2023年度「津田梅子賞」受賞者

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本学創立110周年を記念し創設した「津田梅子賞」は、今年で13回目を迎え、 全国からご推薦をいただきました。
選考の結果、今年度の受賞者は次の方に決定いたしました。

若宮 正子 氏(ITエヴァンジェリスト)

 この度は思いもかけず私のようなアカデミックな世界とおよそ無縁な人間が、津田梅子賞というすごい賞を頂戴することとなり誠にまことに光栄です。 心より厚く御礼申し上げます。有難く頂戴いたします。

 すでに、88歳ではありますが、これからの残りの人生で少しでも足らざる部分を補完すべく自分自身のバージョンアップに日々励みつつ、ライフワークである「高齢の方のデジタル化のお手伝い」の仕事に励んでまいる所存でございます。みなさまどうぞよろしくお願い申し上げます。

受賞者紹介

 1935年、東京都出身。1954年、東京教育大学附属高等学校を卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に勤務。当時、女性としては珍しい管理職に就任し、定年時には関連会社の副部長にまで昇進した。58歳から当時普及し始めていたパソコンを独学で習得。 2017年には81歳でスマートフォン向けアプリ「hinadan」を開発し、「世界最高齢のアプリ開発者」として世界で話題となる。同年にアップル社が開催した世界開発者会議「WWDC2017」に招かれた。エクセルアートの創始者としても知られている。
 
 2018年には国際連合社会開発委員会で「高齢化社会とデジタル技術の活用」をテーマに英語で基調講演を行う。また、内閣府が主催した「人生100年時代構想会議」にも82歳の最年長メンバーとして参加。2021年にはデジタル庁デジタル社会構想会議構成員に就任した。現在は「岸田首相主催・デジタル田園都市国家構想実現会議構成員」。

 88歳の現在、全国各地での講演会活動を積極的に行っている。講演会のアンケートでは、「元気をもらった」「いくつになっても人は成長できると思った」など、聴衆を勇気づける内容となっている。  

 このようなグローバルなシニア世代のITエヴァンジェリストとしての活躍もさることながら、当時では珍しいとされた金融界での女性管理職に就任した実績や、女性のライフコースの中から独学でデジタル分野を切り拓いたことからも明らかなように、年齢や性別を理由に限界を決めることなく、常に好奇心を持って新しいことに挑戦するマインドは評価に値する。よって、氏はシニア世代のロールモデルとしてだけではなく人生100年時代を生きるすべての人への影響は大きいため、女性の可能性を広げる取り組みを行い、先駆的な活動を展開した女性を顕彰する津田梅子賞に相応しいと考える。

2023年度津田梅子賞贈賞式

 2023年10月8日(日)、津田梅子記念会&ホームカミングデーの中で津田梅子賞の贈賞式が行われました。 
津田梅子賞贈賞式の様子
受賞者・若宮正子氏によるスピーチ

贈賞式でのスピーチ

  この度は「津田梅子賞」という、誠に素晴らしい賞を頂戴しましたことを心より光栄に存じております。私のようなものがこんな賞をいただいていいのかしらと思いましたが、これから残りの人生で、すこしずつ成長して、津田梅子先生に、先に受賞された皆様に少しでも近づけるよう精進してまいる所存でございます。そのためにも、まずは生きている限り「ITエバンジェリスト」としてのミッションを遂行していきたいと思います。

 「デジタル化なんかしなくてもいい」というご意見もあると思います。しかし、デジタルや広くテクノロジー全般に頼ることなく、当面は続くと思われます高齢化率の上昇に対処していくのはむつかしいと思います。というより、もうすでに厳しい人手不足に直面しているわけですから待ったなしの課題と言えると思います。 また、日本はデジタル敗戦をしてしまったといわれていますが、確かに他国と比較して、日本の国民のITリテラシーは低く、中でも高齢者のITリテラシーの低さが目立ちます。これは様々な統計を見ましてもまぎれもない事実です。デジタル化の遅れは、国民の日常生活面だけでなく、産業、経済面での遅れにもつながっているなど、あらゆるところへ影響を及ぼしていると思います。日本の場合、ビジネスの世界でも、いまだ年功序列の弊害から脱出できておらず企業のリーダーが高齢化しており、これが「企業のDX化」が進まない原因の一つにもなっていると言われております。企業の旗振役の上層部もDX推進に反対ではないのですが、あまりデジタルの世界についての知識に自信がないのでどうしても旗の振り方が弱くなっているのではないかと思います。

 次に、高齢者の側から、これを見ますと、そもそもデジタル社会というものは、「若者による」「若者のための」デジタル社会を、高齢者の心身の状況、ライフスタイルなどお構いなしに一方的に押し付けられていると思えてしまいます。さらに「デジタル化」が導く世界は必ずしも「高齢者にとって楽しい世界」ではないのです。今の街は、コンビニなども機械化が進み「機械に商品についているバーコードを読ませ、パネルに示された指示に従って支払い手続きをして商品を持ち帰る」だけの世界です。駅でもみどりの窓口は閉鎖され座席指定券なども機械でしか買えません。「コロナ禍」の最中同様「今日も誰とも口を利く機会がなかった」ということになっています。 もちろん、自治体などでも高齢者向けのスマホ講習等は行っております。しかし、受講後も高齢者にデジタルライフが定着化、日常化していないことが問題なのです。

 というわけで、いまの状況そのままでは、高齢者にデジタル社会の楽しさ、利便性を、必要性を理解してもらうのは大変です。対策のひとつとしては、昨今、急に身近な存在となったAIの活躍に期待できると思います。AIの生成機能が、デジタル機器の面倒な操作手順に煩わされることなく使えるようにしてくれたことにあると思います。また、AIの活用で、高齢者がデジタルを楽しめる可能性も見えてきました。もちろん、いまだAIの世界には解決しなくてはならないことが数多くあります。これについてはしかるべき対策が必要と思います。

 さらにデジタル化が産んだ「孤独解消」について申し上げますと町へ出ても、ひととの交流ができないのであれば、定期的に地域の公民館やカフェ等を利用した「交流広場」を作って老若男女が相互交流できるような環境を用意しては如何でしょうか。さらにネットの上での交流を楽しんではいかがでしょう。私が設立発起人のひとりであり、理事の一人もあります一般社団法人メロウ俱楽部はインタネット上に展開している高齢者の交流サイトです。ここでは会員による自主運営を行っておりますが、活発でレベルも高く会員もよく勉強をしております。そして何よりも楽しんでおります。「仲間がいること」「楽しいこと」が高齢者の成長意欲を育てるのだと実感します。

 これらの活動を通じて得たものを、今後も高齢者のITリテラシー向上のためにお役仕立てられればと思っております。そして、我々オトナがITと付き合ううえで大事なことは、単なる「知識のカケラの収集」ではない、新しい知識を集め、これを我々の「精神的資産」と合わせて熟成させて発酵させて初めて生まれてくる「叡智」とか「智慧」というものを生み出すことが求められていると思います。これがなくては、AIに手伝ってもらいながら地球上のいろいろな問題の解決に当たれないのではないかと思います。また、88年間、激動の時代を人間として生かせていただいた私たちの体験を、少しでも後世へ残していくことも大切なミッションと思っております。特に戦争を体験した人間として、ぜひ遺したいものをアーカイブすることも私も理事の一人であるメロウ俱楽部でやっておりますが、これもおろそかにできないと思います。

 最後に、重ねて受賞の御礼を申し上げるとともに、お集り頂きました皆様のご健勝を心よりお祈り申し上げます。
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