第20回 学生スタッフレポート

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畳と、あした

鏡 芳昭 氏(畳職人)

11月25日の第20回「総合2021」では畳職人の鏡芳昭さんにご講演いただきました。鏡さんは4代目として鏡畳店を継いだ畳職人です。また、全国の畳屋・畳職人と国内のい草生産農家をつなぐ「畳屋道場」や、い草を使った製品のブランド「TATAMI-TO」を新たに設立されました。講演では、い草を育ててから、収穫、泥染め等の多くの工程を経て、2年以上かけて畳の形になるまでの様子を、写真を交えながら分かりやすく教えていただき、私は畳は農産物という言葉を強く実感しました。このような日本の伝統「畳」ですが、作り手の数は年々減少しています。今回はこのような「畳」を新たな形で人々に届ける鏡さんの想いや、その過程から、再構築について考えることができました。

この講演で特に印象的だったことが2つあります。1つ目は鏡さんの畳の再定義の仕方です。生活様式の変化や、海外からの輸入による価格競争によって、畳業界は変化してきました。その中で「違和感」を感じた鏡さんは畳の再定義を始められます。鏡さんは今の畳業界の良い面にも悪い面にも真正面から向き合い、分析をして来られました。その上で鏡さんが選んだのは、品質の良い畳を求める人へ届けること、そして新たな形で畳を届けることです。鏡さんがTATAMI-TOで作られた製品には、正方形で縁がカラフルな小さな畳「T1/4」や、短いい草を利用した「いぐさロールベッド」や「いぐさロールチェア」などがあります。どれも畳の温かさありながらも洋室にも馴染む素敵な品で、見たときにはとても感動しました。一方で私は、再定義をして畳の形を変えることは、畳を作る修行を積んできた畳職人が本当に望んでいることなのだろうかと少し不安にも感じていました。しかし、鏡さんが大切にしているのは、「畳の本質価値」を提供することだとお聞きし、大変納得すると同時に、形ではなく本質を守ることこそが再構築をする意味であると感じました。鏡さんが考える畳の本質価値とは畳の機能性です。畳には、空気中の水分を吸ったり吐いたりして空気を浄化する効果や、肌と同じ反射率による目への優しい効果、心を安らげる効果があります。畳の本質価値とそれをいろいろな形で伝えていきたいという鏡さんの想いは、洋室にも馴染む畳のベッド、インドで屋外に作った畳の空間など、場所や物が異なっていても、確かに届いていると感じます。鏡さんは畳だけではなく、畳屋という職業自体を再定義し、新たな市場を創造されています。鏡さんのお話を聴き、ただ形を変えることと再構築することは大きく違い、再構築したものにはその本質や想いがしっかりと残されていることを強く感じました。

2つ目は鏡さんが様々な縁を大切にしているということです。今日起きてから、「意識して」過ごした時間はどれくらいありますか?思い返してみると、なんとなく過ごしていた時間や、習慣としていつもと同じように過ごしていた時間が多いことに気づかされます。鏡さんは日々をパターン化させないために、毎日意識する時間を意図的に作っているそうです。これは、人との出会いを大切にしたいという鏡さんの想いからです。パターン化した日々からは思いがけない出会い「誤配」は起こりません。これまで行ってきた様々な活動は、「不思議な誤配」によって始まったと鏡さんはおっしゃっていました。鏡さんの活動は、い草生産農家とのネットワークづくりから、イタリアの家具メーカーやインドの大工とのものづくり、資生堂とのコラボにまで亘っています。ここからも、畳業界と近いものから遠いものまで、本当に様々な方と一緒に活動をされていることが分かります。鏡さんはこのような出会いを「誤配」であったとおっしゃり、その「誤配」から生まれた縁をとても大切にされています。断らないこと、全力を尽くすことを心がけ、様々な国、業界の方と活動をされてきた鏡さんは、畳の可能性を大きく広げています。このような鏡さんの姿勢は、私たちにも生かされるものであると思います。一見自分には関係のなさそうな分野の人、学問とも関わってみることで、自分の世界もまた違った広げ方ができるのではないでしょうか。


真剣に、そして楽しそうにお話しされる鏡さんからは、畳への愛と、畳を未来につなげようとする想いを感じました。じっくりと「違和感」に向き合う、自分が届けたい「本質」を大切にするという、そのものの良さを伝える「再構築」を行う上でとても大切なことを学ぶことができました。
情報科学科3年 すみっこ

コメントシートより

  • 多くの失敗を重ねたからこそ、偶然が生まれてそれが成功のもとになるのだと思いました。偶然からの成功は失敗を重ねた人にしか生まれないものだと私は考えているのでまさに鏡さんの活動はその賜物であり、私もいろんなことに取り組んで成功するために失敗を経験して次の取り組みに繋げていこうと思いました。
  • 資生堂とのコラボについてすごく異質な組み合わせだなと思ったが、漠然と色々な組み合わせが可能であり、全てがつながっているような気がした。「可能性は無限大」という言葉はよく聞くが、まさにそれを今回のお話で具体的に見ることができたと感じる。「違和感」から始まることがたくさんあることを知り、現状に飲み込まれてばかりではなく、これから先何かがあったときには常に自分に問いたいと思った。
  • 今回の講演を聞いて、「誤配」という言葉に初めて出会いました。掲げた理念に関することに片っ端から取り組んだことが人との出会い「誤配」を導いたという話を聞き、行動を起こすことの重要性を学ぶことができました。実際、オンライン授業になってから毎日が同じように過ぎていく中で人との出会いは少ないと実感していて、それを打破するには意図して行動を起こすことが必要なのだと、自分に引き寄せて考えることができました。限りある時間を有効に使って行動していくべきだと学ぶことができました。​​
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