第4回 学生スタッフレポート

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今を生きる〜しなやかな武士道〜

宮内 美樹 氏(観世流シテ方能楽師)

こんにちは。

5月17「総合2018」第5回は、宮内美樹さんに講演していただきました。

宮内さんは、津田塾大学国際関係学科を卒業された後、科学技術庁に入庁されました。お仕事をされる中で、能を観る機会が偶然あり、能に興味を持たれたそうです。

黒い袴姿の宮内さんによる1分間の舞で、講演は始まりました。この舞は、能の演目の一部を演じるもので、「お仕舞(おしまい)」と呼ばれています。宮内さんの身体の底から発せられる低い声は、会場に反響し、私たちは能の世界に引き込まれました。特別教室の舞台が、まるで国立能楽堂のように感じられました。

宮内さんが初めて能を観た時、能の良さが全く理解できなかったそうです。時間を無駄にしてしまったと思われた宮内さんでしたが、「こんなにつまらないものが、700年も続いているのには特別な理由がある」と思い、翌日から能を習い始めました。お仕事をしながら、能の稽古に励みましたが、初舞台で大失敗をしてしまったそうです。緊張のあまり、舞台上で2分間立ち尽くし、舞台から引きずり降ろされてしまいました。この経験により、能の本質を理解するためには片手間ではできないと感じ、多くの人の反対を押し切ってプロになることを決意されました。

宮内さんは能の奥底に眠る、その真髄を知るために師匠の家に住み込み、8年間の修行をしました。修行中は師匠の期待に背くことなく、師匠が何を考えているのかを掴むために、自我を抑える努力をしたそうです。プロの能楽師になるという強い気持ちを持ち続け、師匠の思いを察し、行動するという姿が、素敵だと思いました。

能のポリシーは「一期一会・気合いを入れる」です。緊張感を持って、演じることができるよう、本番前のリハーサルは1回のみ。この1回のリハーサルに、「気合い」を入れて挑むそうです。「気合い」とは、舞台上の演者と五人囃子が心を一つにして、全力で演目に取り組むというものです。手を抜いてしまうと、舞台上の空気が乱れ、その演目は失敗に終わります。舞台を成功させるためには、お客様とは一生に一度の出会いであると心得て、全員の気を合わせる必要があります。能に取り組むということは、心身を追い込み、心身鍛錬をするということなのです。

宮内さんの「能には、縄文時代から現在に至るまでに培われた、価値観・感性・歴史観・道徳が含まれています。そのため、能を観るということは、自分の中で長い歴史を反芻することなのです。」という言葉が、とても印象的でした。江戸時代までは庶民も楽しむことができた能ですが、江戸時代からは「式楽(しきがく)」として、格式高いものとなったそうです。そのため、時代ごとの変化が能にはあると思います。私は、長い歴史の変遷を表現している能に、魅力を感じました。

今回の講演のサブタイトルに「しなやかな武士道」という言葉があります。武士道とは一体何でしょうか?講演前の私は、武士道とは、自らが生きるために敵を倒していく、勝利のために自我を貫き通すものであると思っていました。しかし講演後には、武士道とは「いかにして自他ともに生かすことができるか?自分がどのように動けば、周囲の人の助けになるのか、常に気配りをするものである」ということを学びました。

私は、これからの世の中を生きていくためには、自我を貫くことが大切であると思っていました。しかし、他者の意向を忖度し、自分の行動を決めていくことの大切さを知ることができました。自分の中の根底には、自我を持ちながらも、時と場合により相手に同化する。この術が「今を生きる」というタイトルにつながるのだと感じました。

英文学科1年 ブドリ

コメントシートより

  • 能に反映されている、日本古来の価値観や感性は現代にも通じるということを知った。
  • 今を生きるための武士道とは、あえて争いを避けることだという言葉が印象的であった。
  • 他者との対話や交流を円滑に進めるためには、自己を認識する必要があると分かった。
  • 恐れずに、新しい世界に踏み出す大切さを知った。安定ではなく、関心や興味があることを追及していく姿勢が素敵だと思った。
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