2020年度 第14回 学生スタッフレポート
虹を架ける仕事 -日本のタネをケニアでカタチに-
坂田 泉 氏(建築家 / 一般社団法人OSAジャパン/会長)
みなさんこんにちは!第14回の「総合2020」では、建築家であり、一般社団法人OSAジャパンの会長を務めていらっしゃる坂田泉さんに講演していただきました。坂田さんは現在、ケニアと日本の両国間で建築のお仕事をしています。今回の講演では、多くの考えさせられるお言葉とともに、ご自身の団体を立ち上げるまでの経緯や今まで実施してきたプロジェクトについてご紹介くださいました。
坂田さんは大学院を修了した後、前川國男建築設計事務所に在職していましたが、ある日「ナイロビで建築を教えてみないか」というお誘いを受けたそうです。アフリカのことなどほとんど知らなかった坂田さんですが、その話を引き受け、1994年から1年間、JICA派遣専門家としてケニアのジョモ・ケニヤッタ農工大学で建築教育に従事しました。実はジョモ・ケニヤッタ農工大学は日本が創設を援助した大学であり、現地ではいわゆる「建築分野のエリート学生」が集う大学でした。1年間という限られた時間の中で、学生たちに何を教えるべきか、かなり悩んだとおっしゃっていた坂田さんは、平日は大学で建築を教えながらも、休みの日は街へ繰り出してその土地の人々の生活の様子をスケッチし始めたそうです。
そのスケッチをいくつか見せていただきましたが、それらには坂田さんが教えていた大学生とは違い、道端に座りながら仕事をして生きているような人々が描かれていました。彼らはその土地の中でも貧しい部類に入る人たちです。しかし、坂田さんは彼らの姿を描いていくことによって、「ないものを数えるのではなく、あるものを数え、独特の想像力で日々の暮らしを構築している」人々の本当の姿が見えてきたそうです。将来雲の上の存在となるような頂点の学生を教えているだけでは足りず、こうした「道端の力」を使わなければアフリカ全体の社会は良くならない。そう痛感した坂田さんは、100枚以上の道端の人々のスケッチを描き上げ、教えていた大学で2日間だけ小さな展示会を開いて日本へと帰国しました。
たった1年間のケニア滞在は坂田さんのその後の人生を大きく変え、2011年1月、「日本のタネをケニアでカタチに」をモットーに、2人のケニア人と共に「一般社団法人OSAジャパン」を設立しました。このモットーには、「ただ出来上がったものを日本から持っていくのではなく、タネを持っていってケニアの人々が持っている力を活かしながら共にカタチにしていく」、という意味が込められています。私は、坂田さんのお話の中でこの言葉がいちばん心に残っており、また、国際協力に興味がある学生はしっかりと受け止めなければならない言葉なのでは、とも思います。津田塾大学は海外に興味のある人が多いですが、支援は与えることだけではないと頭では分かっていても、「助けてあげる」と無意識に考えている人は多いのではないでしょうか。現地の人々の表面だけを見て可哀そうだと決めつけるのではなく、相手の本当の姿を見ようと努力し、その上でお互いの力を最大限活かす道を探す。坂田さんの活動へのそうした姿勢を、私も同じように大切にしていきたいと思いました。
坂田さんは現在、「虹プロジェクト」の名の下、ケニアと日本の間に「虹」を架けるような仕事を目指して活動しておられます。ソーラーパネルや点滴灌漑を使って効率よく植物を育てるシステムや、地域の実情に合わせた無水トイレや超節水トイレのプロジェクトなどについて話してくださいました。その中でも坂田さんは、「命を守る住宅」という言葉を何回も使っていらっしゃいました。私たち日本人には当たり前の住宅は、世界の当たり前ではありません。コロナウイルスが世界中に蔓延する中でしきりにステイホームと言われていたけれど、そのためのしっかりとした住宅がない人もいる、という話を聞いてハッとしました。ケニアではまさに命を守るために住宅を必要としている人が多くいます。坂田さんは、どんな人にもきちんとしたライフラインがある住宅を提供するために、現在取り組んでいる住宅プロジェクトの構想についても講演の最後に語ってくださいました。
坂田さんがケニアで描かれたスケッチや考えは、『ムチョラジ!』という書籍にまとめられているそうです。このご著書は度々学校の入試問題に採用されるそうで、坂田さんが「なぜこの本を使って入試問題を作るのか」と理由を聞いたところ、「唯一の答えを見つける人ではなく、一生かかるような問いを立てて追いかけられる人を学校に迎い入れたいからだ」というお返事をもらったとおっしゃっていました。それと同じように、今回の講演を通して、一言で国際協力と言っても、それは一方的で単純なプロセスではないことがよく分かったと思います。これからそのような仕事に関わる人にとってはもちろん、そうではない人にとっても、今回の講演が人との関わり合い方や異なる国の人々と協力していくことについて新たな面から考えるきっかけになれたら嬉しいです。
今回の「総合」での講演を記念して、坂田さんが津田塾大学の図書館にご著書の『ムチョラジ!』をサイン入りで寄贈してくださいました。ぜひ今回の講演を思い出しながら読んでみてください!
坂田さんは大学院を修了した後、前川國男建築設計事務所に在職していましたが、ある日「ナイロビで建築を教えてみないか」というお誘いを受けたそうです。アフリカのことなどほとんど知らなかった坂田さんですが、その話を引き受け、1994年から1年間、JICA派遣専門家としてケニアのジョモ・ケニヤッタ農工大学で建築教育に従事しました。実はジョモ・ケニヤッタ農工大学は日本が創設を援助した大学であり、現地ではいわゆる「建築分野のエリート学生」が集う大学でした。1年間という限られた時間の中で、学生たちに何を教えるべきか、かなり悩んだとおっしゃっていた坂田さんは、平日は大学で建築を教えながらも、休みの日は街へ繰り出してその土地の人々の生活の様子をスケッチし始めたそうです。
そのスケッチをいくつか見せていただきましたが、それらには坂田さんが教えていた大学生とは違い、道端に座りながら仕事をして生きているような人々が描かれていました。彼らはその土地の中でも貧しい部類に入る人たちです。しかし、坂田さんは彼らの姿を描いていくことによって、「ないものを数えるのではなく、あるものを数え、独特の想像力で日々の暮らしを構築している」人々の本当の姿が見えてきたそうです。将来雲の上の存在となるような頂点の学生を教えているだけでは足りず、こうした「道端の力」を使わなければアフリカ全体の社会は良くならない。そう痛感した坂田さんは、100枚以上の道端の人々のスケッチを描き上げ、教えていた大学で2日間だけ小さな展示会を開いて日本へと帰国しました。
たった1年間のケニア滞在は坂田さんのその後の人生を大きく変え、2011年1月、「日本のタネをケニアでカタチに」をモットーに、2人のケニア人と共に「一般社団法人OSAジャパン」を設立しました。このモットーには、「ただ出来上がったものを日本から持っていくのではなく、タネを持っていってケニアの人々が持っている力を活かしながら共にカタチにしていく」、という意味が込められています。私は、坂田さんのお話の中でこの言葉がいちばん心に残っており、また、国際協力に興味がある学生はしっかりと受け止めなければならない言葉なのでは、とも思います。津田塾大学は海外に興味のある人が多いですが、支援は与えることだけではないと頭では分かっていても、「助けてあげる」と無意識に考えている人は多いのではないでしょうか。現地の人々の表面だけを見て可哀そうだと決めつけるのではなく、相手の本当の姿を見ようと努力し、その上でお互いの力を最大限活かす道を探す。坂田さんの活動へのそうした姿勢を、私も同じように大切にしていきたいと思いました。
坂田さんは現在、「虹プロジェクト」の名の下、ケニアと日本の間に「虹」を架けるような仕事を目指して活動しておられます。ソーラーパネルや点滴灌漑を使って効率よく植物を育てるシステムや、地域の実情に合わせた無水トイレや超節水トイレのプロジェクトなどについて話してくださいました。その中でも坂田さんは、「命を守る住宅」という言葉を何回も使っていらっしゃいました。私たち日本人には当たり前の住宅は、世界の当たり前ではありません。コロナウイルスが世界中に蔓延する中でしきりにステイホームと言われていたけれど、そのためのしっかりとした住宅がない人もいる、という話を聞いてハッとしました。ケニアではまさに命を守るために住宅を必要としている人が多くいます。坂田さんは、どんな人にもきちんとしたライフラインがある住宅を提供するために、現在取り組んでいる住宅プロジェクトの構想についても講演の最後に語ってくださいました。
坂田さんがケニアで描かれたスケッチや考えは、『ムチョラジ!』という書籍にまとめられているそうです。このご著書は度々学校の入試問題に採用されるそうで、坂田さんが「なぜこの本を使って入試問題を作るのか」と理由を聞いたところ、「唯一の答えを見つける人ではなく、一生かかるような問いを立てて追いかけられる人を学校に迎い入れたいからだ」というお返事をもらったとおっしゃっていました。それと同じように、今回の講演を通して、一言で国際協力と言っても、それは一方的で単純なプロセスではないことがよく分かったと思います。これからそのような仕事に関わる人にとってはもちろん、そうではない人にとっても、今回の講演が人との関わり合い方や異なる国の人々と協力していくことについて新たな面から考えるきっかけになれたら嬉しいです。
今回の「総合」での講演を記念して、坂田さんが津田塾大学の図書館にご著書の『ムチョラジ!』をサイン入りで寄贈してくださいました。ぜひ今回の講演を思い出しながら読んでみてください!
国際関係学科2年 すみれ
コメントシートより
- 私が今回の講義の坂田さんがおっしゃった言葉で一番心に残った言葉は「自分の意見を反対してくれる人を大切にする」というものだ。私は今まで自分らしく生きるために、反対してくる意見もそういう意見もあるのだなと聞くだけで取り入れようとはしなかった。しかしこの言葉を聞いて、反対意見は必ずしも自分にマイナスに影響するわけではなく、こう言った意見があるからこそ自分の意見を改めて見つめ直し、どこがいけなかったのか考える機会を与えてくれるのだということに気付く事ができた。こう言った機会を持つ事で、意見をリニューアルし、より良いものとして発信できるからこそ、坂田さんの発想力は常に止まる事なく素晴らしいものを生み出し続けるのだとわかった。
- スケッチを通して人間を真剣に見るということが印象的でした。大部分の人々は人間を人間として捉えているのではなく、その人の人種や背景を重視しがちなので現在の人種差別などのさまざまな問題に発展しているのだと思います。一人の人間をリアルな人間として捉えること、一人ひとりを尊重しあえることの大事さを学ぶことができました。坂田さんはスケッチをしていたので人間を一面では捉えきれないことをよく存じていると思います。スケッチを通して捉えたケニアの方達のかおが気になるので、ぜひ本を読みたいと思いました。
- 国際協力の場では上下関係は存在せず、あるのは人と人とのつながりの中で生まれる創造力なのかなと坂田さんのお話を聞いていて気づかされました。日本人からすると「国際協力」だとどうしても支援してあげる側の一方を辿りがちですが、坂田さんの姿勢は、そうではなくて技術や知識を共有し、足元の状況を眺めながら本当に必要で足元の生活に長く根付くことができるものを地元の人と作り出すというスタンスでした。それが国際協力なのだなと思いました。