第16回 学生スタッフレポート

  1. HOME
  2. 大学案内
  3. 第16回 学生スタッフレポート

「孤独の病」としての薬物依存症

松本 俊彦 氏
(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所 薬物依存研究部部長)

「総合2021」第16回、10月28日(木)の講演は、薬物依存症や自傷を専門とされている精神科医、松本俊彦さんにお越しいただきました。薬物依存症や自傷の患者の診療と、それらの行動の背景について研究されている松本さんのお話を聞き、私は、薬物依存症に対するイメージが大きく変わりました。また、松本さんのお話を通して、「依存すること」そのものについて改めて考え、捉え直したことで、生きるのが随分と楽になりました。

薬物依存症は、一度薬物を使用すれば必ずなるものではなく、薬物使用経験のある人の中で依存症になる人は1割程度だそうです。また、違法薬物を使用しなくとも、市販薬の乱用によって薬物依存症になることもあり、実際、現在10代の薬物依存症患者には市販薬が最も多く使われているそうです。「薬物 ダメ、ゼッタイ」の教育が、いかに偏った思い込みを生んでいるかがわかります。

また、松本さんによると、薬物依存症は快感を求めてやめられなくなるのではなく、薬が鎮痛剤として機能しているために手放せなくなるそうです。薬物依存症の人は、虐待や家庭内の暴力などの小児期逆境的体験をしていることが多く、孤立していたり、人を信用することができなくなっていたりと、大きなしんどさを抱えています。そのような状況のなかで、薬物は、似たような境遇の仲間とつながるため、また心を麻痺させ痛みを緩和するために使われています。しばしば薬物依存症の人が口にするという「人は裏切るけど薬は裏切らない」という言葉、「依存症は安心して人に依存できない病気」だという松本さんの言葉がとても印象的でした。依存症の中心には痛みがあり、依存することで痛みが緩和されるということは、薬物以外への依存にも当てはまることかもしれません。

しかし、何かに依存することは痛みを緩和してはくれても、根本的なしんどさを解消してはくれません。松本さんは、依存することで痛みに耐えて生きている状態を「骨が折れたまま鎮痛剤を飲んで過ごしているようなもの」と表していました。ただやめるだけではしんどさが増すだけであり、回復のためには根本的なしんどさを解消する必要があるのです。そして、その解消のためには、人に依存していくこと、人と繋がっていくことが必要なのです。依存症から回復するために依存することが必要だということは、「依存すること」はよくないことと思っていた私にとって、とても衝撃的でした。松本さん曰く「自立とは依存先を増やすこと」「Addiction(依存)の反対はConnection (繋がり)」であり、依存先が一つという状態は望ましくないものの、「依存すること」自体は悪いことではないようです。お話を聞いていて、むしろ「依存すること」は生きていくために必要不可欠であることがわかりました。

私は今まで、何かや誰かに依存することを避けようとし、依存してしまったときにはそんな自分を責めていましたが、今回「依存すること」は悪いことではないんだと思えたことで、依存している自分を否定せずにいられるようになり、息苦しさが減ったように感じます。また、依存症の背景にあるものを知ったことで、自分が依存する訳に目を向け、自分がどのような状態にあるのかということに気付くことができるようになりました。まだまだ一箇所に依存している私ですが、あまり自分を責めず、自分にとっての「依存すること」がどう必要なのかを考えながら、依存できる繋がりを探していこうと思います。
国際関係学科2年 どんぐり

コメントシートより

  • 今までは対人関係で依存自体が良くないことだと思っていたが、依存先を複数作るのが良いということを学んだ。依存先が一つであることは依存する側も依存される側も悪影響があると気がついた。
  • 依存する人はみんな悪い人だと勘違いしていた。生きる辛さを緩和させるために使用している人がいると知ることができた。
  • 共通の秘密を持つことで見方が敵かをわける際に薬物が使われることがある。仲間が欲しいから薬物をやるという考え方ができると知り、ただ単に依存症をそれだけで捉えるのではなく、その背景を見ることが大切だと学んだ。
  • 本当の解決策は薬で紛らわしている苦痛を取り除くための治療や環境を作っていくことだということに気がついた。
Copyright©2019 Tsuda University.
All rights reserved.