2020年度 第21回 学生スタッフレポート

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物語と女性

山内 マリコ 氏(作家)

こんにちは!「総合2020」第21回、12月17日(木)の講演は、作家の山内マリコさんに講演していただきました。山内さんは、2008年に「女による女のためのR-18文学賞」の読者賞を受賞し、2012年に連作短編集『ここは退屈迎えに来て』でデビューされました。山内さんの作品の中には今年2月に公開された『あのこは貴族』など、映画化されたものもあります。

講演は4部構成で展開されました。まず最初のテーマは「気がついたら恋愛至上主義」です。講演前に受講生に答えてもらったアンケートには「女性が主人公の物語といえばどのようなジャンルがあると思いますか?(複数選択可)」という質問があり、ほとんどの人が「恋愛もの」と答えていました。しかし、山内さんは恋愛小説をまだ一度も書いたことがなく、その理由は、恋愛には関係の非対称性が見出されるため、物語にできるほど気高いものではないと考えていたからだそうです。アンケート結果を通して、山内さんは自分の中で恋愛の関心度が低くても、物語を通して恋愛の固定概念が形成されていることがあるとおっしゃっていました。

2つ目のテーマは「女同士の友情を書きたい!」です。大学時代の親友との出会いがきっかけで、女同士の友情を作品で書きたいと決心された山内さん。しかし、冒頭で紹介した文学賞を受賞後、その構想を担当編集者の方に話すと、女性作家には恋愛小説を書いてもらいたいと言われたそうです。この経験から、女性の生きづらさは恋愛至上主義的な考え方も影響しているのではないかと考えるようになったとおっしゃっていました。この2つのテーマから、物語は私たちの生き方に影響を受けるものの一つですが、それが生きづらい社会を作っているかもしれないということを見落としていたと気づくことができました。

3つ目のテーマは「王子様は必要なのか?」です。このテーマは山内さんのデビュー作『ここは退屈迎えに来て』についての新聞の取材での出来事からきています。取材時、新聞記者の方に「女性はやっぱり王子様に迎えに来てほしいものなんですね!」と、山内さんが意図していない解釈をされてしまったことがあると話してくださいました。同時に「王子様が迎えに来る」ということは、女性にとって本当に幸せなことなのだろうかと考え、それを小説『アズミ・ハルコは行方不明』に活かしたとおっしゃっていました。

最後のテーマは「物語はメッセージである。」です。山内さんは、女性の登場人物が物語を盛り上げるための道具のように描かれている作品が多くあり、女性作家であってもこのような書き方を知らず知らずにしていることが多いと指摘されていました。意図的では無いにせよそのような描かれ方をしている女性が登場する作品から、読者は様々な感想や意見を持つことになります。そのような経験を読者がすることが、現実で起こっている社会問題にもつながっているのではないかともおっしゃっていました。そして、作家はどんな物語を書くかに加えて、モラルコードの設定や世の中にどのような可能性を提示し得るかを考えるのも仕事だと思うと述べられていました。また、私たちが影響を受けた物語がどのようなメッセージを発していて、そのメッセージは私たちにどのように浸透しているかを考えることが大事だと私たちに呼びかけてくださいました。これらのテーマを通じて、物語に影響を受けるのは良い面もあるけれど、社会問題につながるような悪い面もあるということを今まで見逃していたのではないかと思いました。この講演を通して物語の影響の悪い面に気づいたように、今まで見過ごしていた点に気づかされる機会を持つことが「俯瞰力」を身につける上で大切だということが改めてわかった講演になりました。

国際関係学科2年 あじさい

コメントシートより

  • 「発信者としての自覚」というお話がありましたが、これは我々がつい見逃してしまうポイントだと思いました。我々の多くが情報の受信者としての自覚が芽生えてきたことで情報を見極める力ばかりが注目されていますが、SNSなどのプラットフォームが普及した今日では、情報の発信者としての自覚も十分に検討されるべきだ、と改めて考えました。また、その情報に関しても数値や事実など客観的な情報ばかりではなく、思想や噂、写真など個人的な情報についても慎重な判断が求められる、と考えました。
  • 今回の講演の中で、最も印象に残ったことは、「人は物語を内面化してしまう生き物である」というお話である。現実世界では起こっていない、「物語」という世界で繰り広げられるものほど、私たちが生きる社会を絶大な影響力を以って支配していることに気づくことができた。読者として物語に向き合う私は、作者が溶け込ませているメッセージを丁寧に汲み取る姿勢を貫くことが求められていると学んだ。
  • 中高生のとき、私は周りの人に比べて恋愛の優先順位が低いことに悩んでいたが、その悩み自体が恋愛至上主義の社会に疑問を持たないがゆえに生まれたものだったことに気がついた。恋愛や恋人の重要度は相変わらず低いけれど、それは自分のアイデンティティを他で見つけられているということでもあると今日の講義を通して学んだので、自分なりのペースで進んでいこうと思った。
  • 現代の一般的な恋愛が男社会の産物であることを今日初めて学んだ。恋愛と女性差別を紐付けて考えたことがなかったが、考えてみると恋愛関係は男女の上下関係が最も露骨に表れている関係性だということがわかった。恋愛に対して漠然と抱いていた負の感情の根源がどこにあったのかがわかった気がする。
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