2020年度 第20回 学生スタッフレポート
未知の言葉との、運命的な出合いを~国語辞典を編集する人のはなし
奈良林 愛 氏(岩波書店辞典編集部)
皆さん、こんにちは!「総合2020」第20回、12月10日(木)の講演は、岩波書店辞典編集部の奈良林愛さんにお越しいただきました。奈良林さんは、広辞苑の編集に携わっておられる方です。私は奈良林さんへのインタビュー記事を拝読し、お話の内容にとても共感しました。実は、今年度の「総合」のテーマである「俯瞰力」は、その記事を参考にして決めたテーマです。本来であれば、「俯瞰力」というテーマを理解するために、初回にご講演していただく予定だったのですが、コロナの影響で第20回に変更になってしまいました。しかし、共通したテーマで沢山の講師の方のお話を聴いてきた今、テーマの元となった奈良林さんのお話を聴くことで、あたらめて「俯瞰力」について考えることができる機会になったのではないかと思っています。
奈良林さんはまず最初に、紙の辞典とオンラインの辞典の違いについてお話してくださいました。皆さんは普段紙の辞典を使いますか? おそらく、小学校や中学校では紙の辞典を使う機会があっても、高校や大学では電子辞典を使うようになった人が多いのではないでしょうか。言葉を入力すると一瞬で検索結果が出てくるオンライン辞典はとても便利ですが、オンラインだとその辞典の作成元を気にすることはほとんどないのではないかと思います。奈良林さんは、紙の辞典にはどういう人や出版社が作っているのか意識しながら読むことができ、顔が見えるような安心感があるとおっしゃっていました。また、デジタルであれば各項目の字数制限はなく、いくらでも付け足すことができますが、紙だとそうはいきません。つか(束)と呼ばれる本の厚みは、それ以上は手でつかむことができないという理由から8cmまでという制約があり、過去に既存のものよりも144ページ増えた時は、1枚の紙の厚さを薄くして全体の厚さはそのままにしたそうです。紙の辞典にはこのような物理的な制約があるからこそ、1つ1つの項目が洗練されているのです。
奈良林さんは入社して8年ほどで出産のために産休・育休をとり、復帰後に現在の辞典編集部に異動されました。産休に入ってからは本を読む時間が取れないためにあまり言葉に触れられず、復帰後も新しい部署に慣れずに会議では発言しにくかったそうです。しかし、奈良林さんは編集作業の途中で「搾乳」という項目を見た時に、乳を絞る対象が牛などに限定されていて人間の女性について書いていなかったことに違和感を感じ、会議で発議をしました。ご自身の出産や育児の経験をもとに項目を編集したことをきっかけに、それまでよりも自信を持って仕事をすることができるようになったとおっしゃっていました。そのお話を聴いて、プライベートな人生経験は仕事のどこかで活きてくるものなのだと感じましたし、「人それぞれの違和感を大切に」という奈良林さんのお言葉が強く心に残りました。
「うつりゆくこそ言葉なれ」。これは今回の講演で奈良林さんがおっしゃったフレーズですが、私の中でいちばん印象に残っていて、まさにその通りだなと思います。言葉は絶えず変化して新しいものが生まれており、昔は誤用とされていたものが今の一般的な使い方になっている言葉もあります。奈良林さんは辞典編集をするうえで「思い込みを捨てること、対話して意見をもらうこと」を大切にされており、「1回世に出た辞典の記述は大丈夫だろう」という先入観があると罠にはまってしまうとおっしゃっていました。これは今年度のテーマである「俯瞰力」につながるものであり、私たち一人一人が大切にしていかなければならないことなのではないかと思います。自分の中の違和感を見逃さずに周りの人たちと対話をし、より良い辞典を作ろうと努力されている奈良林さんのお姿はとても素敵で、これまであまり触れてこなかった紙の辞典を読んでみたり、言葉の変化にもっと目を向けたりしていきたいなと思いました。
奈良林さんはまず最初に、紙の辞典とオンラインの辞典の違いについてお話してくださいました。皆さんは普段紙の辞典を使いますか? おそらく、小学校や中学校では紙の辞典を使う機会があっても、高校や大学では電子辞典を使うようになった人が多いのではないでしょうか。言葉を入力すると一瞬で検索結果が出てくるオンライン辞典はとても便利ですが、オンラインだとその辞典の作成元を気にすることはほとんどないのではないかと思います。奈良林さんは、紙の辞典にはどういう人や出版社が作っているのか意識しながら読むことができ、顔が見えるような安心感があるとおっしゃっていました。また、デジタルであれば各項目の字数制限はなく、いくらでも付け足すことができますが、紙だとそうはいきません。つか(束)と呼ばれる本の厚みは、それ以上は手でつかむことができないという理由から8cmまでという制約があり、過去に既存のものよりも144ページ増えた時は、1枚の紙の厚さを薄くして全体の厚さはそのままにしたそうです。紙の辞典にはこのような物理的な制約があるからこそ、1つ1つの項目が洗練されているのです。
奈良林さんは入社して8年ほどで出産のために産休・育休をとり、復帰後に現在の辞典編集部に異動されました。産休に入ってからは本を読む時間が取れないためにあまり言葉に触れられず、復帰後も新しい部署に慣れずに会議では発言しにくかったそうです。しかし、奈良林さんは編集作業の途中で「搾乳」という項目を見た時に、乳を絞る対象が牛などに限定されていて人間の女性について書いていなかったことに違和感を感じ、会議で発議をしました。ご自身の出産や育児の経験をもとに項目を編集したことをきっかけに、それまでよりも自信を持って仕事をすることができるようになったとおっしゃっていました。そのお話を聴いて、プライベートな人生経験は仕事のどこかで活きてくるものなのだと感じましたし、「人それぞれの違和感を大切に」という奈良林さんのお言葉が強く心に残りました。
「うつりゆくこそ言葉なれ」。これは今回の講演で奈良林さんがおっしゃったフレーズですが、私の中でいちばん印象に残っていて、まさにその通りだなと思います。言葉は絶えず変化して新しいものが生まれており、昔は誤用とされていたものが今の一般的な使い方になっている言葉もあります。奈良林さんは辞典編集をするうえで「思い込みを捨てること、対話して意見をもらうこと」を大切にされており、「1回世に出た辞典の記述は大丈夫だろう」という先入観があると罠にはまってしまうとおっしゃっていました。これは今年度のテーマである「俯瞰力」につながるものであり、私たち一人一人が大切にしていかなければならないことなのではないかと思います。自分の中の違和感を見逃さずに周りの人たちと対話をし、より良い辞典を作ろうと努力されている奈良林さんのお姿はとても素敵で、これまであまり触れてこなかった紙の辞典を読んでみたり、言葉の変化にもっと目を向けたりしていきたいなと思いました。
国際関係学科2年 枝豆
国際関係学科2年 すみれ
コメントシートより
- インターネットや電子辞書は指を動かすだけで必要な情報を即座に手に入れることができますが、紙の辞書をめくるからこそ出会える言葉や表現も沢山あって、だからこそ紙の辞書が使い続けられていくんだろうと思います。また「変化することが言語の本質である」という言葉を聞いて、もちろん「正しい」使い方や意味を知っていることも大事ですが、変化も含めて言葉なんだと気づきました。
- 辞書が私たちの手元に届くまで、どれほど大変な作業があるかということが分かりました。電子辞書は便利で、紙の辞書に触れる機会は少なくなっていますが紙の辞書だからこそ辞書を作成している人の苦労や努力を感じ取れたり、その時々の改訂や変更を感じられたり、利便性以外に重要なものが詰まっているため無くなってはならないものだと思いました。
- 言葉は社会や人々のが変わってゆくにつれて同時に変化するものであると学びました。その時に奈良林さんが例に挙げてくださった、肌色がうすだいだいという言葉に移り変わっているということのように、以前と今で社会の状況によって変化した言葉、使われなくなった言葉などをもっと調べてみたいと感じました。