第3回 学生スタッフレポート

  1. HOME
  2. 大学案内
  3. 第3回 学生スタッフレポート

美術は、私たちの「アプリ」を起動するスイッチ

貝塚 健 氏(公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館教育普及部長)

5月6日の第3回「総合2021」では今年度初の講演が行われました。今回の講演には、公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館 教育普及部長の貝塚健さんにお越しいただきました。貝塚さんは学芸員として、開館記念展をはじめとする多くの展覧会や、子どもから大人まで幅広い年代に向けた講座、ギャラリートークを担当されています。講演では、普段から美術や人と接しておられる貝塚さんならではの視点からお話しくださいました。


美術作品に登場する“モノ”や“コト”がなぜそこに描かれ、用いられたのかを皆さんは考えたことはありますか。私自身よく美術館に足を運ぶのですが、このように考えたことはほとんどありません。作品を見て「この作品いいな」や「これはちょっとよく分からないな」などの作品に対する感想と「これなんだろう」という疑問ばかりです。しかし貝塚さんがこの講演で示してくださった「彫刻や絵をみるための練習」を通して、美術作品を鑑賞する新たな楽しみを見つけることができました。
今回の講演では、展示室に置かれている絵画や彫刻といった作品の中からライオンを5頭探しだすという子ども向けのギャラリートークの内容を用いながら、なぜライオンが描かれ、用いられたのかをお話してくださいました。このライオン探しは貝塚さんが「小学生が美術館嫌いにならないようにして欲しい」と学校の先生に頼まれて始められたギャラリートークの1つだそうです。小学生向けのギャラリートークであるにも関わらず老若男女が楽しめるものであり、私自身も講演中とても楽しくて聞き入っていました。
ライオンは古代エジプトの作品に登場します。そしてライオンは水と関わりのある作品が多いようです。ライオンと水、どのような関係があるだろうと疑問に思いました。しかし「古代エジプトはよくナイル川が氾濫してその時期がちょうど獅子座の時である。そのため、人々は氾濫にライオンが関わっていると考えていた。またナイル川の氾濫はエジプトを肥沃な土地にして文明を築き上げる役割も果たした。」との説明を受け、なるほどと思いました。またライオンはギリシャ神話にも登場します。ライオンの毛皮を身につけると人間は不死身になれるのです。この話は、ギリシャから遠く離れた日本にまでやってきました。なんと日本の仏像がライオンの毛皮を身につけているのです。これらのことを理解した上で作品を見ると、新たな視点が見えてきて身近にあるモチーフにも何か由来があるのではないかなとワクワクしました。


私の美術館に対する以前までの印象は、静かに美術品を鑑賞する所、何年もの間大切にされてきた素晴らしい作品が並んでいる所、真っ新な気持ちで行く所、でした。しかし、貝塚さんのお話を聞いてその印象が変わりました。貝塚さんのギャラリートークを聞いた子どもたちのように、美術館では壺に描かれている物は何だろう?彫刻の人物の装飾は何だろう?と楽しみながら作品に触れることができるのだと分かったからです。また、背景知識があると作品がもっと面白く見えてくるということも貝塚さんのお話を通して体感できました。
また、講演中に紹介くださった彫刻の装飾は、正面からの写真だとよく分からない塊だったのが、横から見るとなんと座っているライオンの姿でした。美術作品は観る角度によって全く違う物が現れてくると気づかされ驚きました。
「美術作品を飾る位置が4, 5cm違うだけで鑑賞する人の受け取る印象が変わる。だから、そこにこだわっている。」
貝塚さんの仰っていたことは私が意識していなかったことだったので新鮮でした。自分が観るときの位置だけでなく、美術館が設定した作品の配置一つ一つも作品の印象を左右するのだと知りました。次回美術館に行くときには作品の配置にも注目したいです。
今回の講演の中で私の美術館に対する印象を大きく変えた貝塚さんの言葉があります。
「背景知識でなくても、自分の経験だけでもいい。」
「人間は経験を積み重ねて生きているから、先入観を持たずに鑑賞する人はいない。」
作品や芸術家に関する深い知識がなくても大丈夫、むしろ自分の感じたことを大切にすれば良いのだと、私の美術館に対する堅いイメージが柔らかくなりました。そして、私が美術の授業で習ったうっすらとした記憶を思い出しました。絵画はかつて今の写真のような役割をしていて、思い出を残したり、個人の主張を表現したりするものだと習いました。だとすると、今のSNSのような感覚で、美術館にある古い絵は昔の人と共有しているものではないでしょうか。そういう心持ちで美術館に行くのならもっと楽しめると思いました。
今回の講演を聞いて、堅いと思っていたクラシックなものが実は親しみやすいポップなものだったと分かりました。貝塚さんのお話と美術作品を通して、自分なりに改めて考え、多くのことに気づかされました。


美術館は、自分が持っている知識や経験を大切にすれば、私たち誰もが楽しむことができる場所であると、貝塚さんの講演を通して気づくことができました。そして、そんな美術館での体験は、日常で意識してこなかった多くのことを意識するきっかけとなります。気付いていない自分の中の「アプリ」を起動するための「スイッチ」となるのが美術館であり美術作品なのです。美術館に行って多くのアプリを起動することは、自分を見つめ直すこと、人生を豊かにすることにつながるのではないでしょうか。
情報科学科3年 すみっこ
情報科学科1年 ビスケット
国際関係学科1年 リーフィ

コメントシートより

  • 美術館についての考え方が変わるきっかけになった講演でした。最初に美術は私たちの「アプリ」を起動するスイッチというタイトルを見た時はしっくりこなかったのですが、講演を聞き終わった後では納得の気持ちしかありませんでした。ただ単に美術品を飾ってある場所ではなく、何かを学んだり感じたりできる場所と意識した上で、美術館に行きたくなりました。
  • 美術館にある「ライオン」という一つのネタから、現代に通じる文化や自分が何となく見て知っていたにまで広がっていくことに驚きました。そして一つの展示品から、自分が「何となく知っていた」ものに繋がった瞬間、美術館の面白さ・連想することの重要性を感じました。
  • 18歳になった今、美術館に行ってみたら、どのような発見があるのかというワクワクした気持ちがが今回の講演を通して生まれました。今度、必ず美術館に訪れてみたいと思います。
Copyright©2019 Tsuda University.
All rights reserved.