第4回 学生スタッフレポート

  1. HOME
  2. 大学案内
  3. 第4回 学生スタッフレポート

他者と対話していくことは生活の中で不可欠である

益田 裕介 氏(精神科医YouTuber / 早稲田メンタルクリニック院長)

みなさんこんにちは!2022年度第4回目の講演は精神科医として働いている益田裕介さんにお越しいただきました。益田さんは精神科医としてクリニックで働く傍らYouTubeでも精神科に関する動画を投稿されている方です。講演では「外側を知ることで内側を知る」というテーマでお話して下さいました。複数のコミュニティに所属することが当たり前になった世界において、そこに入ることが難しいという意味で「枠」の外側にいる精神疾患を抱える人のことを学ぶことで、自分のことを深く見つめ直す機会になったのではないでしょうか。私たちが持っているコミュニティや常識、文化の中身という意味での「枠」の内側を見つめ直すことは勿論、精神疾患を身近なものとして捉え、向き合い方を考える中で自分の内側を振り返ることもできたと思います。

精神疾患とは何でしょうか。精神疾患は様々な脳の異常をきたす病気ですが、益田さんによるとそれを正しく認識している人は多くないそうです。内科や外科で診てもらうような他の病気と異なり、ここが病気だと断定しにくい性質があることから「精神疾患は甘えだ」「精神疾患は弱い人がなるものだ」といった誤った認識があるのが現実です。しかし、精神疾患を誤って認識することは精神疾患を抱える人に対する認識を歪め、差別や偏見を生み、ひいては私たちが属するコミュニティをも歪め不健全なものにしてしまうと思います。実際、精神疾患は遺伝子や社会ストレスによって引き起こされると考えられており、精神疾患を患うか否かは運の要素が大きいそうです。精神疾患を抱える人はコミュニティに入るのが難しいという理由で「枠」の外側だとしましたが、発症原因を知ると実は精神疾患は誰もが抱え得る身近な病気で「枠」の内側であるとも言えると思います。

このように身近な病気である精神疾患をより自分事として捉えるためには、精神疾患について正しく理解することに加え、益田さんが話して下さった精神療法について知ることが大切だと思います。精神療法とは精神疾患を抱える人に対する治療法の一つです。精神療法には様々な種類がありますが、益田さんはその一つとして概念の拡大を挙げられました。概念の拡大とは自己理解や他者理解、しなやかな思考を身に付けることです。概念の拡大は精神疾患を抱える人だけでなく、健康な人が精神疾患を予防する際にも効果があるそうです。そのため、精神療法自体を学んで取り入れていくことは、精神疾患を自分事として捉える上で役立つだけではなく、あらゆる人、特に今悩みを抱えている人をサポートしてくれるのではないでしょうか。

そんな概念の拡大ですが、私が特に共感したのはしなやかな思考についてです。しなやかな思考は柔軟な思考とも言い換えることができますが、「これしかない」という思考から脱却することとも言えます。「これしかない」というのも一つの「枠」だと捉えることができます。「枠」は必ずしも悪いものではありませんが、もし自分が何らかの考え方に囚われていて苦しいと感じるなら、「枠」から出てみるという選択をとってみると良いかもしれません。

では、柔軟な思考はどのように手に入れれば良いのでしょうか。益田さんはネガティブな思考に囚われ、そこから脱却したいと考える人を例に説明して下さいました。ネガティブな思考からポジティブな思考へと急に路線変更するのは、とても難しい上に元に戻りやすいという点からあまりおすすめできないようです。そこで大切なのは、他者との対話を重ねる中で様々な考え方を知り、ネガティブな思考やポジティブな思考という極端な考え方以外の選択肢を知ることです。様々な考え方を知り、そのプロセスを経てポジティブな思考を選択するのも良いですし、それ以外の考え方が心地よければその考え方を選択していくのが良いそうです。

このように思考のグラデーションを知り、選択するというお話は、極端な思考をしてしまう私の心に響きました。受講生の中にも同じように自分が持つ「枠」から脱却できずに苦しく感じてしまう人がいるかもしれませんが、少しずつ色んな考え方を自分の中にストックすることで、自分にとって心地良く過ごせるようになると思います。勿論、様々な考え方を知る中で、自分が脱却したいと思っていた「枠」も案外悪くないと考えられることもあるかもしれません。そういった面も含めて他者の思考を知り、自分の思考を深めていくことには意義があると思います。

また他者理解に関しても興味深い話がありました。脳の仕組みに関連した話で「感情は学習されるものである」というものです。例えば英語には「肩こり」という言葉がないため、英語圏の人は「肩こり」としてではなく「背中が痛い」と表現してその痛みを認識しています。この例から感情は元から存在するのではなく言語を通して認識され、学習によって獲得したものだと分かります。さらにこのことから感情は普遍的なものではなく、一人ひとり獲得した感情は微妙に異なると言えると思います。「肩こり」と「背中が痛い」では大分ニュアンスが異なるように、感情に対する認識の違いを理解しなければ他者を理解することは難しくなります。同じ言語を話す相手でさえも、育った環境などの前提条件が異なると感情に対する認識も大きく変わってきます。私たちが感じる感情は一人ひとり異なり、同じ言葉で表してもそれが全く同じ感情であることはないと思います。そのため多様な考え方を知ることで感情に対する認識の違いを知ることができ、他者の感情、ひいては他者そのものをより理解できるようになるのではないかと思います。

他者との対話を通して様々な考え方・「枠」を知ることは、しなやかな思考の獲得に繋がり、自己理解や他者理解にも役立つことが分かりました。今回の講演を聞いて精神疾患を身近に感じ、自分のことや他者のことを考えるきっかけになったのではないでしょうか。自己理解や他者理解と聞くと難しく感じるかもしれませんが、色んな人と話をしてみるということが大切なのだと思います。自分と異なる考え方、価値観を知ることで、以前の自分より少し視野が広がった、考えが深まったという経験を積み重ねていくことができると、自ずと自己理解や他者理解が可能になるのではないでしょうか。

国際関係学科2年 シンシン

コメントシートより

  • 講演の冒頭にあった、「人間は群れで生きているから、相対的に自分を見る」という言葉について、特に考えさせられた。自分で自分をよく知っているように思うが、それはあくまで他者と比べた時の自分を知っているにすぎないのではないかと思った。比較することで、劣等感に襲われることもあるかもしれないが、それもまた自分であると受け入れられる強さを学ぶことを通じて、養っていきたいと思う。
  • 今回の講演は今までの講演より身近な話でとても勉強になりました。精神疾患という言葉は身近にありますが、なにかと言われて説明できるほどの知識はありませんでした。今回の講演を聞いて、精神疾患とは遺伝子と社会ストレスから病気が発症することを学ぶことができました。病気の種類も多種多様であり、精神科を受診する人も様々で世の中に病気が発症する人は自分が思っている以上に多い事を知りました。枠を外すことは自己への負担が大きいため、完全に外すことはできないが、外側を知る事で内側を知ることができるということがとても印象的でした。
  • 今回の講演で私は、自分にはあまり関係のないことで、他人事のように感じていた、精神疾患について、どうして発症してしまうのかなどといった基本的なことから学ぶことができました。精神疾患は、遺伝子と学校、職場などでの社会ストレスによっておこる事を知り、自分にも関係があることだということが分かりました。また、あることに対しての不安から依存症になってしまうということや、その不安を克服するためには、隣の人とバランスをとることが効果的であると知り、驚きました。また、「枠」を知ることで自分の内側を知るという講師の方の言葉がとても印象に残りました。
Copyright©2019 Tsuda University.
All rights reserved.