第10回 学生スタッフレポート

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共に生きる社会は、共に学ぶ学校から始まる

廣岡 睦美 氏(ダウン症のある中学一年生の母親)

「総合2021」第10回、9月9日(木)の講演は、ダウン症のある息子さんを持つ廣岡睦美さんにお越しいただきました。廣岡さんは、当事者として目のまえの困難に一つ一つ向き合っていくことで、共生社会の実現を目指されており、その力強い姿は私たちに社会との向き合い方を教えてくれました。

多くの場合、障がいのある子どもは、小学校入学の際に特別支援学校や特別支援学級を勧められます。廣岡さんの場合も同様で、息子さんは特別支援学級へ入学しました。保育園時代は障がいの有無にかかわらず全ての子どもが一緒に過ごす、インクルーシブな環境だったため、特別支援学級でもインクルーシブ教育を受けられることを期待していた廣岡さんですが、実際にそこで行われていたのは分断教育だったそうです。国際的には障害者権利条約があり、国内でも障害者差別解消法で「障がいを理由としたあらゆる区別、配慮、制限」をなくすことを謳っているにもかかわらず、特別支援学級が隔離されたような環境にあることに疑問を感じた廣岡さんは、息子さんが小学校3年生のとき普通学級へ転籍させました。それ以来ずっと、学校に掛け合いながら息子さんが他の子どもたちと共に学べる環境づくりを行っています。

廣岡さんは自身の行動を「ゴリ押しのインクルーシブ教育」だと言いつつも、それは「概ね上手くいっている」とのことでした。息子さんは自分でできるようになる力や手伝ってもらえるようにする力を身につけていっているそうです。また、一緒に過ごすなかで周りの子どもたちも成長し、自然に合理的配慮がなされるようになっているそうです。このお話を聞き、障がいの有無にかかわらず同じ世界で過ごすことで、共生社会が生まれるのだと思いました。私たちは、目立つ側面を切り取ってカテゴライズし、生きる世界を分けすぎてしまっているのかもしれません。

しかし、まだまだ困難や疑問はたくさんあるようでした。その一つが、運動会でのリレー問題です。運動会の種目でリレーがあり、廣岡さんは先生から息子さんの走る距離を短くしたらどうかという提案を受けました。この提案は、息子さんは走るのが非常に遅いため、リレーに勝ちたいと思う周囲の子から不満を言われてしまわないようにとの配慮に依るものでした。しかし、障がいのない足が遅い子の走る距離が短くされることはありません。廣岡さんは、全距離走ることができるのだから走らせてほしいと話したそうです。

今回の講演では、障がいを持っている子がいるなかでよりよくリレーを行うにはどうしたらいいのか、受講生がグループに分かれて議論する時間を持ちました。そこでは、走る距離を短くする人を各チーム一定数決める、タイムの平均でチーム編成を行う、障害物リレーや二人三脚など足の速さだけで勝負が決まらないリレーにするなど、さまざまな意見が出されました。なかには、全員強制参加にするのをやめた方がいいのではないか、勝敗を決めない方がいいのではないかなど、根本的な疑問が発せられるグループもあり、運動会の存在について考えさせられる機会にもなりました。正解がない難しい問題ですが、活発な議論が交わされていて、受講生にはとても良い機会になったと思います。

私は、「学力は自分でできるようになる力、コミュニケーション力は手伝ってもらえる力」という廣岡さんの言葉がとても印象に残っています。また、「人に評価される為の『できる』ではなく、自分が『自由』になる為の『できる』が大事」「できないことがあるから、人と人との繋がりが生まれる」という廣岡さんの話を聞き、私は「学力」や「できる」ということに対する考えが変わりました。「できなきゃいけない!」と思い、苦しくなっていましたが、「できるようになりたい!」と思ったときに、周りの人の力を借りながら頑張ってみればいいのだと思うことができました。

自分のやりたいことや自由に対して困難が立ち塞がることがあります。それは自分の思い込みであったり、社会の制度や偏見であったり色々ですが、どのような困難に対しても、廣岡さんのように、それを乗り越えようとまっすぐに向き合っていくことで、自分の価値観や周りの人々、ひいては社会を変えていくことができるのだと思いました。また、それぞれが持つ困難を自分一人で抱えるのではなく、周りの人と共に向き合っていくことで、共生社会が実現するのではないかと思いました。一人で抱え込みがちな私ですが、まずは廣岡さんのように、自分の困難や疑問を周りの人々と共有するところから始めていきたいです。
国際関係学科2年 どんぐり
数学科2年 みずいろ

コメントシートより

  • 廣岡さんの息子さんの学校での実話を聞き、インクルーシブ教育環境に好印象を受けました。まさに周囲の子たちが理想的配慮をしていてとても良い雰囲気だと思いました。私はそのような経験がなく、それに対しての配慮や知識に乏しいので今回のディスカッションで多様な考えを聞くことができてとても新鮮でした。
  • 小学生の頃同じクラスにダウン症の女の子がいた。当時の自分なりに優しく接していたつもりだが、今日の講演を聞いて無意識のうちに彼女や彼女の家族を傷つけてしまうような言動をしていなかったか不安に思った。中学生以降、障がいを持つ人と深く関わる機会は無かったが、もし今後そのような機会があったら今日学んだ「ひとりひとりの『できる』を尊重する心」をもって接していきたい。また共生社会を作り上げるための社会的体制もまだまだ整っていないことを改めて知り、私たちのような次世代の社会を担う世代がこの問題に対して正しい認識を持つことが重要なのだと感じた。
  • 当時は深く考えていなかったが、障害児リレー問題が自分の中学校でも起きていたことに気づくことができた。小学校や中学校に通っていた頃の自分だったらどうだっただろうかと考えることができたし、出来ないことから人との繋がりが生まれるというのは本当にそうだなと思った。
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