第11回 学生スタッフレポート

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「記憶の解凍」
〜AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争〜

渡邉 英徳 氏(東京大学大学院 情報学環教授)
庭田 杏珠 氏(東京大学学生)

みなさんこんにちは!第11回の「総合2021」では、渡邉英徳さん(東京大学情報学環教授)と庭田杏珠さん(東京大学学部2年生)にお越しいただきました。渡邉さんと庭田さんは、共同で「"記憶の解凍"プロジェクト」に取り組んでこられました。昔の写真に色を付け、戦争体験者の「想い・記憶」を未来に継承する、持続可能な方法の一つとして、そのプロジェクトを提案されています。戦争体験者の「もう誰にも同じ思いはさせてはならない」という、崇高で世界共通のメッセージを伝えることを目標に取り組んでこられたそうです。最近では、プロジェクトにちなんだARアプリも開発されました。講演の中で、渡邉さんが「ヒロシマ・アーカイブ」を用いながら、お話しをしてくださいました。現在と原爆投下当時の広島の様子をリアルに知ることができ、受講生の皆さんも、まさに「タイムマシーンのような体験」ができたのではないでしょうか。

渡邉さんは、写真がモノクロだと時間が止まっているように感じるが、カラー化されると親近感が湧き、当時を「じぶんごと」として捉えることができるようになるとお話しされました。白黒の写真が色付くことで、止まっていた瞬間が動き出すようで、一気に興味が湧く、話しかけたくなる感覚に、私も共感しました。白黒だと昔のものでなかなか私たちの目に止まることはないですが、カラーだとリアルタイムで伝わるものがあると、世界中で今起きている出来事がわかるツイッターを例に説明してくださいました。社会のどこかで埋もれているモノクロの写真をカラー化し、SNSや展覧会で公開する。そうすると、さまざまな場所で人がその写真に出会い、”FLOW”という、活きた交流の場ができると渡邉さんはおっしゃいます。この交流の場での対話を通して、たくさんの人が議論に参加して、元々の資料の価値が上がるのです。すると、多くの人の中に記憶がリフレッシュされた形で埋め込まれ、記憶が未来へと継承されることができるのだとお話ししてくださいました。今回の講演が、一つの対話の場となっていたら嬉しいです。

高校の頃から「”記憶の解凍”プロジェクト」に携わる庭田さんですが、活動のきっかけとなったのは、幼少期の平和学習で抱いた違和感からでした。当時小学生の庭田さんは、戦時中の展示品を目にしたとき、恐怖心が勝ってしまっていたそうです。しかし、小学5年生で見たパンフレットの写真に写っていた当時の人々の生活の様子を知り、そこではじめて共感することができたそうです。このような自身の経験から、庭田さんは、戦争に対する恐怖心だけではなく、当時の人々に対して共感を持ってもらえるよう「共感の輪」を広げて、記憶を未来へと継承したいと語ってくださいました。講演や展示会で出会った戦争経験者など、さまざまな出会いを繋げて今を作っているというところに驚かされました。

写真をカラー化するにあたり、事実の色よりも、体験者の「記憶の色」をなによりも大切にされているとお話しされたこともとても印象的でした。AIで色付けした後に、写真に写っている人に話を聞き、「記憶の色」を辿り、手作業で色直しするそうです。体験者の言葉をもとに、手作業で色を塗る、その時間においてもまた、その写真や戦争体験者、そのご家族、そして戦争と再度向き合うのだろうなと想像できました。

「"記憶の解凍"プロジェクト」において、戦争体験者がカラー化写真を見て喜んでくださった時にやりがいを感じると、庭田さんはお話ししてくださりました。終戦から76年が経った今、私は戦争体験者の高齢化が進み、話を直接聞ける機会が減っていることに残念で惜しいような気もしていましたが、時を経たからこそ体験者が体験談を語ることができると、庭田さんがおっしゃていたのを聞いて、今という貴重な時間の有り難さを改めて実感することができました。


渡邊さんは、スペイン風邪が流行した当時の写真を示しながら、写真に写っている人は、第三波の最中にいて、収束することを知らずに、いつまでマスク生活が強いられているのか不安に思っていることだろうと説明してくださいました。きっと私たちにも同じことが言えるのだと思います。また、庭田さんは、世界の人と繋がって講演をするなど、コロナ禍だからこそできることに積極的に取り組まれているそうです。庭田さんは、今後の展望として、音楽とカラー化写真のコラボを挙げられました。常に「じぶんごと」を想像して何ができるか考え、動く姿勢を見習いたいなと思いました。そんな庭田さんに、同世代として、驚かされると共に、大きな勇気をいただき刺激になりました。皆さんにとっても、今回の講演は様々な発見があったのではないでしょうか。私たちが未来へ記憶を伝えるためには何ができるのか。皆さんがこれまでを振り返り、今を整理し、未来を想像するきっかけとなっていたら嬉しく思います。
国際関係学科1年 おもち

コメントシートより

  • 文系ということもありAIについてあまり触れたことがなかったのと、AIの話は難しいのかなと勝手な固定観念がありましたが、講演を聞くと私たちにとってとても身近であること、それ以上にこんなことができるんだ!と驚かされました。
  • 自分と1歳しか変わらない、同年代の人が、凄惨な戦争について真正面から向き合い、戦争について未来へ伝える活動をしていることに、刺激を強く受けた。この、モノクロ写真をカラー化することで、当時の感覚が呼び戻されるだけでなく、写っている映像や人物時代の動きが見えたり、その人の気持ちまでも想像することができることができるというのは、今回の講演を聞いて気付かされた。普段の生活の中で何気なく見ているカラー写真には、素晴らしい価値があり、多くの意味を含んでいることに驚いたと共に、モノクロ写真をカラー化し、いわゆる「記憶の解凍」をすることで未来に継承できるものが生まれることを、大切に心に留めておきたい。
  • 私が講演から学んだことは、戦争の思いの継承には多くの方法があるということだ。今までの思いの継承に対するイメージは、体験者の方々からお話を伺ったり、実際の洋服や建造物を見たりするというものであった。そのため、怖く感じ気持ちも暗くなってしまう為私は大切なことだと分かっていてもあまり得意ではなかった。しかし、今回戦前の人々の暮らしを想像するという方法で戦争について考えたとき、恐怖は一切感じず再び戦争は起こってはならないという前向きな意思を持つことができた。
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