第5回 学生スタッフレポート

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『自己肯定』とあなたの可能性

吉野 なお 氏(プラスサイズモデル)

「あなたは自分のことが好きですか?大切にしていますか?」大きな会場に向かって一言、そう問いかけたのは、吉野なおさん。 プラスサイズモデルという華々しいお仕事を務めている吉野さんは、その輝かしい今からは想像もつかない過去を抱えています。吉野さんは「摂食障害」を経験していたのです。今日は、吉野さんの現在に至るまでについて、お話ししていただきました。

吉野さんは幼少期の頃から、標準よりもぽっちゃりとした自分の体型についてコンプレックスを抱えていました。その体型について、友達や、時には顔見知りですらない人からも、傷つくような言葉を投げかけられたこともありました。思春期になり、恋人ができてから、状況が大きく変わりました。交際相手に体重の減量を求められた吉野さんは、過度のダイエットに走ってしまいます。これが吉野さんの摂食障害の始まりでした。痩せることに幸せを見出し、拒食によるダイエット、過食によるリバウンドを繰り返し、世でいう”フツウ”の食事がわからなくなり、自己嫌悪はどんどん強まり、心もますます不安定になりました。

この頃の吉野さんは、”心に穴が空いている感じ”がしていたそうです。その原因は「自分を変えなければ愛されない」という思い込みがあったからだと振り返ります。家族や友達によって表される愛情や思いやりにうまく気づくことができなかったのです。ダイエットのことを頭で考えて摂る食事では、体と心が栄養不足になり、吉野さんは常にイラつきを覚え、過食になっていきました。

自分が摂食障害であることに気づいてから吉野さんは、本やインターネットで、拒食について調べたり、クリニックに行ってみたり、沢山考え、沢山悩んだそうです。しかし、はっきりとした答えは見つからず、吉野さんは自己嫌悪になって人を避け、引きこもって生活していた時もありました。

摂食障害とは、体重や容姿に対するこだわりといった心理的背景や、痩せていることを美しいとする社会的価値観、その他にも家庭環境や人間関係が原因となっていることが多いそうです。人前では笑顔でいたり、全て自分の責任だと思い込んで症状を隠したりすることから、第三者が気がつきにくく、患者が一人で悩んでしまうことが多いのです。

しかし、吉野さんが芸能関係者の写真の顔をトリミングするお仕事をしていた時に「世の中には様々な人がいる」ということに気がつきます。この世の中で誰1人として同じ人はいない。そうであるから、憧れの「誰か」になりたがるのも、自分の体型を一生涯気にし続けることも、実はとてもおかしなことである。「太っていることが自分である」と、この世の中で、他に存在しないたった一人である、という自分のアイデンティティに気づきました。

吉野さんはその時から自分の心の声に耳を傾けられるようになったとおっしゃいます。食事を「頭」で考えたルールに縛って摂るのではなく、「心」で考えて摂るようになりました。0か100かではなく、食事の量の加減がわかるようになりました。その結果「おいしい」という気持ちと、望み通りの食事をしたという達成感で、心と体が満足するようになりました。自己肯定が出来るようになり、自分を大切に思うようになりました。自分に向けられた愛情を感じ取ることができるようになりました。そして最終的に、今、モデルという、自分を世の中に、自信を持って発信してゆくお仕事につかれているのです。雑誌の中で、全てを包み込むような優しい笑顔を振りまく吉野さんは、とっても魅力的です。

「自分の心を大切にするうちに、関わる人や、周りの環境も変わっていった。」と吉野さんはおっしゃいます。人に出会った数だけ成長があり、良くも悪くも自分を作り上げていくことができるのです。また、メディアや環境によって、無意識に私たちの中に植え付けられた「当たり前の価値観」はいつでもどこでも通用するものではありません。それゆえに、社会と自分の間にクッションを作り、「当たり前」から一歩引いて考えることが出来る必要があると吉野さんはおっしゃいます。

また吉野さんは、これからを生きて行く私たちに、例え他人から否定されたとしても、「自分は必ず一度は、生きていることを肯定された事がある。」という事実を忘れないでいるべきだということ、また、完璧を求めるのではなく、自分や他人の長所と短所を認めること、という未来への心のコンパスを示してくださいました。

心の声を大切にする。そして自分の中の愛に気づく。そして自分に「大丈夫だよ」と声をかける。また、「自分で体験すること」が人生の一番のヒントになります。だからたくさんの人や物事との経験を積む。そうする事で、可能性や未来は、私たちが想像する以上のものだったりするのです。

「あなたは自分のことが好きですか?大切にしていますか?」

吉野さんの今回の講演を通して、会場の聴講者は、最初の問いかけについてしっかりと向き合うきっかけを得たのではないでしょうか。

英文学科1年 ジジ

コメントシートより

  • 今日の社会は、痩せている女性が美しいというステレオタイプがある中で、太っている自分を受け入れ、そんな自分を好きになるということは、難しいことだと思います。しかし吉野さんが、自分を肯定し、他人の愛情に気づけるというのは、素敵なことだと思いました。私も吉野さんのように自分の心の声に耳を傾け、他者を大切に出来るようになりたいです。
  • 私は自分の体型について悩んだことは無く、ダイエットもしたことがありませんでした。しかし、吉野さんと同じように自分を好きでいたこともありません。なので吉野さんときっかけは違うけれども、少しづつコンプレックスを認めていけたらいいな、と思いました。
  • 自分は思春期、自分とは何なのかということについて悩みました。しかし、誰一人と完璧な人間はいません。自分に寛容になり、本当の心の声を大切にすることで、関わる人や、環境や物事も変わるという事に非常に納得しました。
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