第17回 学生スタッフレポート

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新しい「論理」を考える — ひとつの現代哲学入門

岡本 賢吾 氏
(東京都立大学大学院 人文科学研究科哲学教室 教授)

第17回「総合2021」の講演は、東京都立大学教授の、岡本賢吾さんにお越しいただきました。岡本さんは、哲学のなかでも、科学哲学、特に、論理学の哲学、数学の哲学を専門とされている方です。今回は、科学哲学のなかでも近年有力な考え方となっている「情報の哲学」について、従来の哲学を踏まえた「新しい論理」を考える、というテーマでお話しいただきました。

情報の哲学と聞くと、いわゆる情報化社会のようなことを指しているのかと思いがちですが、そうではありません。私たち人間は、環境に埋め込まれていて、そのなかで、他者と相互作用し、概念の形成と適用、情報の創出、伝達、消費、再創出を行っています。これらは、私たち人間の特徴的で独特なあり方なのです。情報の哲学というのは、従来の哲学を踏まえつつも、この部分について触れながら、新しい論理を考える活動ということだそうです。

この説明を聞いたとき、私の頭の中はハテナでいっぱいでしたが、ひとつずつ例をあげてわかりやすく解説してくださいました。まず、概念の形成と適用には、カレンダーや地図などがあります。もし、あなたが山の中で遭難し、途方に暮れていたとき、空に救助ヘリコプターが見えたことを想像してみてください。どのように助けを求めますか。「おーい!ここだ、ここだー!」と一生懸命手を振ることしかできないのではないでしょうか。自分が今いる場所がどこで、時間軸の中のどこにいるのか、それを言葉にして伝えることはできません。つまり、普段私たちがカレンダーや地図を使い、いつ・どこ、というロケーションを使いこなせているのは、私たちがカレンダーや地図という概念を形成、適用し、それを他者と共有しているからなのです。さらに、これらの概念の形成を行うことを可能にしている要因には、情報フローがあるのだそうです。情報フローとは、ある出来事が、別の出来事の情報を担っている、という表現関係が成り立っている典型例です。例えば、ある液体が入った試験管があり、そのなかに、リトマス試験紙が浸されている状況Aを想定します。このとき、Aにおいてリトマス試験紙が赤に変化していることを確認すれば、Aにおいて試験管の中身は酸性であるということがわかります。しかし、リトマス試験紙が赤くなったのを確認するか否かに関わらず、試験管の中の溶液はもともと酸性であったはずです。つまりリトマス試験紙が赤くなったという出来事は、試験管の中の溶液は酸性であるという出来事の情報を担っているに過ぎません。

しかし、このような従来の考え方では、見落とされている部分があるのだそうです。それが、情報とは、生み出され、伝達され、消費される(リソース性をもつ)ものであるとともに、再創出されるものでもあるという観点です。これらのことを考慮するために、従来の考え方とは異なる、新しい論理が必要になります。その新しい論理の中でも、興味深い例を一つ紹介してくださいました。
(A&B)×(C+D)×(EpF)
と表されるそうですが、式だけだと難しいですね。これは「クーポン券の論理学」と呼ばれており、クーポン券のように、AかBのどちらか好きな方を一つ選べる、さらにその次に、レストランの入荷の都合でどちらかに決まるランチのように、CかDのどちらかだが、環境が決める、最後に、ランチを食べ終わった後のデザートのように、そのときにならないとEかFか決まらない、という状況を表しています。これは一見ただの遊びのように見えるかもしれませんが、実は、情報の創出・消費・伝達・再創出というプロセスを見事に分析しているということがわかってきたのだと、岡本さんはおっしゃっていました。

このようなお話を聴き、私は、新しい考え方に着手するためには、従来の考え方を吟味することが大切であることと、自分が当たり前だと思っていたことも、概念の形成と適用によって作られた常識であることを感じました。みなさんは、価値観を再構築するためには、古い考え方を捨てて、新しい考え方を取り入れなくてはいけないのだと思い込んでいませんか。私は、他者のアドバイスを素直に受け入れられないことに悩んでいた時期がありました。それはきっと、今の自分が信じている考え方を捨てなくてはいけないと思い込んでいたからだと思います。しかし、元となる考え方があるからこそ、新しい考え方が力を発揮するのだと、今回のお話を聴いて感じました。さらに、他者のアドバイスや、自分の考え方、常識だと思っている考え方さえも、数ある考え方のうちの一つに過ぎません。自分が、いつ、どこにいるのかということさえ、形成された概念に自分自身を当てはめているだけなのです。価値観の再構築というと、つい肩に力が入ってしまうかもしれませんが、自分の価値観を否定したり、古い考え方を捨てたりする必要はないのです。今回のお話が、皆さんにとって、価値観を再構築するための一歩を踏み出す勇気に繋がったら嬉しいです。
情報科学科1年 おかまる

コメントシートより

  • 講演から学んだことは、「哲学的に考えてみることや、一つの物事に対して深く考えてみることの重要性」である。私は、論理よりも感情を重視したい部分があるため、普段から論理的に深く考えるということはあまりない。しかし今回の講演を聞いて、「自分が当たり前と思っていることに目を見張り、深く考えてみること」は重要であり、それによって見える世界が変わったり自分の視野が広がったりするということに気づくことができた。様々なことに興味を持って学び続け、知見を広げていくことで、自分の人生を豊かにしていきたいと感じた。
  • 哲学で最近触れたのはミシェル・フーコーでそれも歴史を通して政治や思想を考えるというものだったのですが、岡本さんが提示したのはもっと広い枠組みで数学的な考え方だったのでまた別の哲学を知ることができました。情報フローの存在が世界や宇宙など広い空間のなかで起こっている現実的な出来事だということがわかりました。
  • まず一度概念を疑ってみるということをしたいと思いました。今まで決まっていることはそういう物だと受け入れてきたし、あまり疑問に思じったこともありませんでしたが、一回立ち止まってみて、それって本当に正しいのかどうか、吟味しようと思います。そして自分の中での新しい論理を開発してみたいです。
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