第25回 学生スタッフレポート

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コミュニケーションの進化とコロナ後の社会

山極 壽一 氏(総合地球環境学研究所 所長)

みなさんこんにちは!第25回の講演では、「ゴリラ研究」に力を注いでいる山極壽一さんにお越しいただきました。みなさんはゴリラという動物についてどれくらいのことを知っていますか?きっと動物園で見たことはあっても、深く考えたことのある人は少ないと思います。山極さんは、ゴリラの研究を通して人間の文化や言葉について考えていらっしゃる方であり、今回は山極さんのユニークな考え方に触れることができた講演になったのではないかと思います。

今回の講演の中で最も印象に残ったのは、コミュニケーションの進化についてのお話です。山極さんはまず、進化についての話題を交えながら、集団規模とコミュニケーションの関係についてお話してくださいました。山極さんによると、10-15人の集団は共鳴集団といって、身体が共鳴して一つの動きをとる言葉がいらない集団規模だそうです。これはゴリラの集団やスポーツのチームが例として挙げられます。30-50人は顔と性格を熟知して行動することができる規模であり、学校のクラスが当てはまります。そして、100-150人の集団は、お互いの顔と名前がある程度一致し、信頼できる仲間がいる規模だと言われているそうです。

山極さんは人間とゴリラの脳の発達の違いについてもお話してくださったのですが、現代人の脳のサイズは100-150人の集団で暮らすのに適しているそうです。この規模の集団になると身体を使った身振り手振り以外の指標が必要となってくるため、言葉が登場してきます。逆に言えば100人くらいからは言葉がないとコミュニケーションが難しいということで、確かにクラスメイトやスポーツをする際のチームでは必ずしも全てに言葉が必要というわけではありませんが、100人以上となると全体に呼びかけるために言葉が必要だなと感じます。

また、言葉以外にも人間が持っているコミュニケーション方法があり、その中でも目の動きから感情を読み取っているというお話が面白かったです。実は霊長類の中で人間だけが「白目」が白い状態で、このおかげで私たちは微細な目の動きを見て気持ちを読み取っているのだそうです。言葉や目を使ってのコミュニケーションは当たり前になりすぎていて意識することはあまりありませんが、ゴリラのように人間に近いけれども異なる動物と比べることで分かることが多くあり、とても興味深く感じました。

お話の中では、コロナ禍のことも話題に上がりました。コロナウイルスの流行によって、私たちはコミュニケーションの形を大きく変えることになりましたが、それ以前から変化してきたものもあると思います。ゴリラと比較する中で見えてくる人間は、言葉を持つ以前は音楽的コミュニケーションという方法を使用して、共感能力を高めてきたそうです。しかし、現代ではSNSやチャットなど、対面で会わなくても文字で情報を共有するインターネットの世界が構築されています。便利になった面もあれば、人間本来のコミュニケーション方法を忘れてきている面もあるかもしれません。山極さんのお話を聴く中で、集団が大きくなるにつれて言葉が必要になってくること、言葉以外のコミュニケーション方法もあることなど、人間以外の動物の研究を通して、人間だけが持っている魅力や、進化の過程で忘れ去られてきたものあるのだと分かりました。

1年間の講演を受講する中で、受講生たちはさまざまな「枠」を通して自分のことについて考えてきたと思います。自分自身について考える中で「他者」という枠を通して見ることは多くても、「ゴリラ」といった身近にはいない動物の枠から自分自身や人間社会について考えることはなかなかないのではないでしょうか。今回の講演を通して、自分のことを考えるうえでの新しい視点が加われば嬉しいです。
国際関係学科1年 ひまわり
国際関係学科4年 すみれ

コメントシートより

  • ゴリラの研究を通して、私たちが生まれながらにして持っている優しさに気づくことができました。コロナ禍を通して私たちの社交関係はより希薄なものとなり、未来を生きていくためにはより強力な信頼関係に気づきあうことが大切だということも学ぶことができました。
  • 人間について考える際、ゴリラを見るという発想が私の中では新鮮でしたが、その研究の仕方があることを学びました。そこから人間のコミュニケーションなどについて膨らんでいくことなども驚くと同時に学びになりました。
  • 文化が無国籍化していくことで、格差が目立ってきてしまっているということが印象に残った。今後、ますます情報社会が発達し、様々な文化が共有されることでこれは進行し続けると考える。文化が無国籍化することで、その国の特徴も失われてしまい、また格差もより際立ってしまうのではないかと気がつきました。
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