野口 啓子 教授

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野口 啓子先生 野口 啓子先生

研究テーマ/授業名

ハリエット・ビーチャー・ストーの『アンクル・トムの小屋』を中心とした、19世紀中葉のアメリカにおける反奴隷制文学の研究 / アメリカ小説

高校生へのメッセージ

「文学って何の役にたつの?」という人が多いかもしれません。たしかに、文学は私たちが抱える問題に正解を出してくれるわけではありません。でも、文学はちょっと苦手という人も、『赤毛のアン』や『若草物語』を読んで、型にはめられた教育や社会常識に反発するヒロインに、「そうそう」と一度ならずも共感した経験があるのではないでしょうか。文学は自分の中に眠っていた言葉にならない思いや考えを明確にしてくれたり、自分とは異なる考えを持つ人との出会いにより「広い広い世界」に目を開かせてくれたりします。たくさんの良い本に出会い、たくさんの発見と驚きを経験し、皆さんの世界を豊かに広げていってほしいと思います。

私の研究

ハリエット・ビーチャー・ストーという作家をご存知でしょうか。アメリカが奴隷制をめぐり揺れていた19世紀なかばに、『アンクル・トムの小屋』(1852年)という小説で奴隷制反対を訴え、時の大統領リンカーンをして「それではこの小さなご婦人が今度の大戦(南北戦争)を起こされた方ですか」と言わしめたことで有名です。リンカーンが実際このような言葉でストーを出迎えたかどうかは、定かではありませんが、この伝説的な言葉は、『アンクル・トムの小屋』が当時のアメリカ社会におよぼした影響の大きさを物語っています。この本は、発売と同時に全米にセンセーションを巻き起こし、19世紀をとおして聖書につぐ大ベストセラーとなりましたが、20世紀になると、家庭からも教室からも消えていき、お涙頂戴ものの政治的プロパガンダにすぎないとみなされるようになりました。再評価には、1970年代、80年代の女性作家見直しの動きを待たねばなりませんでした。

このような『アンクル・トムの小屋』の評価をめぐる変化の背景に何があるでしょうか。これを理解するためには、とりわけ、現代の読者には見えにくい、19世紀アメリカ社会の諸相を探らなければなりません。当時の奴隷制をめぐる南北対立や人種問題は言うまでもなく、女性がおかれていた立場や、キリスト教的価値観を基盤とする感傷小説の特徴など、実に様々なことが探求テーマとして浮上してきます。女性が政治について語ることがタブー視されていた時代に、ストーはどのような戦略を用いて奴隷制について訴えたのか、どのような工夫により小説としての面白さを作り上げ、読者を惹きつけたのか等々、興味はつきません。
『アンクル・トムの小屋』に関する論文集
『アンクル・トムの小屋』に関する論文集
奴隷のオークション(1852年版の挿絵)
奴隷のオークション(1852年版の挿絵)
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