第24回 学生スタッフレポート

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「佐戸美和を忘れない」/「過労死のない健康な職場を」

佐戸 恵美子 氏(東京過労死を考える会所属)
川人 博 氏(弁護士)

みなさん、こんにちは!
「総合2019」が始まってからあっという間に季節がめぐり、2019年最後の講演になりました。12月26日の講演は佐戸恵美子さん、川人博さんのお二方をお迎えしました。講演のタイトルは、それぞれ「佐戸未和を忘れない」、「過労死のない健康な職場を」でした。佐戸さんは、元NHK記者であった娘・未和さんを2013年に過労死で亡くされました。その後、日本の企業社会の長時間労働をなくすために、企業のセミナーや中学校・大学の授業などを通して声を上げ続けています。川人さんは、弁護士として長時間労働や職場環境が原因で心と体の健康が奪われてしまった労働者のサポートに力を入れ、働く人々の健康を最優先する職場づくりの大切さを訴える活動をされています。

講演では、最初に佐戸さんにお話をしていただきました。時に手振りを交えたり熱くお話してくださった姿がとても印象的でした。まず、未和さんのことについて触れられました。未和さんは、生前に津田塾大学との関わりがありました。一橋大学の学生時代に津田塾大学とのインカレサークルに所属して小平キャンパスでテニスをしたり、津田塾の親友とルームシェアもしていたそうです。自分のやりたいことに打ち込めるかけがえのない学生時代は、未和さんの人生において「一番の輝かしい時期」と佐戸さんはおっしゃいました。

大学を卒業してNHKに入社した未和さんは、各地を転々としてキャリアを積み、念願の東京勤務を果たします。そして、2013年の選挙の取材が終わった直後に自宅で静かに息を引き取りました。未和さんの勤務記録を確認した佐戸さんは、その異常な長時間労働を知って、悲しみや怒りが込み上げてきたといいます。休日はなく、5時間に満たない睡眠時間で昼夜問わず仕事ばかりだった死ぬ直前の生活が勤務記録によって明らかになりました。当時の未和さんのことを「働きすぎ」ではなく、「働かせすぎ」であったと佐戸さんは表現されました。

当時のNHKでは、いち早く視聴者に結果を提供するという使命感が最優先されていたため、多くの社員の長時間労働が常態化していました。上司が部下の安全管理を怠っていたこと、男性中心の職場での女性の立場の低さなどの様々な条件が重なった結果、救えたはずの未和さんの命が奪われました。さらに、未和さんの結婚・出産、孫の面倒を見ることを心から楽しみにしていた佐戸さんの楽しみまでが奪われてしまいました。NHKは未和さんが亡くなった後の4年もの間、未和さんの死を隠蔽し、未和さんの自己管理力の欠如を指摘して、会社の責任を認めませんでした。そして昨年ようやく労災として認定されたようです。

私は、テレビや新聞で過労死のニュースを目にしたことはありましたが、過労死された方のご遺族のお話を聞くことは初めての経験でした。ご遺族のお話を直接聞くことで事態の深刻さが伝わってきました。佐戸さんの「どんな職場でも命より尊いものはない。」という言葉に、残されたご家族の悲しみや無念さ、また怒りの感情が込められていると思います。悲劇を繰り返さないために、日本社会において法律の範囲内での労働環境、社員の健康と安全を確保するための取り組みが早急に求められていると強く感じました。

続いて、川人さんに講演していただきました。始めに日本の過労死に関するさまざまな事例についてのお話がありました。私は、日本における長時間労働が原因の過労死はここ十数年の間に出てきた問題と捉えていたので、戦前の日本から長時間労働が起きる環境があったことを知り驚きました。紡績工場で働く女工の自殺防止のために定期的な見回り活動が行われたり、富士の樹海に命の尊さを訴える立て札が設置されていることも初めて知りました。長い間発生している長時間労働を取り巻く環境の改善のためには、多くの時間と努力が必要とされていると思いました。

また、川人さんによると、給料が支払われない、いわゆるサービス残業が日本の高度経済成長期に常態化したといいます。当時の日本では1964年の東京オリンピックの成功に向けて労働者の健康が軽視された恐ろしい労働環境がありました。現在では、2020年の2度目の東京オリンピックに向けて急ピッチでインフラの整備や会場の建設が進められています。半世紀前に起きた長時間労働の状態化が繰り返されるのではないかと川人さんは恐れているとおっしゃいました。労働者の健康が重視された職場なしでは東京オリンピックの成功はないと思いました。

川人さんは、長時間労働のない健康的な働き方に向けて私たちにできることは、自分の身を自分で守ることだとおっしゃいました。その例として労働法を学ぶことを勧められました。労働法の知識を身につけていれば、会社の従業員に対する劣悪な待遇に気づくことができます。その後、働き方を見直して長時間労働や過労死といった問題を未然に防止できれば、それは社員の健康を考慮したより良い職場環境に繋がります。私も、川人さんの配布資料にあった「過労死をなくすための問題提起」の質問と答えを、学生のうちに知識として身につけることから取り組んでみたいと思いました。

今回の講演を通してご遺族の方のお話を聞いて、企業の社風や職場の人間関係などの様々な要素が、長時間労働や過労死のような職場における問題に繋がることを学びました。異常な勤務状況に気づかない限り、長時間労働や過労死のような問題は将来自分にも起こり得ると感じました。過労死によって命を奪われた当事者たちが発信できない思いを伝えられるのは、ご遺族の方々やご遺族のお話を聞いた私たちであると思います。過労死が二度と繰り返されないように人々の健康を第一に考える社会を形成することが大切です。そのような社会を実現するために、私たち一人一人の意識が求められていると思います。過労死によって奪われた未和さんのような尊い命を無駄にせず、より良い日本社会の実現に向けて自分にできることは何か、日々考えて生活していきたいと考えました。

なお、この講演は、厚生労働省委託事業・過労死等防止対策等労働条件に関する啓発事業の一環として開催されました。 

多文化・国際協力学科1年 たぴおか

コメントシートより

  • 過労で亡くなった人の遺書が衝撃的だった。悲惨な状況を知り、今の時代にあった対策が必要と思った。
  • 過労死ほど残酷なものはない。弱いのものに優しい職場が当たり前になる時代にしたい。今日の講演を一生忘れない。
  • 今まで過労死について「仕事をやめればいいのにどうして自殺をするのか」と思っていたが、仕事をやめるという判断ができないほど、労働者が精神的に追い詰められている現実を知った。
  • 私自身、アルバイト先で1日10時間実質休憩なしで働いたり、求人票通りの賃金が支払われなかった経験があるので本来あるべき働き方を考えようと思った。
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