第21回 学生スタッフレポート

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幸せな地域を次世代に継承する事前復興まちづくりの挑戦

井若 和久 氏(徳島大学地域創生センター学術研究員)

皆さん、こんにちは!
本格的に寒くなり、あと1ヶ月で2018年が終わろうとしています。みなさんいかがお過ごしでしょうか。
さて、「総合2018」第22回、12月6日の講演は、徳島県の美波町で「事前復興」という取り組みを行っている、井若和久さんを講師としてお迎えしました。

皆さんは、「事前復興」という言葉、またその内容を知っているでしょうか。実はこの考え方、発祥は東京だそうですが、聴講している方々は聞いたこともない様子。もう少しこの言葉を知っている人が多いと予想していたという井若さんは驚いていました。東京で生まれ東京で育った私も、ついこの間知ったばかりでした。復興とは一般的には災害が起こった後にすることです。それを事前にするとはどういうことなのでしょうか。それでは、「事後」と「事前」の境を超えて、災害多発時代の未来へ漕ぎ出しましょう。

講演は、東日本大震災の復興から井若さんが何を学んだかというところから始まりました。皆さんご存知の通り、東日本大震災はとても大きな被害が出た災害でした。ただ、津波が来たにも関わらず被害が最小限に抑えられた集落なども存在します。例えば、ある小学校は死者がゼロだったそうです。これはとてもすごいことですが、すごい事例がありましたね、と扱って終わりがちです。それに違和感を感じた井若さんは、「命を守る」のみに大きな価値を置く今までの考えを変化させました。生き残って終わり、ではなく、生き残った先にまだ人生は続くからです。命を守ることは一番大切ですが、暮らしや町、ひいては幸せや生きがいを守ることも、防災、そして復興を考える上で目指していかなくてはいけないことです。また、東日本大震災後、復興計画に住民の意見がうまく取り入れられていないことが感じられ、井若さんの取り組みは変化しました。被災後は、ひと・時間・お金に余裕がありません。そして普段から復興について考えることをしてこなかった場合、人々は自分たちの地域の復興について十分に思考し、それを表現し、他の住民と協力しながら合意をするということがうまくできないといいます。つまり、その土地の人間の意見を取り上げつつ復興を図るのなら、被災した後に考えるのでは遅い、という考えに至ります。

そこで、井若さんは事前復興まちづくりを提案します。井若さんは、徳島県美波町の風景、食事、伝統文化、人付き合いなどをすべてひっくるめた、「美波町の幸せ」を守ろうとしています。人口が減少するという現在の「社会リスク」、そしてこれから起こるであろう地震や津波などの「自然災害リスク」の両方を解決しようと、「防災計画」と「まちづくり計画」を一体化させます。井若さんの提案する「事前復興まちづくり計画」は、「住民が主体となり、まちのリスクを受け止め、復興を含めたまちの将来像を共有する『まちづくりプラン』としての事前復興の取り組み」です。そのような事前復興まちづくり計画があれば、自然災害で生き残った後、すぐに夢や希望を取り戻せるとともに、復興にかかる時間を短縮できます。また、事前復興の一環で高台に作っておいた施設が、復興の基地やシンボルになり、住民の心の支えにもなります。

井若さんの美波町での挑戦は、最初から順調なものではありませんでした。プロジェクト、調査、ワークショップなどを重ねることにより、住民の方々は、少しずつ当事者意識を高め、「事前復興まちづくり計画」がただの夢物語ではなく、実現できるものだという意識を向上させていきました。若者と高齢者の世代間交流も進み、ライバルだった隣り合う集落も協力関係を築いていっているそうです。自分たちの代で故郷を終わらせないために、美波町の挑戦は続きます。

住民同士の交流が乏しい地域では、よく交流している地域に比べて地域への帰属意識は低くなりがちですが、「事前復興」には、地域内部の人間が協力し合うことが必要です。私は、この言葉を知ったことをきっかけに、自分の故郷の幸せを守り継承する、ということはどういうことなのかをもう一度考え、まずは自分が住んでいるところがどのような取り組みを行っているかを知るところから始めていきたいと思います。皆さんも、災害多発時代へ突入しても幸せな生活を続けるために、今何ができるかを、考えてみませんか。


国際関係学科2年 モノクロ

コメントシートより

  • 災害に備えて、というのもあるとは思うが、地域のコミュニティで信頼関係を気づいていくことがとても大切なのだと改めて感じた。
  • 事前復興をどうしていくかを考えておいたら、何かあっても希望を持てると思った。
  • 事前復興という考え方を初めて知った。
  • ある意味逆転の発想のようなアイデアが、今後の社会を生き抜くために必要不可欠だと感じた。
  • 未来から逆算して今できることをすることの重要性に気づいた。
  • 先人たちが諦めずに復興させてきた故郷を、後世に残していくという強い意志に心を動かされた。
  • 田老の観光ホテルに見学に行ったことがあるので、当時のことを思い出して現状が気になった。防災という分野でこんなにも力を入れて動いている人がいて、その話を聞けてとても嬉しく思った。堤防はメリットとデメリット両方を持っていて、津波対策は難しいと思った。
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