第22回 学生スタッフレポート

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「ねばならない」メガネを外して生きてみる

中尾 有里 氏(ピースワーカー / ファシリテーター / グラフィックファシリテーター / 平和活動家)

今回は、中尾有里さんを講師に迎えました。中尾さんはフリーランスでピースワーカー、ファシリテーター、グラフィックファシリテーター、平和活動家として活動されています。紛争の調停や夫婦間でのいざこざに対して用いることができる非暴力コミュニケーションを広めるワークショップを開催したり、絵で議論をまとめ、話し合いを進めやすいようにするグラフィックファシリテーターとしても活躍している方です。

中尾さんとは、私が大学2年生のときにインターンしていた会社で出会いました。私が中尾さんをお呼びしようと思ったきっかけは、「総合」を担当している先生の「新聞に載る前の人を呼びたいよね」という言葉です。私は、これまで様々な人に「総合」での講演を依頼してきました。「総合」の講師を選ぶ際は、いつも朝日新聞の「ひと」の欄や毎週土曜日に折り込まれる「be」を読み、素敵だ!と思う方にお願いしていました。先生の言葉から、確かに新聞で取り上げられるよりも早く素敵な人を見つけ出したいと思いました。新聞がまだ見つけ出していない素敵な人は誰だろうと考えた時に、思い浮かんだのが中尾さんです。私は、中尾さんが開くワークショップに参加したり、中尾さん自身とお話しする中で自分の気持ちも人の気持ちも大切にすることを学びました。私が学んだことを「総合」の受講生にも是非感じてもらいたいと思い、お呼びすることになりました。

中尾さんの講演は、特別教室を温かい空気で包み込むようなものでした。1人で特別教室のステージ上に座って「さあ、私の話を聞いてください」という、講演者が一方的に伝えるという形式ではなく、特別教室にいる人々と一緒に講演自体をつくっていこうとするようでした。ひとりひとりとつながりたい、信頼をつくりたいのだ、と感じさせくれるような講演でした。

講演の最初に、中尾さん自身が歩んできた道と、いま大切にしていることをお話しして下さいました。以前中尾さんは、NPO法人が運営する学校「箕面こどもの森学園」で働いていました。こどもの森学園は、時間割りも自分で考え、話し合いで物事を決める学校でした。子ども同士のケンカもお互いの気持ちを伝えあうことで、解決策を自分たちで出していたとのことです。中尾さんは、小さな子どもでも気持ちを伝え合えば、ケンカを平和的に解決できることをみて、平和への思いが再燃し、バックパッカーになり旅をされたそうです。さらに、持続可能な開発のための教育について考えるUNESCO ESD YOUTH に日本代表として参加されました。これらの経験を通して「平和になるために力を使いたい」と思われ、それが現在のお仕事に繋がっているそうです。

そんな中尾さんが大切にしている4つのことをお話してくれました。1つ目は、「わたし」。自分を理解すること。負の感情を抑え込むのではなく、それはどんな気持ちなのか向き合ってみる。2つ目は、「あなた」。あなたとの関係性をデザインする、つくること。3つ目は、「わたしたち」。人間は誰かと共に生きる、コミュニティをつくて生きています。中尾さんは、ひとりひとりの声が大切にされるコミュニティをつくりたいと言っていました。最後の4つ目は、「これから」。中尾さんは、色々な人の声を聞いて、育てる人間、対立や葛藤を扱える人になりたいと言っていました。また、働かなければお金がもらえない世界から、必要な人にお金がいきわたるような空間を目指しているとも言っていました。そこでそのような世界を目指すための「お金の実験」をしているそうです。お互いが信頼できるコミュニティの中で、紙にメッセージを添えたものにお金を包んで、そのお金を必要な人がもらうということを実際に行ったようです。例えば、「温泉に行って来て、楽しんできてね!」というメッセージを添えたものを温泉に行きたい人がもらい、そのお金で温泉に行くといった感じです。「お金を包む人も、プレゼントを渡すようなワクワクがあるよね」、「もらう人もワクワクするよね」と中尾さんは言っていました。私も、この話しを聞いてこんな温かいお金のやりとりができるのか、と意外なお金の可能性にワクワクしました。また、今暮らしている家も大家さんから借りているのではなく、もらったそうです。返す必要はなく、「交換ではない経済だよね」と言っていました。

中尾さんはこのように一通りお話すると、特別教室で聞いている人々から、今もっている疑問や感じていることを挙げてもらいました。中尾さんは、集まったトピックを一つ一つ読み上げ、聞いてみたいと思ったトピックに拍手や足踏みで反応してもらい、会場の音が大きかったものを取り上げるというやり方でお話をするトピックを決めていきました。音の大きさで会場にいる人が求めてるものを確認するやり方は、いつもと違って楽しかったです。

私は、「生活にはお金がかかる、どうやって暮らしているのか」という疑問に対する中尾さんのお話が印象に残りました。ちなみに、いくつか上がったトピックのうち、この疑問に対しての会場からの音が一番大きかったように聞こえて、思わず笑ってしまいました。みなさん、とても気になるようでした。おそらくこの質問は、中尾さんがフリーランスで働いていること、お金の実験のお話、家をもらって暮らしていることを聞いた上で出てきた疑問だと思います。

この疑問に対して中尾さんは、まずお金以外も大切だと思ったエピソードを話してくれました。台風で和歌山県のある施設が水没しましたが、そこは多くの若者を受け入れていたため、ボランティアがたくさん来てくれ、復旧することができたそうです。このことから、お金だけでなく、人とのつながりも大切であることを実感したそうです。そして、「お金の実験」をお金を受け取ることから始められました。クラウドファンディングを使って、お金はかせぐだけでなく、「受け取る」という経験をすることで、「お金を受け取る」ことができるという価値観を自分の中につくっていったそうです。私は、この自分の中にない価値観を、経験を通してつくっていくやり方がとても新鮮でした。中尾さんは、お仕事をした際に、大きい企業からはお金をもらい、個人とは相談をして、中尾さんにとって価値のあるものをいただくそうです。和歌山県のある方のお仕事を引き受けた際は、小麦粉をもらったそうで、「この小麦粉はとても価値の高いもの」だとおっしゃっていました。

今回の講演を通して、成りたい自分、ありたい世界に向かって、自分の周りのことから実験的に変えていく暮らし方は、素敵だと思いました。また、中尾さんのお話を聞く中で、そんな可能性もあるのか!とワクワクする瞬間がありました。やってみれば自分の力で、ありたい世界に近づけるんだ!と希望をもらえた講演でした。

国際関係学科4年 うっすー

コメントシートより

  • 人は必要なときに必要な人に生かされているという言葉が印象的でした。中尾さんが何度も言っていた「生かされている」という言葉を忘れずに様々なことに取り組みたいです。
  • 講演の内容もそうでしたが、講演自体が自分たちで考えて、話し合うことで成り立っていることが、良かった。話し合うことで、自分たちで気づくことができる。
  • 一人一人が自分を大切にしようと思ったら、相手を大切にもできるんじゃないかと思いました。自分のことを粗末にしたら、相手のことも軽んじてしまうような気がします。物理的な余裕が心を豊かにすると思っていましたが、心の余裕が物理的不満を小さくしてくれるのかと思いました。
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