第5回 学生スタッフレポート

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かけがえのない人生と取るに足らない人生の間

樋口 恵子 氏(東京家政大学名誉教授、同大学女性未来研究所名誉所長)

皆さん、ごきげんよう。

「総合2022」第5回、5月26日(木)の講演は、東京家政大学名誉教授並びに同大学女性未来研究所名誉所長を務める傍ら、NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」の理事長としても活躍されている、樋口恵子さんにお越しいただきました。樋口さんは本学とも関係が深く、40年ほど前に本学にて「女性学」の講義を担当されていたほか、昨年10月には、女性の未来を拓く可能性への挑戦を顕彰するために本学が創設した「津田梅子賞」(第11回)を受賞されました。そんな樋口さんが今回、「かけがえのない人生と取るに足らない人生の間」というテーマでお話くださいました。

「私くらいの年からすると皆さんはもう孫ではありません。ひ孫です」。冒頭、90歳になられたばかりの樋口さんが挨拶すると一気に会場がわきました。終始、そんな和やかな雰囲気に包まれた講演は、樋口さんの人生がまさに「歴史」を強く意識した長い道のりであったことを振り返る内容でした。

樋口さんは13歳の時に終戦を迎え、「生かされた身」だと自覚しました。だからこそ戦後、平和と豊かさが続いてきたことを幸せに感じ、「戦争や歴史に振り回されるだけでなく、民主主義国家の一員として立場に関係なく声を上げ、どうしたら平和を保てるか」を考えてきたそうです。そして同時に「男性とともに女性が日本社会の主人公になってほしい」とも願い、男性中心の社会から男女共同参画社会への転換にも関わってこられました。「生かされた」意味を自問しながら、よりよい社会や制度にしようと向き合ってきた樋口さんのお話の中で、印象的だった言葉を紹介します。

「私は、憲法27条の『すべての国民は勤労の義務を負う』という部分が大好きです。女性も男性と同じように働く、そして働く喜びを知ることができる。人生とはどんなに楽しく、素晴らしいものか」

戦後、「働くこと」がすべての国民の義務となり、当時の女性たちが男性と同じ土俵に立つことができた━━。樋口さんはそんな「歴史」の転換を目の当たりにし、希望を見出したのでした。大学生の私たちは戦争の悲惨さを体験していませんし、戦前の女性の地位が著しく低かった時代についてもなかなか想像できません。現在の日本では、誰もが自由や権利を持ち、女性が社会に出て働くことも普通の景色になりました。その「当たり前」のありがたみを改めて考えさせられました。

さらに「歴史」について次のように強調されました。

「人は生まれる時期を選べません。だから歴史を知って、自分の立ち位置を知る必要があります」「一人の人間としていくら能力があったとしても、革命を起こす規模の力としては物足りません。どんな『歴史』も、女性という取るに足らない存在が、自らの地位向上、教育の機会獲得のために声を上げ、皆で集まり、行動に移してつくり上げられています。彼女たちがかけがえのない命を懸けて、社会のしがらみとやらに戦った『歴史』を私たちは忘れてはなりません」

私は理不尽なことがあってもなかなか人に言い出せず、いつも悔しい思いをしてきました。そんな私とは対照的に、社会を変えようと果敢に挑んできた女性たちがいたことを樋口さんの言葉で気づかされ、勇気や自信をもらえたような気がします。自分だけですべて社会を変えよう、目的を達成しようと思う必要はない。思いを同じくする仲間と協力しながら少しずつ進んでいけばよい。そんなメッセージであるようにも感じました。

「女性史」の始まりである明治初頭から戦後の改革期にかけて、女性が「○○家に生まれた○女」などと呼ばれ、「家」という後ろ盾がないと存在価値を認めてもらえなかった「歴史」。一人の人間として固有名詞の「○○○○さん」と呼ばれるようになるまで、どれだけ多くの女性が対等な地位と権利の獲得に尽力してこられたのか。その年月の長さや先達たちのご苦労に想いをはせました。そして、人生100年時代といわれる現代を生きる女性たちが、こうした「歴史」の大きな文脈を見つめ直すことの大切さを知りました。「学ぶ、働く、生きる」を自由に選択できるようになった歩みを振り返ることで、「歴史」における自らの立ち位置を意識し、自分自身をより深く理解できる。「歴史」とは、なんて偉大なものなのでしょうか。

それにしても、樋口さんの冷めない熱意と高まるばかりの好奇心には脱帽です。樋口さんは日本同様、女性の権利獲得がいまだ十分でない隣国・韓国について「人生にまだ残された時間があるのなら是非とも先頭にたち、韓国と日本の友好な関係構築に携わりたい」とおっしゃったり、「教育をはじめ各分野で女性の活躍が目立つ北欧地域に足を運び、自分の目で実情を確かめたい」などと目を輝かせたりして夢を語ってくださいました。まさに命ある限り使命を全うしたいとの強い決意を感じました。女性史を築き上げた先達たちに敬意を払いながら、自らもその功績に恥じぬよう生きていくことの大切さを、女性が夢を持ち続けることの素晴らしさを、これからも体現していかれるのでしょう。

「今日こうして、2世代も違う皆さんと出会えたことは何よりの喜びであり幸せ。一生懸命生きてきてよかった」と語られた樋口さん。私たち若い世代に対しては、「歴史」を学び、その変革者として生きてほしい、と重みのある「歴史」のバトンを引き継ぐことを願っているかのようでした。

女性が何かを思い立ち、声を上げ、行動に移す━━。そうした小さな歩みを積み重ねてきた「女性史」は、今この瞬間にも私たちの一歩から少しずつ変わりつつあります。「歴史」は決して過去のことでも、はるか先の未来のことでもありません。今、この瞬間も「歴史」がアップデートされるなか、皆さんはどんな人生を歩んでいきますか。

国際関係学科1年 ひまわり

コメントシートより

  • 男女の格差を埋めるために努力を積み重ねてきた先人は、現代社会の風潮を見てどう思うのか、気になった。常に女性が男性の一歩後ろを歩む形であった過去が少しずつ変化し、今は男女関係なく優れた人が認められるべきだという考えが主流になってきている。男女の壁をなくすことが目的であった当時とは違い、誰もが納得できるような社会の実現を目指す現代の風潮を先人たちはどう感じるのか、非常に興味深い。
  • 友達をつくることの大切さを学んだ。当時の女性たちは学校に通えないことで友人と出会う機会を失い、寂しい思いをしていた。一方今の私たちは、どんな人とでも繋がれ、仲良くできる時代を生きている。人間関係に疲れることもあるが、友達を簡単につくることの出来るこの環境にもっと感謝しなければならないと思った。
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