第16回 学生スタッフレポート

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あきらめない

村木 厚子 氏(津田塾大学客員教授)

こんにちは!
第17回「総合2018」の講演者は、本学客員教授で元厚生労働事務次官の、村木厚子先生でした。私たち学生が小学生の頃に起こった郵便不正事件を振り返り、「めったにできない貴重な経験でした」と、にこやかに語る村木先生。私は村木先生の著書を読み、これがとても長くつらい拘留と裁判であったことを知っていただけに、とても驚きました。思い出すのも苦しいような経験なのではないかと想像していたからです。冒頭のこの言葉からも、村木先生が、ご自身の経験を糧にして前に進んでいらっしゃることを感じました。

村木先生は、まず郵便不正事件について説明してくださりました。障がい者団体は、証明書があれば、郵便料金を割引で利用することができます。そこに付け込んだ偽の障がい者団体が、厚労省から不正に証明書を取得し、巨額の儲けを得ていたのです。ことの真相は、新しくポストに入った係長が焦って、審査を経ずに証明書を渡してしまった、というものなのですが、検察が見立てたストーリーは全く異なるものでした。検察は、当時課長だった村木先生が、偽の障がい者団体と共謀して行ったことであると見ていたのです。村木先生は事件が明るみに出てから20日後、大阪地検特捜部の事情聴取を受けた、その日に逮捕されてしまいます。本当に突然のことで、信じられなかったといいます。村木先生は、拘置所での取り調べのやり方や、そこでの生活について語ってくださりました。取り調べが始まって、最初に検事の方から「私の仕事は、あなたの供述を変えさせることです」と言われたこと。「ずっと否認していたら、反省していないと思われて刑が重くなるよ」、「執行猶予付きなら大した罪ではないよ」等、自白を促す数々の言葉を掛けられたこと。さらに信じられなかったのは、「もし○○だったら、どう思いますか?」という問いに答えただけなのに、出来上がった調書は村木先生が自白する内容であったことです。いくら真実を伝えようにも、全く取り合ってくれない検察に、いよいよ村木先生もつらくなったといいます。しかし、弁護士の「勝とうと思う必要はないよ。嘘の調書にサインをしなければいいんだ」という言葉に救われたといいます。そうして、負けないための長い裁判が始まります。村木先生は、決して嘘の調書を認めず、また証言者からの有力な証拠も得たことで、無罪を勝ち取りました。1年3か月に及ぶ、長い裁判でした。

村木先生は裁判を通じて、多くのことを学ばれたと言います。まず、自白についてです。信じられないことですが、たとえ無実であっても、50%の人が自白をしてしまうといいます。人間は追い詰められると弱いのです。しかし、弱い人間だから自白をしてしまうわけではないといいます。弱いところを突かれて自白してしまうのです。それでは、そのようなずるい戦法をとる検察が悪いのでしょうか?それほど単純な構造ではないようです。検察は、私たち市民から見ると、悪を裁く正義の味方のように感じられます。彼らは強い責任感と自負心を持つからこそ、途中まで進めた捜査の間違いを認めにくくなっているのではないか、と話されていました。裁判後しばらく経って、村木先生が検察長に会ったとき、「ありがとう」と言われたというお話が印象的でした。検察の構造に無理がかかっていたことはわかっていたけれど、内部から変えることはできなかったそうです。こうして、郵便不正事件から得た経験を、村木先生は司法制度改革へとつなげていきます。

村木先生は、刑事司法制度の審議会の委員となり、取り調べの可視化に尽力されました。そして、全過程の録音・録画が義務化されるようになりました。また、拘留中に受刑者と関わる機会があったことで、受刑者への考え方も変わったといいます。受刑者の中には、知的障害を抱えた人が少なくないこと、様々な生きづらさを抱えた人が罪を犯してしまっていることを感じたそうです。そこで、再犯を繰り返してしまう負のサイクルを止めるための「共生社会を創る愛の基金」、少女たちのSOSに応えるための「若草プロジェクト」を始められます。

村木先生は、なぜ、長期間に渡る拘留と裁判に耐えることができたのでしょうか?村木先生は、一つには200%信じてくれる家族と、友人、職場の人がいたこと。二つ目に優秀な弁護士に恵まれたことが大きいと話されていました。それともう一つ、人に大きな力を与えてくれるものがあるといいます。それは、誰かのために、頑張ろうと思うことです。村木先生は、起訴が決まったとき、ご自身の娘さん達のことを思ったそうです。「母として、頑張れない姿は見せられない。」そう思ったことで、つらいときも踏ん張ることができたといいます。

村木先生のご経験とその後の思いや活動を聞いたことで、「過去は変えられないけれど、その経験を自分の中でどう位置付けるのかは自分次第」であると強く感じました。講演前、「あきらめない」というタイトルでご講演くださる村木先生は、鉄のように強い女性であるのかと想像していましたが、実際には違いました。好奇心と、どんな状況下にあってもそれを楽しむ余裕を持ち合わせた、しなやかな女性です。好奇心に加えて、経験と気分転換、食べて寝ることができれば、困難にあったときに助けになるとも教えてくださりました。私も、一つ一つの経験から自分なりの学びを発見し、ポジティブに前へ進んでいきたいと思いました。

国際関係学科3年 おいも

コメントシートより

  • 苦しい状況の人に必要なものは、「安心できる居場所」と「味方」「誇り」であるとわかった
  • ニュースや新聞というのは、ほんの一部分の情報にしかすぎず、必ずしも真実ではないのだと思った
  • 社会科で制度として学んだことが、現実にはどのように使われているのか、動いているのか知らなかったので、驚くことばかりだった
  • 私は、’’悪あがき’’とは言わないが、ねばることはあまりかっこよくないと思っていた。けれどお話を聞き、あきらめることの方が、よっぽどかっこ悪いと思った。私も、これから誇りを持って必死に頑張りたい
  • 国民ならば、国の仕組みを知っておくこと、それがおかしければ国民全体で改善していくことが大切であると思った
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