れられたと思いました。

澤田さんがスポーツマイノリティであるように、皆さんにもマイノリティ性、つまり社会とのミスマッチを感じる部分はありませんか?それらと向き合うことは辛いこともあるかもしれません。しかし、マイノリティ性は社会を良くするきっかけにもなり得るということを忘れないでほしいというメッセージを澤田さんは残してくださいました。自分や他人のマイノリティという「枠」を受け入れ、それぞれのマイノリティ性に合わせた新たな基準を作ることで偏見をなくすことや自己理解に繋がるでしょう。

国際関係学科4年 あじさい
英語英文学科4年 いももち

コメントシートより

  • 社会的立場の弱い「枠」を持つ人々に寄り添うという考えは、理想論としては簡単に述べることができても実行に移すのは非常に難しいことだと思っていた。しかし、それを澤田さんは一意見として終わらせず、実行に移されているというお話を聞き、感動した。その行動力を支えているのは、「既存の価値観や基準に合わせる必要はなく、その人自身の意見に寄り添うことが大切である」という考え方なのではないかと感じた。澤田さんはその考えにたどり着くまで、平坦な道を歩んだわけではないと聞いた時、困難に陥ったり苦労をすることで、見えてくることがあるのだろうと思った。
  • 弱さは成長や挑戦を止める理由にならないものであり、それを生かし新しい基準やその弱さに寄り添い共生することが私たちに求められていることだと思いました。また今あるものの多くは健常で定型発達の成人男性をデフォルトに社会が設計されていてこれにより社会の中でミスマッチが起きることはもっと多くの人が知らなければいけない現実、向き合わなければならない事実だと考えました。
  • 「マイノリティは世界を前進させるキープレイヤーであり、すべての弱さは社会の伸びしろ」という澤田さんの講演途中のお言葉に衝撃を受けました。私自身、苦手なことや人より劣っていると自覚している分野が存在し、無意識にそれを単なる「弱み」だとステレオタイプにより決めつけ、克服するべき課題として捉えていました。しかし、もし全盲の方がいらっしゃらなかったら、もし心臓病の方がいらっしゃらなかったら、と立場を変えて考えれば、自分のマイノリティ性を忘れないことは社会の前進のために、何よりも大事なのではないかと改めて気付かされました。また、スポーツマイノリティや楽器マイノリティなど澤田さんの活動は多岐に渡っており、決して専門家ではない私でも参加、または新たな社会の構築のためにアイデアを出すことが可能なのではないかとワクワクしました。本日の講演内容を心に留め、多角的な視点で身近な社会を見つめ直していきたいです。
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